《Side:鈴木杏南3》

孤児院の為に冒険者になる事を決めた私は街で知り合った女性の冒険者シルビアが入っているパーティーに入れて貰える事になった。


冒険者になるためにはギルドに登録しなきゃいけない。しかも登録の際に模擬戦をしなくちゃいけないと教えて貰った。


登録するには最低でも初級攻撃魔法か"身体強化フィジカルアップ"が使えないと駄目らしい。


私は回復魔法は使えるけど攻撃魔法なんて使えない。でも"身体強化フィジカルアップ"なら使える。1年前、ダントさんに教わった。


でも魔力を感じるのが凄く難しかった。魔力を感じられないと魔法は使えないと言われた私は凄く頑張った。とにかく、意識を集中してお腹の辺りにある何かを感じた時は跳び跳ねて喜んだ。


ただ魔法を使う為には何か媒体となる物が必要だった。幸い、ガルンの街にいたときに街の人の手伝いをしていてお金は持っていたから武器のお店で杖を買った。


意外と高くて持っていたお金はかなり減ったけど魔法が使えるようになるなら問題はなかった。


回復魔法の方は使えるように頼んだのに使い方を覚えないと使えなかった。街にある教会で治療をやっていると聞いた私は教会に行き治療を手伝う代わりに回復魔法を教えて貰った。


司祭が上級まで使えた為、上級まで覚える事ができた。その際、教会に入るようにお願いされだが断った。


ギルドに行くとクレアさんが対応してくれた。彼女は私が料理人に教えたハンバーグを登録する時に対応してくれた人だ。登録は私と料理人の2人の名前でしてある。教えた代わりに少しだか料理人からお金が毎月入っている。


クレアさんから冒険者の説明を受けたあと解析魔法を付与した魔道具でステータスというのを調べて貰った。その時、初めて自分のレベルを知った。


レベルは10だった。別に今まで1度も魔物と闘った事がない訳じゃない。身体強化の魔法をダントさんに教わった時、街の外で角の生えた兎と闘わせられた。

"身体強化フィジカルアップ"を使いこなせるようになるまで何度も。一番弱い魔物らしい。死んだ兎をみて私は泣いた。


その時にレベルが上がったんだろう。この世界は魔物を倒す事でレベルが上がるとアルティアから聞いた。


ステータスの確認を終えるとレイモンドさんとか言う元Aランクの人と戦った。いや、戦ってない。一撃で気絶した。今回は泣かなかった。


登録が終わるとギルドにいたシルビアに声をかけた。彼女のパーティーは彼女の他は2人の男性だった。男性の1人がリーダーらしい。私がパーティーに入るのを最初は嫌がったが回復魔法が上級まで使えると言ったら態度が変わった。


彼等はこれから[迷いの森ロスト·フォレスト]というBランクからしか入れない森に行くという。Fランクの私は普通なら入れないリーダーがBランクの為、入る事が出来るらしい。


依頼を受ける際にクレアさんから心配されたが男性達が私は後衛で回復するだけの担当だからと説得していた。


森に行く許可が出た私達は東の門から出て、道なりに進んで2日程の森の入り口に着いた。


今回の依頼はランクDのサイクロプスというランクD上位の魔物らしい。その魔物の頭にある角を5本採取するのが依頼らしい。報酬は金貨100枚。1人辺り金貨25枚とのこと。


森に入った私達はサイクロプスを探す。サイクロプスは森の手前の方にいると言う。この森は奥に進むほど迷いやすい森らしくて、死ぬ人も多いらしい。


私達は、順調にサイクロプスを4体まで倒すことが出来た。だが、後1体が見つからないでいた。森に入って2日。私達の前に出てくるのはサイクロプスだけじゃない他にもランクDだと言う熊みたいなのやゴブリンと呼ばれるランクEの魔物、狼に似たランクCの魔物が出てきた。


