第2話 兄に勝ってしまう

 あれから1ヶ月が経った。

 色々なことが変わった。


 まず魔力が順調に増えていった。

 常人の3倍程度の魔力量になり、以前使っていたガラス玉では魔力が入りきらなくなっていた。

 そこでガラス玉を水晶玉へと材質変化させた。


 水晶玉はガラス玉に比べて魔力を溜めることが出来る保有量に優れている。

 これでまだまだ魔力を増やすことが出来る。


 そして魔力が増えて出来ることが広がったため、自分の目を少し改良した。

 いわゆる魔眼というやつで、材質変化と同じ要領で行う錬金術だ。



 魔眼は以前より、物の動きがよく見えるだけでなく魔力の流れが見えるようになる。

 錬金術師は戦闘に向いていない職業なので、敵の動きを読むための工夫が必要になってくる。

 その一つが、この魔眼だ。

 しかし魔眼は、まだまだ改良できる。

 あの素材が手に入ったとき、魔眼は次の段階へ進むだろう。



 小瓶を10個にし、暇さえあれば、ポーションを錬成するようにしている。

 様々な効果のポーションが欲しいので《魔草》以外の薬草も栽培出来るようにした。

 遺伝子操作の錬金術で、《魔草》の遺伝子を組み替えた。

 その結果、現在栽培している薬草は、



 《魔草》:魔力回復

 《癒し草》:体力回復

 《ヒーマ草》:麻痺状態回復

 《リムネ草》:睡眠状態回復

 《持久草》:疲労回復

 《毒消し草》:毒状態回復



 このようになっている。

 環境を整え、薬草には魔力を含んだ水(通称:魔力水)をあげるようにしている。

 おかげでポーションの効果は初期状態から2倍に跳ね上がった。



 だがしかし、錬金術ばかり励んでいては家を追い出されかねない。

 外に出るのは2日に1回に抑えている。


 外に出ないときは以前と同じように予定をこなしている。

 そして今は剣術の授業だ。

 屋敷の庭で俺とアーク兄さんは黙々と剣を振るう。



「ふむ……ケミスト、最近調子が良いな。剣術の腕が以前より格段に上がったように見える。剣術の腕だけを見ると……もしかしたら俺以上かもしれん」


 アルヴァレズの騎士隊長ロズウェルが俺とアーク兄さんの剣術の先生だ。

 騎士には、属性魔法の適性を持つ者が特別な訓練を経てなれる役職である。

 アルヴァレズの常備軍も騎士で構成されており、そのリーダーを務めるのがロズウェル先生だ。

 こうして剣術の訓練を行うときだけ屋敷に訪れる。


「ありがとうございます」


 褒められるのは素直に嬉しい。

 無属性魔法が唯一戦闘に役立つ魔法が《身体強化》だ。

 魔力が増えたため、《身体強化》の効果も上げることができ、以前よりかなり身体を動かしやすい。

 前世の記憶が蘇ったことで剣術の腕が上がったことも間違いなくあるだろうが。


「ッハ。ケミストが上達? 笑わせるな。こんな落ちこぼれに何が出来るって言うんだ?」


 面白くなさそうにアーク兄さんは言った。


「それならこうしよう。アークとケミストで模擬戦を行おうか。もちろん剣術の腕前を見るだけであるため、魔法の使用は禁止だ」

「面白そうだ。ケミスト、もちろん受けて立つよな?」

「いいですよ」


 俺が模擬戦を承諾すると、ロズウェル先生が剣を構えるよう指示を出した。

 安全のため剣は木製のものを使用している。


「では始め!」


 始まると同時にアーク兄さんは、突撃してきた。


「ハァッ!」


 力のこもった一振り。

 ねじ伏せてやる、といった意気込みが感じられる。

 身体強化は魔法禁止のため使わない方がいいだろう。

 正直、使っても気付かれないだろうが、道理に反する。


 しかし、身体強化を使わなくても今ならある程度やっていけそうだ。

 力を入れ、アーク兄さんの剣を弾き返す。


「なにっ!? バカな!」


 後退させられたアーク兄さんは驚愕したあと、怒りで顔を歪めた。

 そして怒りに身を任せて、剣を打ち付けてくる。

 俺はそれを的確に捉え、丁寧にいなしていく。


「ほぉ……」


 攻撃を防ぐ最中でも余裕のあった俺は、ロズウェル先生が感心している様を確認できた。


「クソ! なぜ攻撃が当たらない!」

「冷静さを忘れているからですよ。攻撃が単調になっています」

「黙れ! 落ちこぼれの分際で生意気なんだよ!」


 悩んでいたようだから、答えを教えたのだけど、火に油をそそぐ形になってしまった

 怒っている相手に正論をぶつけるのは逆効果になるみたいだ。

 良い勉強になった。


「ケミストッ! 良い気になってんじゃねぇぞッ!」


 アーク兄さんは力任せに剣を振り抜き、後ろに下がった。

 魔力がアーク兄さんの手に集中している。

 魔法を放つ気だな。

 魔力の大きさを見るに、アーク兄さんが扱うことの出来る最大限の魔法だろう。

 これは魔眼にしておいて正解だったな。


「──ファイアーストーム」

「おい馬鹿ッ──」


 ロズウェル先生が止めに入るも、手遅れだ。

 炎の渦が俺に向かって、放たれた。

 しかし、よりにもよって範囲魔法か。

 回避も厳しければ、剣で弾き返すなどの芸当も通じない。


 ……贅沢言ってられないか。

 俺も錬金術を使うしかないようだ。



 地面の土に触り、錬金術を行使する。


 変形──俺の前に扇状の土壁を錬成した。

 不純物除去──炎を無効化するために土の中に含まれている炭素を除去する。


 結果、炎は土壁に阻まれた。



「……は?」

「……ケミストは無属性魔法しか使えないはず……なぜ土魔法を使っているのだ……?」


 二人とも驚いていた。

 予想に反して俺が魔法を使ったのだ。

 それも仕方ないか。

 さて、どう説明するかね。


「これは土魔法じゃないです。無属性魔法だけに扱える錬金術です」

「錬金術……。聞いたことないな……」


 ロズウェル先生は首を傾げた。

 確かに、無属性魔法が冷遇される昨今では錬金術など知りもしないか。

 当たり前のものだと脳に刷り込まれていたが、かくいう俺も記憶が蘇るまでは知らなかった。


「……なにが……なにが錬金術だ! なぜ落ちこぼれのお前がッ、俺の魔法を防いでいるんだ! ……さてはお前、仕組んだな!」

「仕組んだも何もルールを破ったのはアーク兄さんじゃないですか」

「黙れ……黙れ黙れ黙れ! 俺は認めないからな。お前は落ちこぼれの出来損ないだ!」


 そう言い放つと、アーク兄さんは屋敷へ走って行った。


「困ったものだな……。ケミスト、アークの魔法を止めてやれなくて悪かったな。今日のところは、これで終了だ」

「分かりました」


 予定より早く終わったな。

 これなら次の予定までの間、山の方へ出かけれそうだ。


「しかしまぁ……ケミストは見違えるほどに強くなってるな」

「そう言ってもらえると嬉しいです」


 順調に強くはなっているみたいだな。

 モチベーションが上がった気がする。


 だが、まだ足りない。

 もっと実力をつけなくては。

 やるべきことは山積みだ。

 慢心せずに一つずつこなしていこう。

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