第15話 ボタンインコと婚活本の出版

「ボタンインコを飼おう」

ひよこさんが突然言い出したのが、2015年春のことでした。


私はその当時、書籍を出版するために奔走をしている時期でした。

企画書を作ったり、プレゼンの練習をしたりなどいろいろ頑張っていました。

そこに、ボタンインコ・・・。


特徴を簡単に言うと、

ボタンインコはセキセイインコより一回り大きく、声は100倍でかいです。

私はYouTubeで毎日配信をしていますが時々声が入りまして、コメントに「インコうるせえ」と書かれてしまう始末でして・・・。気性はあらめ・・・。すみません。


「この時期にか〜」と思いながら、ボタンインコを飼うことになりました。

ひよこさんが選んだインコを受け取ったあと、スタッフにある重大なことを言われました。


「この子、かなり気難しいのでご飯を食べないかもしれません」

「ふぁ?!」

「環境が変わるとすねて食べなくなる可能性があるんです」


ーーおい、お金を払った後でなんてことを言うねん・・・


「よく食べますように」という祈りを込めて「食う太郎」という名前をつけました。

(だからくーちゃんと呼んでいます)



翌日から、離乳食をお湯でふやかし、指であげるという日々が始まりました。

指を持って行くと、「ぷい」と横を向きます。

まじで、食べませんでした。名前を見事に裏切りましたね。


時間をかけて無理やり指を口に近づけるんだけれども

少ししか食べず・・・。真っ赤なクチバシに餌がへばりついていくのが何とも悲しく。


一日3時間以上餌やりの日々が続きました。


こちらの献身的な思いとはうらはらに、くーちゃんの体重はどんどん減っていきました。


一方で出版準備のための書類が机の上に積み上がっているのに、えさやりで何にも手がつきません。ひよこさんは出勤しているため何もできず、まさにワンオペ育児。


ーーおい、このインコ、鬼すぎんか?


私はもうこりゃあかんと思って、くーちゃんのペットショップに連絡をしました。

そして、担当の人に変わってもらいました。


「あー、やっぱり食べませんでしたか」

「もう1週間経っても食べないんですけど、まさかこんなことってあるんですか」

「そうですね・・・」

「食べないとどうなりますか」

「そうですね・・・」

「死ぬよね、これ絶対死ぬよね!」


私はめっちゃ焦っていました。


「あの、もしかしたらなんですけど・・・」

「なんですか」


彼女はとても言いにくそうにしぶりました。

「あの、なんでもいいので教えてください」

「わかりました」


変な間があった後、彼女は口を開きました。

「なんだか口が汚れるのが嫌いな子でした。

 もしかしたら大人の乾いたえさなら食べるかもしれません」

「は? まだ生後1ヶ月ですよね? 大丈夫なんですか」

「あんまり大丈夫じゃないんですけど、食べないよりはましかと・・・」

「わっかりました!」


そういって電話を切り、私はインコの餌が売っているお店にダッシュしました。

家から10分のところにあったので、そこで一番安い餌を買いました。


離乳食の3分の1ぐらいの値段の、皮付きの種がいっぱい入った雑な餌です。

それをおさらに入れて、くーちゃんの目の前に持って行きました。


バークバクバクバク〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!


今まで弱っていたインコがいきなりすごい勢いで食べ始めました。

餌箱に顔突っ込んだまま死んでしまうんじゃないかと思うぐらいむさぼっていました。


ーー結局口が汚れるのがいやで食べないという、かなり強情なインコであることが判明しました・・・。汚れるぐらいなら死を選ぶってどんな美意識やねん。


赤ちゃんのくせに胃腸もたいそう丈夫で、何ごともなくスクスクと成長をはじめました。


こうして、一日3〜4時間かかるえさやりから解放され、翌年無事に婚活本が出版されましたとさ。


※かんき出版「となりの婚活女子は、今日も迷走中」はこうやって出版されました。



以上!





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