第8話【騙されない男】

 僕はいつも何かに騙され続けている。

 インスタントラーメンの調味料「この面のどちらからでも切れます」その言葉に何度騙されただろう。

 結局ハサミを使わないと開けることが出来ない。

 昨日だってそうだった。

 ふふふ

 もう騙されないぞ!!!

 最初からハサミを使ったさ

 ざまあみろ


 子どもの頃のお祭りのクジはひどいものだった。

 欲しかったガンプラやプレイステーションなどを目玉に客を寄せ集め、ワクワクしてクジを引くと見たこともないキャラクターのキーホルダーとか100均だろってツッコミたくなる竹とんぼを手渡して来る。

 まさにテキ屋だ!


 毎年騙され続けるのは悔しいのだけど、今度こそはと買い続けたものだ、しかし僕は大人になったんだ。


 もう騙されない!!!


 大学の講義を終えてキャンパスを出る時に後ろから声が聞こえてきた、振り向くと美少女がいた。

 某ゲームの登場人物なのかというくらい美しい少女だった。

 長い栗色の髪に黒目がちな瞳の少女、同じ学校にこんな美少女がいたのか?


「あの…これから少しお時間はありませんか?」


 ???

 いや騙されないぞ!!!

 美人局なのか?

 こんな美少女に声を掛けられる訳がない、今までだってそうだったし、これからの人生だってきっと同じだ


「あ…の…ご迷惑でしょうか?」


「あ…いや…それで何のようですか?」


「ここではお話出来ません

 良かったら一緒に来て頂けませんか?」


 騙されないぞ!!!


 しかし今日はいつものブラックバイトは休みだ、時間はたっぷりある、暇つぶしにノッってみるか?


 しかし僕は騙されない!!!

 そう言い聞かせて彼女と歩き始めた。

「突然話かけてごめんなさい」

「あ、いや今日はたまたま時間があったので」

 それから沈黙が続いた、何か話そうかとも思ったのだが女性と話すことは滅多にないから話題も一向に見つからなかった。


 通い慣れた道を歩いているはずなのに、周りを見渡すと知らない景色を見ているみたいだった、昔むかしばあちゃんにせがんで毎日聞いた物語

 キツネに騙された話をふと思い出した。

 その話は目的地を目指して歩いても中々辿りつけないキツネに騙される話だった。

 その懐かしい話を思い浮かべながら歩いていると、不意に声が聞こえた。


「あの…ここです」


 そこには青い扉の小さな喫茶店があった

 名前はBLUE BIRD「青い鳥」

 いかにもさん臭い

 この少女は何者なんだ?


「どうぞ」


 僕は扉のドアノブをつかんで、重いドアを開けたら

 アルプスのすそにあるような広い草原が現れた。


 騙されないぞ!!!


 慌てて扉を閉じた。


 そんなわけがない、ここは日本だぞ…映画で観たような草原が街中にある訳が無い、夢をみたのか?


 いつの間にか、少女はそこにはいなくなっていた。


 騙されたのか?


 でも1度芽生えた好奇心にあらがうことは出来なかった。


 恐る恐るもう一度扉を開けると今度は白い砂浜の海辺だった。

 そこは水平線と透明な青い海のコントラストの絵はがきにあるような綺麗な景色だった。

 不思議とその美しい遠浅の海を懐かしいと感じた。


 僕は都会で生まれ育ったし祖父母だって海の近くには住んでいない、なのにこの懐かしさは何だろう、それを確かめたくなった、夢の中にいるような感覚なのに身体はこの現実を受け入れている。




 僕はもう騙されないはずだったのだけど、騙されてもいいからこの懐かしさを確かめたい。


 思い切ってそこに足を踏み入れた。



 ✰つづく✰

(でしょうね)

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