第36話透明幼女シーラちゃんとの…混浴?




「ふあぁ~~ よく寝たぁ~!」


 ベッドから体を起こし、両手を挙げグッと伸びをする。

 何時間寝てたかわからないけど、スッキリとした目覚めだ。


 ぐぅ~


「あっ」


 ついでにお腹も起きたみたいで、小さく鳴っちゃった。



「そう言えば昨日はご飯食べてないや。だからだね。それにしても…… 誰もいないね?」


 大きなベッドを見渡したけど、私以外は誰もいなかった。

 ただ、私が寝てた場所以外にもシーツが乱れてるから、みんなは起きた後だろう。



「それじゃ、わたしも起きようかな? お腹も減ったし、お風呂も昨日入らなかったもんね? それからご飯にしよう」


 そう決めてベッドからピョンと降りる。

 

「あれ? 昨日はわたしって、服のまま寝てなかった?」


 扉まで歩いたところでふと気付く。

 だって歩きやすかったし、転ばなかったから。


「ん~、きっと着替えてから寝たんだね。それにしても高そうなパジャマだね? あ、これネグリジェって言うんだっけか」


 今の格好は薄桃色のネグリジェの姿だった。

 肌触りもいいし、軽いしで快適だ。 


 元々着ていた服は寝室のチェストの上に畳んで置いてあった。



「でもスケスケ過ぎてちょびっと恥ずかしいかも。パンツも透けて見えちゃうし、胸も薄っすら見えちゃうし。ん~、でもいいか、どうせ幼女しかいないしね」


 元々の装備を収納して、1階の大浴場に向かった。



――



「ふぃ~、やっぱり朝風呂はいいねぇ~。しかもこんな大きなお風呂なんて、なかなか入れないよ。これもメドのお陰だねっ!」


 頭も体もわしゃわしゃ洗い、広い湯船に寄りかかり手足を伸ばす。


「あれ? そう言えば今日は熱くないね? この前は熱湯だったのに。それと深くないや。あ、あと氷も溶けてる」


 そう。

 一昨日にメドを探して来た時に、足を滑らせて落ちた時はめちゃくちゃ熱かった。

 それで思わず魔法で凍らせちゃったんだよね。


「あれかな? お湯を沸かした時に溶けちゃったんだね、きっと。それに深いのは真ん中だけみたいだし」


 そっと足を伸ばした時に気付いたけど、中央に行くほど深くなってる。

 逆に浴槽の縁の方は、小さい私が座ってちょうどいい感じになってた。



「なんかプールみたいな作りだね? 手前は子供用で、真ん中は大人用とかかな? それか排水口があって流れやすくしてる作りかな?」


 なんて、どうでもいいお風呂の考察をする私。


 実はそれには理由がある。

 

『…………むふふ』 


 なにせここには、私以外の入浴者がいるからだ。



 その存在に対して敵意がない事を知ってもらう為、独り言で自然を装いながら、そーっと少しづつ移動をしている。


 私の半周先の、微かに波紋を立てている人物に向かって。



『だって、脱衣所にフリフリのエプロンが畳んであったからねっ! 一緒にわたしと入ってるのは、あの裸エプロン幼女のシーラちゃんで間違いないよっ!』


 昨日は凝視して逃げられたけど、あれはお互いに知らないから怯えただけ。

 だから一緒に洗いっこでもすれば、きっと分かり合えるはず。



「ぐふふっ」

「っ!?」


 なんて妄想していると、また変な声が出てしまった。

 すると細かい波紋が、シーラちゃんのいる付近から広がって行った。


 どうやらちょっとだけ驚かせちゃったみたい。



「ふ~ん、ふふん♪ 今日のご飯はっ 何かなぁ~」


 今度は鼻歌交じりに、ゆっくりとシーラちゃんに近づいていく。

 あくまでも自然に、視線も合わせないように、細心の注意を払う。



「朝はハンバーグ食べたいなぁ~、昨夜は食べれなかったからにぇ~、ジュージューと焼いてある、大きなハンバーグ食べたいな~っ!」


 警戒心を抱かせないように、牛歩の歩みで距離を詰める。

 

