第8話お屋敷げっとしました




「うわ~~~~っ! す、凄い~~っ!!」


 見上げるほど大きな真っ白な洋館に驚く。

 そしてポカンと口を開いて見上げてしまう。


 こんなのまるで映画に出てくるようなお屋敷だよ。

 一体なん部屋あるの?


 それにあの2階の出っ張ったバルコニーなんて……


『ちょっと酔っているようだね。外で少し酔いをさまそうか』

『えっ? は、はいっ!!』

『それじゃ。お手をどうぞ』

『うふふっ~~』


 なんてイケメンの貴族が気に入った女の人の肩を抱き、パーティーから抜け出す為のいかがわしい場所まであるよ。


 まぁ、全部薄い本の押し売りだけど。



「ここ本当にメドのお家なの? これ全部がっ!?」


 目の前の大きなお屋敷を指さしてそう聞いてみる。


「違う。あっち」


 メドがお屋敷の隣を指さす。

 

「へっ!?」


 メドが指さす方を見てみると、そこにも家があった。


 でもその家には扉も窓もなくって、端っこの方に藁が敷かれていた。

 それは馬が5頭は入れるほどの木造の家だった。


「こ、これって?」


『これってただの『馬小屋』じゃんっ! お馬さんの家じゃんっ!!』


 誰にともなくツッコミをする私。


 でもまさか、本当はこっちがメドの家なんて…………


『はぁ~、仕方ないよ。だってメドはドラゴンだもんね。こんな大きなお屋敷なんてあるわけないよね? きっと貸してもらってる馬小屋なんだね?』


 でも、ちょっと嫌かも――――



「ね、ねえ、メド、あそこがあなた住んでいるところなの?」


 念のために恐る恐るもう一度聞いてみる。


 藁のお布団なんかで寝たくなんかないから。

 絶対にチクチクするし。



「ん、嘘」

「な、なんで嘘つくのぉ!」

「でも本当」

「どっちなのっ!」

「ん、あそこもワタシの家だから」

「え!?」


 それって、もしかして……


「ここ全部、ワタシの家だから」


 何でもないように、相変わらずの無表情&ジト目でそう答えた。


「えっとぉ?――――」


 そ、それじゃあ?


 あの屋敷の前の、お花に囲まれたテラスも、手入れの行き届いた広い庭園も、あの変な彫像が中心に建っている丸い噴水も、あの馬がいない小屋も、そして、この大きな白いお屋敷も全部っ!?




「ここここここっ!」

「コケコッコ――?」

「ここ、これの全部がっ! この広い土地もお屋敷も全部、メドの物だってことぉっ!」


 余りにもの突飛な話に両手を広げて絶叫する。

 まさかこの全てが、メドの所有物だと知って。



「そう。でも今からはフーナさまのもの」

「はぁっ!? なんでっ!」


 どういう事??


「ワタシ負けたから、このお屋敷は全部フーナさまのもの。ご主人さまだから、でも――――」


 え? それだけで?

 ドラゴンの主従関係って一体どうなってるのっ!


 あれ? でも『今は』って言ってたよね?



「でもワタシは、これから強くなってフーナさまと戦って取り戻す。だから今だけはフーナさまのもの」

「え、そんなんで良いのっ?」

「うん」

「本当にっ!」

「うん」

「う、嘘ついたら?」

「ん、ドラゴンの奥歯でスリ潰す」

「ゆ、指切げんまっ――――」


 ってなにそれ? 怖いんだけどぉっ!

 怖くてそんな約束できないよっ!


「そ、それじゃ、本当に私にくれるのねっ!」

「うん。何度もそう言った」


 マジかっ!


「やったぁ~っ! この広いお屋敷がっ! わ・た・し・のぉっ~!」


 両手をバタバタしながら、クルクル回る。

 萌え袖もパタパタしてたけど気にしない。


 今はそれどころじゃないし。


 だって、


『この広いお屋敷全部が私の所有物になるなんてっ! それにメドも付いてくるしっ! もう異世界最高っ! ここに送ってくれた女神のメルウちゃんも最高っ!」


 わはははは――――っ!!


