2番目に好きな人と結婚しました。〜2019 Dec.〜

ゆず 柚子湯

第0章 ただいま⇔おかえり

お風呂にする?ご飯にする?それとも・・・


「ただいま」


「おかえり」


 無機質で淡白な挨拶が、少し狭いダイニングに響いた。

 寒風で冷え切った身体がだんだんと沁みるように温まっていく。

 ダッフルコートをハンガーに掛け、テーブルを挟んで向かい合って座った。


 出迎えてくれた彼女はたちばなことといって、次席で現役合格した東大生だ。彼女とは高校の時からの同級生で、そして今は同じ大学に通う仲であり……


 夫婦でもある。

 

「ご飯にする? お風呂にする? そ──」

「いや、もう用意されてるんだからメシ以外の選択肢はないだろ」

「用意されてなかったら別のを選ぶのね?」

「そんな反実仮想には付き合わないぞ」

「妻の〝たられば〟くらいは付き合うのが夫ってものでしょう?」

「そうか、そうだな。じゃあ最後のオプションを」


「え、え?」

「ん、どうした? ご飯か風呂かしか言ってなかっただろ。食事が用意されていないなら俺は風呂に入る」

「はぁ……。二択なら最後じゃなくて後者って言うべきだと思いますけど」

「おい、メシ冷めるぞ」

「もう」


 そう、既にテーブルには彼女が用意した美味しそうな和食が並んでいるのだ。

 白米に味噌汁、生姜焼きにキャベツと玉ねぎのサラダ、それにきめ細やかなお豆腐。

 しっかりとした一汁三菜だ。湯気と匂いが鼻孔をくすぐり、食欲を掻き立てる。


「じゃあ、食べるか」

「ええ……」

「というわけで」


「「いただきます」」


 まだよわい二十の男女が同じ屋根の下で、なぜ夫婦として食卓を囲んでいるのか。

 しかも別に俺たちは、お互いのことを愛している訳ではない。

 静かに口と皿とを往復させる彼女の箸を見ながら、俺は事の発端を思い出していた。














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