恐怖のブラックフライデー


〇アメリカには何名も死者を出したバーゲンセールがあり、今も続いている。



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感謝祭の翌日の金曜日にブラックフライデーというセールがある。

日本でも少しづつ広まりつつあると聞いた。


クリスマスは日本ですっかり定着し、ハロウイーンもかなり知られてきた。

でもブラックフライデーは上陸しなくてもいいかもしれない。


初めてその名前を聞いたのは20年前アイダホにいた時だった。

アメリカ人の友人に(ブラックフライデーセール)に誘われた。


「タミイ、買い物好き?」

「大好き!」

「ブラックフライデー行く?」

「え?聞いたことない」

「えええ~アメリカで一番大きいセールだよ!一緒に行く?」

「行こうかな?何時に行くの?」

「4時に迎えにいく」

「OK イブニングよね?」

!!」


オコラレタ。今でもモーニングよ!!と言ったその顔を思い出す。

びっくりしてお断りして午後から出かけたけど、それでも人出は凄かった。

そして笑うほど安かった。


それからブラックフライデーのとりこになった。数年前まで毎年参戦していた。


やめた理由は毎年どこかでけが人や死者が出るようになってきたからだ。

正確には現在までに死者12名 怪我人117名だ。


殴り合い、ののしり合いはもはや普通のことになった。


オープンも朝5時からが4時になり2時になり、ついに真夜中になった。


ドアが開く前から長蛇の列。オープンの瞬間になだれ込む人の群れ。


この群れに押しつぶされて2008年にウォルマートの従業員が亡くなった。それが最初の被害者だった。


私が暮らしていたLAでは2011年に店内でペッパースプレーをまき散らした女もいた。これは防衛用の唐辛子の粉で20名ものけが人が出た。


この頃はまだセールに参戦していて、危険な目には合わなかったけれど、つかみ合ったり、どつきあったりは見た。ファックユー(ご存知使っちゃいけない言葉)も何回も聞いた。まあLAではよく聞く言葉だけど。


オハイオでも初めてのブラックフライデーの日に参戦してみた。実は「オハイオは人も少ないし大したことないんじゃないの?」とカリフォルニアで戦った経験のある私はバカにしていた。


大変な大間違いだった。


真夜中のウォルマートには何万人もの人であふれかえっていた。


ずるい。

そんなに人いないじゃん。

どこに住んでるの?


そしてオハイオの人やはりセールに慣れていなかった。


あちこちから「助けて~」と声が聞こえる。


私も人の波にさらわれた。動けないまま進んでいく。夫からどんどん遠ざかる。


「た~すけて~」と言いつつもお目あてのタオル売り場の前に来たので、なんとか人ごみを抜けて時間まで待つことにした(15分おきくらいにセールが始まる)


ドキドキする。あと5秒 4,3,2,1……


時間になった!!その瞬間ドーンとどつかれ何千本もの腕が伸びて棚いっぱいのタオルは一瞬でなくなっていった。


LAだったらここで「てめえビッチ!」と殴り合いが始まるところだけど、さすがにオハイオは品が良かった。


「おーロード(神様)皆アニマルだわ」隣に立っていた女性が言った。


こんなに品の良い罵倒語初めて聞いた。


それ以来なにかというと家で They are ANIMALS…と、震え声でその時の口真似をしてるのだが(やめなさい)実は私も本当に怖かった。


それ以来、出かけるのはやめた。そのかわりオンラインで参戦している。こちらもどんどん時間が早くなり感謝祭当日の夕方6時から、なんてこともある。


まだターキーとかでっかいハムを焼いている最中なのに「あ、ちょっと待って売り切れちゃう」と料理を放り出してネットに張り付いているのだった。







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