熊みたいな魔物はギルドで売れるらしい。肉が美味しくて料理人からの人気が高いとの事だ。リーダーのアベルが持っている鞄に入れていた。あの鞄も魔道具らしい。


ここまでで私は結構な魔力を使っていた。私の魔力ランクはCランクらしい。だが今はかなりの回復魔法を使っていた為、残りは少ない。


正直、かなりの足手纏いだ。途中でも私のせいで弓を持ったゾイドって名前の方が怪我をしていた。狼に似た魔物に噛み付かれて血がかなり流れていた。


私の"回復中級ハイ⋅ヒール"で治したがかなりの魔力が減ってしまった。


しばらくすると、1体の魔物が現れた。ランクBのオーガという魔物だ。


普通この魔物は森をもっと進まないと現れないらしい。私達じゃ倒すことが出来ないとアベルが時間稼ぎをしてくれたお陰で助かった。


だが、アベルが怪我をしてしまっている。私がすぐに"回復ヒール"をかけて怪我は治ったが私の魔力は回復魔法が使えない程減ってしまった。


ゾイドが私を責めてきた。オーガを最初に見つけたのは私だ。でもその時はまだ気付かれてなかった。


でも、オーガを見つけた私はオーガの恐ろしい見た目に小さな悲鳴をあげて気付かれてしまった。ゾイドもアベルも私のせいで何度も怪我をした。


シルビアは最初は庇ってくれたが途中からは何も言わなくなった。すると、騒いでいたせいか木の陰から最後の1体のサイクロプスが現れた。


私は足手纏いな為、後ろに下げられるがその際、恐怖からシルビアとぶつかってしまう。私がぶつかったせいでバランスを崩したシルビアがサイクロプスの攻撃をくらってしまった。


