インタールード(3)

雑居ビルの探偵 〈あの蛇は何者なのか?〉

灘よう子は雑居ビルの一室である自分の事務所で目を覚ました。


何か夢を見ていた...ような気がした。


私は、鴨木紗栄子の伯父の家から帰ってきて、そうだ ' しゃべる蛇 ' がこの事務所の前にいたんだった。


そしていつの間にか、事務所内のベッドの上に寝かされていた。


蒼井瑠香と何か会話したのを覚えている。


蛇がいなかったか?と聞いて、蒼井はいないわ。と答えたはず。本当?確かに蛇を見たと思うのだけど...。


それにあの異空間は...。



***



昼頃になって、タツキチとセイヤが事務所にやって来た。


「姐さん、昨日は大変でやしたね。」


大変?そう、大変だったわ。よう子は思った。だけどあのときあそこに、タツキチはいたっけ?


「何か物音がしたから慌てて飛んで来たんでやすよ。姐さん気絶してやして、ちょうど下の女医さんが介抱してやしたがね。あの女医さんはたいしたことはないとか言ってやしたが。」


「あっしが、姐さんをベッドまで運んだんでやす。」


タツキチが私を運んだの?


「姐さん、いったん目を覚ましたけど、また気絶してしまったとか言ってやしたよ、女医さん。」


ああ、あの後、また私は気絶してしまったのか。


「ねえタツキチ、そのとき、蛇はいなかった?真っ白な蛇。」


「居やしたよ。あの ' しゃべる蛇 ' でやす。」


蛇は居た?蒼井はいないと言っていたはずだけど。


「女医さんと蛇が何か話してやしたが、まったくしゃべってる言葉がわからなかったでやすね。あれは外国語でもないでやす。」



***



「ふふ、女医さんと蛇は英語ででも会話していたのかしら?外国語でもないって、外国には英語以外にもあるけど。」とよう子は笑いながら言った。


「姐さん、あっしはこう見えても海外生活が長かったでやす。いわゆる帰国子女ってやつでやす。」


タツキチが帰国子女?、よう子の中では、帰国子女というのはもう少し何ていうか"洗練された人"というイメージであった。


「アイ・キャン・スピーク・イングリッシュでやす。」


「あれは英語ではなかったでやすね。ドイツ語でもフランス語でもスペイン語でもないでやす。しいて言えば獣の鳴き声か、機械が立てるキーキーいう音に近かったでやしたね。」


獣の鳴き声か、機械が立てるキーキーいう音?


蛇も獣の一種かしら?それとも毛が生えていないから、獣ではないかしら...。よう子はそんなことを考えていた。


「そしたらでやすね、女医さんと蛇はひとしきり何かやり取りした後、そこからそのままフッと消えちまったんでやす。」


そのままフッと消えた?


「今日も女医さんはいないようでやした。」とタツキチは言った。



蒼井医院も"もぬけの殻"となっているようだった。その日以降、あの蛇も蒼井瑠香もいなくなったのである。


あの異空間も痕跡すら無くなっていたように見えた。


それからもう一つ、少し興味深い出来事があった。この数ヶ月後に鴨木紗栄子から手紙が来たのである。その手紙には、あの伯父の家で黒戸樹とまた一緒に暮らすようになったと書かれていたのであった。



≪登場人物紹介≫

・シロ ・・・ 本当の名をゲンカイ・ナダという。

・クロ ・・・ 本当の名をクロ・ト・ジュノーという。ジュノー王国の王子。

・アオ ・・・ 本当の名をアポトーシス・オルガという。〈死神〉と呼ばれることがある。


・灘よう子 ・・・ 東京で探偵をやっている。

・鴨木紗栄子 ・・・ 灘よう子に仕事を依頼する。

・鴨木邦正 ・・・ 鴨木紗栄子の伯父。植物学者。

・黒戸樹 ・・・ 鴨木紗栄子の夫だった人物。

・蒼井瑠香 ・・・ 医者。


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