鴨木邦正の温室

タツキチの ' しゃべる蛇 ' の話しはよく分からなかったが、もしかしたらタツキチとセイヤにからかわれているだけかしら、とよう子は思った。


しばらくすると、鴨木紗栄子から電話がかかってきた。


紗栄子によると、行先、つまり鴨木邦正の家であるが、は博多から船で三十分くらいのところにある島だということであった。


紗栄子はよう子の都合の良い日でいいと言ったが、鴨木邦正の安否も気になるところだと思い、翌日にはその島へ行くことになった。



***



博多までは新幹線で行くことにした。


新幹線の席につくと紗栄子は、


「どうしてかしらね。なぜ私は伯父と不倫などしたのか。黒戸のことは本当に愛していました。」


よう子は不倫というものがよく分からなかった。"本当に愛していた"というのもよく分からなかった。


「あの頃、伯父が植物の研究者であることを話したら、黒戸から木の種を預かったんです。黒戸の父が大切に育てていた木だったそうで。」


紗栄子は丁寧に思い出すように話しはじめた。


「この植物が何なのか調べて欲しいと言われました。伯父にその種を渡すと、あの人はに憑りつかれるように熱中したわ。」


「伯父は、これは全くの新しいしゅだと狂喜したの。」


まるで子供みたいにと彼女は言った。


「不思議ね、彼はに憑りつかれ、私は彼に憑りつかれるように恋に落ちた。」



***



東京からその島への到着には半日かかった。船着き場にはたくさんの猫がいた。島には釣り客が多いらしく釣り人から魚をもらうために猫達はそこで待っているようだった。


しばらく坂道を歩くと、鴨木邦正が住んでいる一軒家にたどり着いた。しかし、人がいるような気配は感じられなかった。


玄関の扉は開いていた。紗栄子が中に入ると、


「ごめんなさい。伯父はすでにこの世にいません。」と彼女は言った。


どこかからか、甘い香りがした。


家の中は綺麗に片付いていた。もちろん死体もない。庭に温室があり、中で植物が育てられていた。





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≪登場人物紹介≫

・シロ ・・・ 本当の名をゲンカイ・ナダという。

・クロ ・・・ 本当の名をクロ・ト・ジュノーという。ジュノー王国の王子。

・アオ ・・・ 本当の名をアポトーシス・オルガという。〈死神〉と呼ばれることがある。


・灘よう子 ・・・ 東京で探偵をやっている。

・鴨木紗栄子 ・・・ 灘よう子に仕事を依頼する。

・鴨木邦正 ・・・ 鴨木紗栄子の伯父。植物学者。

・黒戸樹 ・・・ 鴨木紗栄子の夫だった人物。

・蒼井瑠香 ・・・ 医者。




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