「ここ全部が私のものだぁ~~っ!!」


 嬉しくて両手を広げ、今度はメドの周りをぐるぐるする。


「うひゃひゃひゃひゃあぁぁっ! 私のお屋敷だぁっ!」


「ん、ワタシが今度勝つまで」

「え?」


 ピタッ


「それを忘れないで」

「はいぃ~、ごもっとも…………」


 なんか一気に冷めた。

 メドのジト目の突っ込みで。

 

 はしゃいで上げていた両腕を下げたら、袖がだらんとなった。

 風でぷらんぷらんと揺れて寂しそうだった。



◆ ◇ ◆ ◇



「うっわーっ広いし、何もかも広いしおっきいしっ! どれも高そうだぁ!」


 メドの案内で、私とメドはお屋敷の中に入った。


 既に入り口の重そうな玄関の扉から豪華な装飾で、取っ手やら何やらも金ぴか。中に入るとやたら広いエントランスがあって、やたら高そうなフワフワした絨毯が敷いてもあった。



 エントランスの脇には「クルッ」と2階に上がる螺旋階段があり、階段の脇にもよくわからない肖像画がが飾ってあった。


 階段の上の廊下の中央にも、でっかい絵画が飾ってあった。

 何かの鳥の絵か、黒い恐竜みたいなものだった。


 それとエントランスの左右には長い廊下があり、5部屋ずつ、計10個の部屋もあった。


 その他の1階には、使用人の小部屋や、台所、大浴場、パーティー用の大広間もあった。因みに、各部屋にもお風呂があるらしい。


 あと露天風呂も外にはあるみたい。


「ぐふふっ!」


 『お風呂=全裸×合法×視姦放題+洗いっこ≒∞』


 お風呂と聞いて、即座にその図式が脳裏に浮かんだ。

 最後の∞は何だろうねっ! ジュルル。



「フーナさま。お腹減ったの?」

「へ? なんで」

「だって涎垂れてる」

「あっ!」


 メドに指摘されて、萌え袖でふきふきする。


 ヤバいヤバいっ!

 妄想がはかどっちゃうよぉ!



「ねえねえ、2階は?」

「ん。2階は大きな部屋とバルコニーだけ。あと調理場。3階は全部部屋」

「そうなんだっ! 3階まであるんだっ!」

「うん。上も見るの?」

「ううん、見てみたいけど今はいいや。それよりも、わたし『たち』の寝室はどこにあるの?」


 メドに『たち』を強調して聞いてみた。

 一番大事な事だから。


 ハァハァッ…………


「ワタシたち?」

「うんっ! そう、わたし『たち』」

「ワタシは外で寝る」

「ええっ! な、なんでぇっ!」


 そんなに私が嫌いなの?

 やっぱりお屋敷を譲りたくなかったの!?


 なんてマイナスに考えてしまう。



「人間の姿だと窮屈だし面倒だから」

「…………………うん」


 そりゃそうだろう。

 この幼女は元々ドラゴンだもん。納得。


「………………っ!」


 いやいやいやっ! 嫌っ!

 そんな理由でなんか納得してやらないっ!


 なら、


『くっ!』


 ここはあまり使いたくないけど、虎の子を出そうっ!

 これならきっと言う事を聞くはずだ。



「こ、こほん、メ、メドの主人として命令します」

「なに?」

「一緒の寝室で、私の抱き枕になりなさいっ!」


 もうここに来て最後の手段。

 私はご主人様の命令権を行使した。


 無表情のジト目目掛けて、指を突き出しビシッと言ってやった。


 ふふんっ。


 『ご主人様の命令権』


 それは、強者に従う傾向の強い、

 特にドラゴン族には断れない、絶対服従の命令のはず。


 私はドヤ顔のまま、指をメドに向けていたけど、よく見たら、袖から指が出ていなかった。

その無駄に長い袖を捲って、もう一度メドに指を向ける。


 くふふ、これでどうだぁ!!



「ヤダ」

「はぁ?」


 え? 何だろう。


 「ヤダ」って聞こえた気がするんだけど。

 幼女になった影響で耳が小さくなったから、声が拾えないのかな?


「え? ごめんね、よく聞こえなかったよ、メド」


 メドの方に耳を傾けて、再度聞いてみる。


「イ・ヤ」

「…………………」


 気のせいでも、耳が小さいとか、全く関係なかった。

 今度は一言ずつハッキリ言われたし。



「なっ、なんでっ! ご主人さまの命令だよぉっ!」


 腕をぱたぱた上下に振ってメドに反論する。


「それとこれは別。ワタシが嫌なのは、勝負で勝ったら言う事を聞く」

「勝負っ!?」



※※



 そう言う事で、メドの抱き枕化を賭けて勝負することになった。



 『絶対に負けられない戦いが、今ここにあるっ!!』


「よしっ!」


 勝負を前に気合を入れ、両頬を「パアンッ!」と叩いた。

 けれどそんな快音は聞こえなかった。


 代わりに、


「ポスッ」と情けない音が鈍くしただけだった。

 萌え袖のせいで。



 

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