十二、

 幽体となった私には、誰も触れられないはずなのに、私の肩にポンっと手が触れる感触がした。私は慌てて後ろを振り向く。そこには、肩に手を置いている父と、父に寄り添って涙ぐんでいる母がいた。私は改めて自分が死んでしまった事を自覚するとともに、涙が溢れるという言葉では足りないぐらい、泣いて泣いて泣き喚いた。


「お父さんっ、お母さんっ…」


それ以外の言葉は出てこなかった。父と母がいなくなってから、私はずっと孤独に生きてきた。でも今目の前に、父と母が立っている。私はもう一人じゃないんだ。会いたかった。会いたかった。本当に心から会いたい人に会えたら言葉が出なくなるんだと初めて感じた。


「お前はよく頑張ったよ」

「あなたは私たちの誇りだわ」


父と母も泣きながら言う。


「私たちもあなたのことが気になって成仏できなかったのよ。だからずっと近くで見ていたわ」

「そうだったの…?」

「ええ。あなたが私たちの写真を見て拝んでくれていた時、私たちはあなたが特殊な力を使って疲労した体を癒していたの」

「だけど、お前疲れ切って、拝むのやめたろ?だから疲労が蓄積しすぎて、病院でも原因は分からなかったってわけだ。まあ俺様のおかげで元気でやれてたのに、拝むのやめるなんて酷いことするから自業自得だな」

「ちょっとあなた」


父は母に思いっきり叩かれる。私は泣きながらクスッと笑ってしまった。


「ようやく笑ったな」

「やっと笑ったわね」


そういえば、ここ最近笑っていなかった。父は私を笑わせようとして、ふざけてくれたんだ。でも、父と母の話が本当なら、いや、嘘なんてつくはずないから本当だろう。本当に自業自得だ。私は父と母が私の疲労を取り除いてくれていた事にうっすら気づいていながら、拝むという行為を続ける事ができなくなるほど疲れ切っていた。


「また、暗い顔してどうしたの」


母が涙を浮かべた優しい顔で尋ねる。


「お父さんとお母さんが、私の事を助けてくれていたのをうっすら勘付いていたのに、ちゃんと毎日拝まなくてごめんなさい」


「気にしなくていいの。もう全て終わったのよ。もうあなたは楽になっていいの。もちろん私たちもね」


母はまた父をバシッと叩く。父は笑っていた。


 そうか。全て終わったのか。でも、成仏できないのはどうしてだろう。まだ何か心残りがあるのかな。


「それじゃあ、この世の最後にちょっくら三人で行ってみるか」


父はそう言うと、母と私と手を繋ぎ、病院の窓から飛び降りた。私たちはふわふわ浮いていた。

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