《誇り高き獣人の少女》

街の入り口で起きた、このトラブル。


「いいから、街に入るなら金を払え。これ以上騒ぐなら治安妨害で逮捕するぞ!」


兎人の女の子はそう言われて守衛を睨む。


「なんだ?獣人の分際で文句でもあるのか?」


そう言って腰の剣に手を置く守衛。まずいな!


「ちょっと待ってくれ!」


俺はそう言って守衛と少女の間に入る。


「なんだ、さっきの坊主か。何のようだ?」


そう言って俺を怪訝そうに見る守衛の男。周りにいる人達は見ているだけで何もしない。むしろ獣人の少女を嫌そうに見ている。


「いえ、街に入るのに獣人ってだけで金貨一枚も払わせるのはやり過ぎなのではと!」


俺がそう言うと


「なんだと?獣人族なんかを庇うってのか?ならば貴様も街から追い出すぞ?」


何言ってんだコイツ?俺があまりな物言いに呆然としていると


「なんの騒ぎだこれは?おい、ゲイツ説明しろ!」


街中の方から衛兵が数人来て守衛に話しかけた。ゲイツと言うんだなコイツ。


「た、隊長!なんでここに!?」


他の衛兵よりも偉そうな男が現れたら慌て始めたゲイツ。


「東の門で騒ぎが起きていると知らせが来てな。何があった?」


ゲイツに向かって有無を言わさぬ迫力で問い詰める隊長。


「い、いえ、この獣人族が街に入るのに金を払わないと言うので!」


俺の後ろにいる少女に向かって睨み付けながらそう言うゲイツ。だが、少女の方も黙ってはいない。


「そっちが街に入るのに金貨一枚も払えなんて言うからでしょ!」


少女がそう言った瞬間ゲイツに頭に向かって拳骨を落とす隊長。


「ゲイツ、貴様。また獣人ってだけで差別しているのか!前に叱った時の事を忘れてしまったようだな?おい、コイツを兵舎に連れていけ。それと、一人は残って門の見張りをやれ!さあ、急げ!」


そう言ってゲイツを連れていかせた隊長はこちらを向き直り頭を下げる。


「入門の代金は通常通りで問題ない。部下が勝手なことを言って本当にすまない!」


うーん。この人は獣人って事で差別しないんだな?でも、謝る相手は俺じゃない。


「いえ、俺は大丈夫です。ですが、迷惑をかけられたのは彼女ですよ?」


俺はそう言って少女の方を指差す。俺に言われた隊長は少女の方を向き俺にしたように頭を下げる。


少女の方も謝られた事で怒りは収まったのか、気にしなくていいと言った後、こちらを見る。


改めてみると、結構可愛い子だな。耳と尻尾があるだけで人族と何も違いはない。


俺がそう思いながら彼女を見ていると


「あなた、さっきは何のまね?可哀想な獣人を助けてやろうとでも思ったの?あなたなんかに助けて貰わなくても私は自分で何とか出来たわよ!私は自分が獣人である事に誇りを持っているわ。私は獣人を奴隷として扱う人族も嫌いだけど、はもっと偽善的で大嫌いだわ!」


そう言って街の中に消えていく少女。


「気にするな。獣人族はを嫌っている。本当は彼女も人族が全員、獣人族を嫌っている訳ではないって知っているハズだ。少ししたら彼女も冷静になる。」


隊長はそう言って俺の肩に手を置き慰めてくれる。


「隊長は獣人族を差別しないんですか?」


「隊長はやめてくれ。君は俺の部下じゃない!フォンだ。フォン⋅シュバイツ。フォンって呼んでくれ!」


そう言って笑いかける隊長。多分、30代位だろうけど貫禄が凄い。顔にも大きな傷がある。


「わかりました。フォンさんですね。俺はケントって言います!で、話の続きですがフォンさんは獣人を差別しないんですか?」


「ああ、俺は冒険者だった頃に獣人族の男に助けられたことがある。昔は俺も他の奴と一緒で獣人族を嫌っていたが彼は命懸けで俺を助けてくれた。獣人族も俺達と何も変わらない良い奴らだよ!」


そう言って顔の傷を懐かしそうに触るフォン。きっと、その時の傷なんだろう。


「他の人族の皆も、一部の人は本当はただ怖いだけなんだ。獣人族は俺達から遠い場所に住んでいる。人族とは関わりの少ない人間だからな。俺の他にも、獣人族の事を差別しない奴は沢山いる。」


そうやって、獣人族の事を知る人族が増えれば差別も無くなるんだけどな。と悲しそうな顔で笑うフォン。


こんな人の部下なのに、何でゲイツみたいな奴が部下に居るんだろう?


「あのゲイツって人はどうなんですか?」


俺がそう聞くとフォンは少し困った顔になる。


「ゲイツの奴は帝国の出身でな。悪いやつでは無いんだが子供の頃から獣人族は奴隷以下と帝国で教えられて育ってきたんだ。それが抜けきらないんだ。」


「帝国ってのは、そんなに獣人族に対して差別が凄いんですか?」


「ああ、帝国の皇帝が大の獣人嫌いらしくてな。帝国に住む人間は皆、獣人を嫌うように教育されている。まあ、中には帝国の考えを嫌って他の国に移る奴もいるがな。」


そんな教育をしてんのか。人族至上主義なんて掲げてるし、ろくな国じゃないんだな。


「フォンさんはもし俺が本当は獣人族だって言ったらどうしますか?」


俺がそう聞くと不思議な顔をしながら


「ケントが獣人族だったらか。なら新しい友を連れて酒場に行って酒を呑み交わすな!」


そう笑って言うフォン。


「そうですか。ありがとうございました、俺はもう行きますね!」


「ああ。街にいるなら見かけたら声でもかけてくれ!」


俺はフォンにそう言って街の中に入り人が居ない場所に身を隠す。


そして、魔法を解く。"変身トランスフォーム"。姿を変える無属性魔法。


街に入る為、トラブルにならない様に魔法により俺は地球の頃の姿に変わっていた。


「あの女の子には少し悪いことをしたな。でも誇り高い獣人の少女か。会えて良かった!それにフォンみたいな人族もいるなら獣人族の事も改善される日も来るかもな!」


新たな出会いに気をよくした俺は転移者を探す為に街の中を進んで行く!

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