『あ、あと1メートル、50センチ、30センチ…… はぁ、はぁ』


 20センチ 10センチ――――

 

『そ、それで近くまで行ったら、足を滑らせた振りをして、そのまま――――』


 抱きついちゃおう。くんずほぐれつと。

 そして色々堪能しちゃおう。


 これが今回の私の作戦だ。

 ラッキースケベを任意で実行する、完璧な作戦だ。


 まぁ、それをラッキーと言うかは、世間が許してくれないだろうけど。



『ぐふふ』


 5センチ、3センチ、1センチ――――


『も、もう少しっ!』


 ゴクリッ


『おっはよ―なのっ! フーナお姉さんっ!』

「うひゃ――――っ!!!!」


 ザバァ――ッ!!


 唐突に聞こえた甲高い声に驚き、勢いよく立ち上がってしまう。


「な、なにっ!? なにっ! あっ! メルウちゃん?」


 キョロキョロと辺りを見渡すが何もいない。

 それでもふと、その声の主に気が付き名前を呼ぶ。



『そうなの? 朝からお風呂なの?』


 なんて、こっちの気も知らないで、のほほんと聞いてくる。


「ちょ、ちょっと待って、今はそれどころじゃないからっ!」


 メルウちゃんに返事をしながら、シーラちゃんを探す。

 今ならまだ間に合うはずだ。


「っ!?」


 ジャバッ――


 急に叫びだした私に驚いたのか、大きな波紋が立ち上がる。

 恐らく湯船から上がって、そのまま逃走するつもりだろう。


「こ、ここだぁっ!」


 ザバッ!


 シーラちゃんのお尻があるだろう空間を目指してジャンプする。


 プニ


「あっ!」

「っ!?」


 今、確かに触った。

 私の指先が、昨日見た裸エプロンから丸出しのプリプリお尻に。


 そう歓喜し、更に手を伸ばした瞬間。


 ブンッ


「ぐごぉっ!」


 顎に下からの強烈な一撃を受けて、


 ドガ――――ンッ!


「うぎゃっ!」


 天井に叩きつけられて、湯船の中にダイブする。


『うぶぶ、い、一体何が? 蹴られた? ごぼごぼ』


 深い湯船に沈む中、今起きた事を思い出す。

 あれはきっと、シーラちゃんがヒールキックをしてきたんだと。


 それにしても、かなりの威力だった。

 この女神さまからもらった、頑丈な体で良かった。


 なにせ石でできた天井が、私の形で穿っていたからだ。

 普通の人間だったら、色々とぶちまけているだろう。



「あ、そ、そう言えば、あの子もドラゴンだっけ…… ぴゅ~」


 水面にプカプカと浮きながらお湯を吐き、メドの話を思いだして納得した。


 ガラガラ ピシャンッ 


 そして扉の締まる音と、トタタと誰かが走り去った音が聞こえた。


 それは私の作戦が失敗した事を告げていた。



「もしかして、さっきので嫌われちゃったかも……」


 湯船から上がってちょっと後悔する。

 あんなに強く蹴られたし、きっともの凄くイヤだったんだと思うから。



「うう、仕方ない。朝ごはんの時にキチンと謝ろう。嫌われてなければいいけど……」


 いつもの服に着替えて、トボトボと大広間に入る。


 そこには――――



「ん、おはよう。フーナさま」

「おはよ~だぞっ! フーナ姉ちゃんっ!」

「あら? 朝からお風呂していいわね」


 食卓についているメドとアドとエンド。

 遅かった私に笑顔で挨拶をしてくれた。



 そしてその食卓には、


「あ」


 ジュージューと鉄板の上で湯気を立てている、大きなハンバーグがあった。


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