攻撃をくらってしまったシルビアをアベル達が援護する。でも、シルビアは攻撃の痛みで動けなくなっていた。


アベルが私に回復させるように言ってくるが、魔力が切れている私は回復させられない。徐々にサイクロプスに追い詰められる私達だったが、


突然、サイクロプスの体が2つに別れ、アベルとゾイドの2人に血がかかる。


すると、空から獣人族の少年が降りてきた。空から現れた獣人族の少年に男性2人が武器を向け、罵声を浴びせる。


私はというと、彼がサイクロプスを倒して助けてくれたのはわかっていたが同時に恐怖に怯えた。ガルンの街でもランドの街でも獣人族の奴隷が沢山いた。


彼等は私達、人族を恨んでいると思う。そんな獣人族の少年が目の前にいる。他の獣人族よりも強い少年が。私達を殺せる強さがある獣人族。


だが、彼の表情はどこか呆れたような表情だった。特に何も言わない彼は私達に、"範囲回復エリア⋅ヒール"をかけて飛び去った。


私は飛び去る彼の後ろ姿を見つめていた。ほとんどの獣人族は中級魔法が使えないと聞いた。なのにいとも容易く"範囲回復エリア⋅ヒール"を使った獣人の少年。


私はどこか彼に自分と似た何かを感じた。


少年が残した、サイクロプスの死体から角をとった私達は森の中を迷っていた。


オーガから逃げたせいで場所が分からなくなっていた。途中まではゾイドが地図を作っていた。マッピングと言うらしい。


でも、今は何も役に立たなかった。男性2人が私を責めてくる。森から出れない私達は森の中でキャンプをする事になった。火と周囲の見張りを交代で行った。


私は自分の見張りの時、3人にバレないように泣いた。結局、方向も分からない森から出て街に戻れたのは街を出発してから10日後だった。


街に戻るまでの6日間の間ずっと攻められ続けた私の心はすり減っていた。


街に戻りギルドに着くと疲れからシルビアは入り口にしゃがみこんでしまう。誰かが出ようとしていたが、私はそれどころじゃなかった。


私を責めて、アベルとゾイドの2人が私にパーティーを抜けるよう言ってくる。


私には謝ることしか出来なかった。この6日間ずっとそうだった。気付けば涙を流していた。シルビアは何も言わないが視線は責めていた。


やがて、3人は依頼完了の手続きをしてギルドから出ていった。私には報酬をくれずに。


しばらく、その場で泣き続けた私が顔をあげると、そばに森で助けてくれた獣人の少年がいた。


私が驚いて近づくと、彼は私の事を分からない様子で戸惑っている。


戸惑う彼に森でのお礼を言うと思い出してくれたようだ。少しして彼が森での態度と今の態度が違う事を聞いてきた。私が理由を話すと何かを納得している。


すると受付にいたクレアさんが身を乗り出して叫びながら私を指差した。彼はケントという名前らしい。クレアさんが私を探してたと言っている。


彼と私の呆けた声が重なる。


私が驚いていると同じように彼も驚いていた。私がどういう事か聞くと彼はハンバーグを考えたのが私なのか聞いてきた。


私があっていると伝えると何かを考えている。私はそれが探してた理由なのか聞いてみた。


もしかしたらハンバーグの作り方を知りたいのか、そう思って聞いてみるも違うらしい。何故、ハンバーグを思いついたのかなんて聞いてきた。


別の世界の料理だなんて言えない。私が誤魔化して答えると、今度は何でハンバーグなんて名前なのかを聞いてきた。


何故、そんな事が知りたいんだろう。そう思って聞いてみるも彼は黙ってしまった。


黙ってしまった彼を見ていると何か考え事をしてから聞きたい事があると言ってしまった真っ直ぐ私の目をみて質問してきた。


「アンナさん。地球って言葉は知ってる?」


そんな予想外の質問をしてきた。私は思わず呆けた声を出していた。少しして彼の言葉が何を意味するかを理解した。


同じ地球の人。つまり、彼は私と同じ事情を持っている。気付いたら涙が止まらなかった。クレアさんが心配して声をかけてきた。彼も驚いた様子で声をかけてくれる。


少しして彼がギルドを出ようと提案してきた。私はただ泣きながら頷くことしか出来なかった。


外に出た彼は何かを言うが、今の私はそれどころじゃなかった。1人で2年以上も知らない世界にいた。途中で他の世界の人と出会えたけど出会ってすぐに死んでしまった。


貴族に追われて街を飛び出すしかなかった。私の事情を知っている人は誰もいなかった。街での生活は楽ではなかった。お世話になっている人の為に冒険者になった。街で知り合った女性のパーティーに入れてもらった。仲間が出来たと思った。でも、彼等は仲間ではなかった。


シルビア達に見捨てられた私は絶望していた。


こんな世界でたった一人。母のように感じた人の元には戻れない。誰にも事情は話せない。話しても頭のおかしい人と思われる位なら話さない方がいい。そう思って1年間生きてきた。


でも、彼に出会えた。獣人族の姿をした同じ世界の住人。彼は私の手を引いてくれる。彼は私を自分が泊まっている宿に案内してくれた。


宿の人と何かを話している彼は何か聞いてくるが私は頷くだけだった。そのまま、私を部屋に連れていってくれた彼は私をベッドに座らせ前に立ってまずは話をしようと言う。


私は顔をあげる。この頃には少し落ち着いてきた。すると彼はこう言った。


「じゃあ、まずは自己紹介から。俺の名前は、佐藤剣斗。17歳の日本人です。あなたも地球の人ですよね?」


その言葉を聞いた瞬間、今まで以上に涙が止まらなかった。同じ世界の住人。それだけでも嬉しかったのに、彼は同じ日本人だと言う。私より年下の17歳の日本人だと言う。


私は泣きすぎてえずいてしまった。彼はえずく私の背中を優しく擦ってくれる。彼は私に声をかけて水を取りに行ってくれた。でも、私は彼が戻ってくる前に泣きつかれて眠ってしまった。


◆次の日

目が覚めると知らない天井だった。まだ頭が寝ぼけている。寝ぼけながらも、起きるとベッドの横に水が置いてあった。誰が置いたんだろう?


寝ぼけていた私は、とりあえず水を飲んだ。徐々に目が覚めてくる。


「そうだ。昨日、森で出会った獣人族の少年にギルドであって···」


思い出した。彼が同じ地球の人間だとわかった瞬間に泣いちゃったんだ!


その後、泣き続ける私を連れて自分が泊まっている宿に連れてきてくれたんだ。


「確か、その後に···」


彼が同じ日本人だとわかって更に泣いちゃったんだ。あれ?出会ってからほとんど泣いてる姿しか見せてない?


「わー、恥ずかしい!」


顔を手で覆いベッドに飛び込みながら考える。確かに同じ世界の人、しかも同じ日本人。


この世界で初めて出会った同じ日本人に安心するなって方が無理があるけど、


「でも、確か17歳って言ってたもんなぁ。年下の前でずっと泣いてるってどう思ったかな?」


結構、迷惑をかけた気がする。何も話してないから彼にとって私は初対面の同じ地球の人ってだけ。会えたのに話も出来ず泣き続ける人なんて面倒くさいとか思われてたらどうしよう?


「話もしてくれないなんて事ないよね?」


大丈夫。彼はここに連れてきてくれたし別に薄情な人じゃないよね。きっといい子だと思う!とりあえず、来たら自己紹介しよう!


そんな事を思っていると声がかかりドアが開く。うぅ、緊張する!


「お、おはよう。えっと、私の名前は鈴木杏南すずきあんなです。私も同じ日本人だから。よ、よろしくね?」

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