第30話 ララとユニコーン その2

「もしかしたらさっきのはユニコーンの仔馬だったのかなー?」

 そんなことをつぶやくララに向けて、ひときわ大きな個体が先頭で突っ込んでくる。


 全身に魔力を漲らせ、通常の馬の数倍の速さで突っ込んでくる。

 大きな蹄は熊の頭蓋骨すら砕き、魔力を帯びた角は岩をも貫くだろう。

 だが、狙いはララの肩に乗っているケロである。

 狙いがわかれば、どうとでもなる。


「ほいっと」

 ララはユニコーンの突進を、正面で受け止める。

 左手で角を掴んで止めたのだ。そして右手で角を切断した。


「hiii……」

 途端に大きな個体は大人しくなる。

 だが、残りの九頭の勢いは止まらない。


「「HiiiiiiiiiHUOOOOOOOOO」」


 嘶きながら、一心不乱に突撃してくる。

 その姿はさながら狂戦士バーサーカーのようだ。


「ほい。ほい。ほいほい」


 ララはひょいひょいとユニコーンの強力な突進を躱す。

 そしてかわしざまに角を落としていく。

 あっというまに全頭の角を落とし終わる。


「hii…………」

 角を落とされたユニコーンはさっきまでの狂戦士ぶりが嘘のように大人しくなる。


「みんなしばらく大人しくしとくんだよ」

「hiii……」

「少なくとも生態系が回復するまではね」


 周囲の生き物が全滅すれば、ユニコーンたちも生きてはいけない。


 ユニコーンは馬のような外見ながら、肉食だったりするのである。

 そして、雄しかいない。

 別種族の雌、それも処女をはらませて子孫を作る。

 恐ろしい種族だ。


「仔馬を残して泉から離れてたってことは、遠くにご飯を調達しに行ってたんでしょう?」

「hiii……」


 食べない獣は殺さなければいい。

 そうすればユニコーンたちも困ることは無い。

 だが、角が伸び狂戦士と化したユニコーンは食事よりも殺戮を優先する。


 だからユニコーンは絶滅しやすい種族でもあるのだ。

 通常の生物と異なり、群れが大きくなればなるほど絶滅しやすさは上がる。


「もう、君たちはどうしようもないんだから」

 ララはユニコーンに説教する。


「hiin……」

 ユニコーンたちは、しょんぼりしながら黙って聞いていた。


「角はもらっていくね。あと尻尾と鬣の毛も」

 ララはユニコーンの角と尻尾、鬣の毛を回収していく。

 その間、ずっとユニコーンは大人しかった。


 尻尾と鬣を回収しているとき、ララは気付いた。


「あれ? これはダニだね」

 それは魔熊を蝕んでいたのと同じ魔ダニだった。


 ララは改めてユニコーンたちにダニがついていないか一頭ずつ調べなおす。


「みんなついてるねー」

「hin……」

「しかも結構大きいし……」


 魔熊についていたほど、大きな魔ダニではない。

 それでもウズラの卵ぐらいの大きさはあった。


「一頭につき三匹ずつぐらいついているね」

「hi……」

 ユニコーンたちはララにされるがまま、大人しくしている。


「角と尻尾と鬣の毛をもらったお礼に、ダニ落とししてあげるね」

 そういって、ララは先ほど瓶に詰めた薬を取り出す。


「保管しておいてよかった~」

 瓶から薬を取り出して、練ってから魔法で火をつける。

 すぐにモクモクと煙が出始める


「なんかさっきより煙の出がいいかも。少し置いた方がいいのかなー?」


 そんなこと検証しながら、ララはユニコーンを煙でいぶしていく。

 ユニコーンは相変わらず大人しい。煙の中でじっとしていた。

 そして魔ダニが、ぽろぽろと地面に落ちた。


 それからララは再びユニコーンたちの体を調べてダニがついていないかする。


「うん、いないね」

 それからすぐに先ほど作って瓶詰しておいたアンチドーテを取り出した。

 順番に傷口へ塗ってから口の中に突っ込んでいった。


「これでよしっと」

「hi……」


 ユニコーンは、角を落とされてから、すっかり大人しくなっていた。

 だが、険しい表情で、息が荒かった。


 そんなユニコーンたちも、ララがダニ落としと治療を終えると安らかな表情になった。

 息も静かだ。


 それを見て、ララは満足げにうんうんと頷いた。


「やっぱり、このダニがついていると精神がすさむのかな」

 ララはダニの死骸を拾って魔法の鞄へと放り込んでいった。


「りゃあー」

「そうだね、血を吸われてだるくなるし、ずっと痛いし……」

 イライラしても仕方ないのかもしれない。

 とはいえ、魔熊もユニコーンも元から凶暴な魔獣ではあるのだが。


「さてさて、採集の続きを始めようね」

「りゃっりゃ」

「じゃあね。僕たちはもう行くけど、ユニコーンたちも平和に暮らすんだよ」

「hihihin……」


 すっかり大人しくなったユニコーンたちは泉のそばでゆったりと横になっている。

 平和そのものな光景だ。


 薬草採集を再開したララだったが、泉の周辺には貴重な薬草が沢山生えていた。


「すごい、大漁だよ」

「きゅっきゅ」


 ケロも嬉しそうに羽をパタパタさせる。


 ユニコーンがいたせいで草食動物が周辺からいなくなっていた。

 だから手付かずの薬草が残されたのだ。

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