第七章:兄と妹と、妹と兄と/03

「外に待機させておいた連中を呼べ。無駄だとは思うが……一応、奴らを追わせろ」

 鳴り響く火災報知器のサイレン、降り始めたスプリンクラーの雨。降り注ぐそんな人工の雨に肩を濡らしながら、アールクヴィストは傍らに控えた三原にそう指示をする。

「分かった。デニス、ひとまず我々は避難を」

「ああ、そうだな。その方が良さそうだ」

 アールクヴィストの指示に三原が頷き了解し、続き彼にそう提言をする。

 これだけ派手に暴れ回ってしまった以上、彼ら同様に自分たちもこの場から離れた方が得策だ。今の限られた戦力でも、警察部隊ぐらいなら軽く蹴散らせるが……しかし、無駄な戦いと無駄なリスクは避けたいのがアールクヴィストの本音だ。

 だから三原が告げた提言は、そんな彼の意図を上手く汲み取ったものと言えよう。伊達に『スタビリティ』時代からの友というワケではないのだ。

「全く、折角のスーツがこれでは台無しだ。クリーニングは……この分では、難しいか」

「どうだろうな。俺には判断しかねるよ、デニス」

「…………まあいい。連中の顔を直に拝めただけでも、このパーティに出席した意義はあったというものだ。期せずして互いの顔見せになったというワケだな」

「違いない。……デニス、とにかく今は」

「ああ、急ぐとしよう」

 三原に頷き返し、アールクヴィストはフッと肩を揺らすと、スプリンクラーの雨に打たれながら副官の彼とともにパーティ会場を後にしていく。

 そうしてアールクヴィストと三原、無言で付き従う八雲が歩き出す傍ら、独り立ち尽くす青髪の彼女は――――シュヴェルトライテは独り、思っていた。

(いつか、こうなるかも知れないとは思ってた。でも……実際にこうして、イザ本当にあのと敵対してしまうのは、やっぱり辛いものがあるわね…………)

 だが、それでも容赦をするワケにはいかないのだ。例え相手が愛しい妹――――ジークルーネ。自分と同じ呪われた九姉妹、『プロイェクト・ヴァルキュリア』の落とし子である彼女が相手だとしても、それでもシュヴェルトライテは容赦をするワケにはいかないのだ。

 だって、マスターの命令に従うこと――――それだけが自分たちの、九人の戦乙女の名を冠した、自分たち九姉妹の唯一にして絶対の存在意義なのだから。





(第七章『兄と妹と、姉と妹と』了)

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