第14話 真夜中の襲撃者

 薬草を採集したり、珍しい鉱石を拾ったりしているうちに夕方になった。


「……ここどこだろう?」

「りゃあ……」

 ララはやっと道に迷っていることに気が付いた。


「ま、迷子になった?」

 迷子になったら下手に動かない方がいい。

 元来た道がわかるなら、わかるところまで戻るべき。

 そういうセオリーはララも知っている。

 だが、そんな知識ではどうにもならないぐらいララたちは森の奥へと入りこんでいた。


「ま、いっか。明るくなったら道を探そうね!」

「りゃあああ」


 ララは大して気にすることもなく、ケロと一緒に夜ご飯を食べて寝ることにした。

 コカトリスの肉を焼いて食べて、毛布にくるまった。


 そうして真夜中。熟睡していたララは殺気を感じて目を覚ました。


「うわっと!」

「りゃああ!」

 ケロを抱きかかえたまま、飛び跳ねて躱す。


「ほう? 今の攻撃を避けるか。罠を破壊しただけあって、ただものではないらしい」

「おじさん誰?」


 ララたちに攻撃を仕掛けたのは、黒いフードとローブを身に着けた男だった。

 まがまがしい形の大きな杖を持っている。


「小娘。その竜をこちらに渡せ」

「リャッリャ!」

 ララの腕の中で、ケロが怯えたように震えながら鳴いている。


「いやだよ。おじさんがケロちゃんに罠を仕掛けたんだね?」

「ケロ? なんだそれは。まあいい。その竜は我が苦労して捕獲した個体だ」

「やっぱり。ケロちゃんは渡さないよ!」


 まだ子供のケロはララより弱い。守ってあげないといけない。

 そう考えてララは立ち向かうことにした。


 黒づくめの男が叫ぶ。

「ならば力づくで奪うまで!」


 夜闇の中、黒づくめの男は光魔法を発動させた。

 まばゆい閃光とともに光の熱線がララを襲う。


「まぶしいよ!」

 ララは、まるで虫を追い払うかのように、魔力をまとった右手で熱線を払いのけた。


「なん……だと……?」


 黒づくめの男は唖然とした。

 男はまったく油断していなかった。

 ララが壊したのは長い間かけて魔力を込めたトラバサミ。

 だから、自身の最高威力の魔法を奇襲気味に撃ち込んだのだ。


「我の最高威力の魔法を片手で……」


 男は雑魚魔導師ではない。闇の秘密結社の大幹部だ。

 冒険者ランクでいえば、Aランク相当の魔導師である。


 だというのに、ララが言う。

「おじさん、サーカスの人だね?」

「はあ?」

「だから、子供の竜のケロが欲しいんでしょう?」


 竜を子供のころに捕まえて芸を仕込めばサーカスで評判になるだろう。

 そうララは考えていた。


「ものすごくまぶしかったけど、花火かな?」

「何を言っている?」

「とぼけても無駄だよ! 花火を人に向けたら危ないでしょ!」

「ふざけるな!」


 男は剣を抜いて、身体能力を魔法で強化するとララに襲い掛かった。

 その動きは並みの剣士よりはるかに速く鋭い。

 だが、魔法の天才、ララにとってはお遊戯のようなもの。


「危ないでしょ!」

 刀身を素手でつかむ。


「貴様……。もはやこれまで……」


 黒づくめの男は覚悟を決めた。

 これほど強い者が、偶然居合わせるわけがない。

 目の前の少女は秘密結社を取り締まろうと国家から派遣された特殊部隊の人間だろう。

 ならば、捕らえられたあとに待っているのは過酷な拷問。

 そう誤解して、男は自爆しようとする。


「はい。そこまで」

 そう言って、黒づくめの男の首の後ろを叩いたのは近衛騎士。ララの護衛だ。

 黒づくめの男は一瞬で気を失って崩れ落ちた。


 通常、首を叩いたぐらいでは気絶しない。

 だが、護衛は近衛騎士であると同時に、汚れ仕事もいとわない特殊部隊の隊員でもある。

 特別な秘儀で手から首に魔力を流し込み、敵を気絶させるなどお手の物だ。


「おじさんだれ?」

「……えっと」


 騎士は少し考える。

 できる限りララに護衛がいることはばれない方がいい。


「おじさんはね。この男を追ってきた冒険者なんだ」


 そして騎士はうその説明をする。

 黒づくめの男は賞金を懸けられた悪い人で、騎士は賞金稼ぎという偽の説明だ。


「サーカスの人じゃなかったんだ」

「サ、サーカス? 違うよ」

「そうだったんだ」

「……この男は人さらいだよ。奴隷にして売り払うんだ」

「えっ? 怖い」


 人を攫うついでに、珍しい子供の竜であるケロも一緒に捕まえようとしたのかもしれない。

 ララはそう思った。


「人さらいだから私のことも売ろうとしていたのかも」

「可能性はあるかもな」

「だから攻撃があまかったのかもしれない」


 護衛の目から見れば、超絶威力の苛烈な攻撃だった。

 だが、護衛はララに話を合わせることにした。


「そうかもしれないね。君、名前は?」

「ララだよ?」

「おじさんはピエールと言うんだ」


 自己紹介を済ませると、ピエールは笑顔で言った。


「こいつを町に運びたいんだけど、手伝ってくれないかい?」

「いいよ! どこの町?」

「少し遠いんだが……。ガローネという街なんだ」

「あ、すごい! 私もガローネに向かっていたんだよ!」


 ピエールはララの目的地である隣国の王都の名前を告げる。

 あまりにもララが道に迷うので、ピエールは業を煮やしていたのだ。

 だから、身分を隠して同行することにした。


「そうか。奇遇だな。神の思し召しだろう」


 そう言ってピエールは、ほっとした表情でほほ笑んだ。

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