第15話〈チト〉とかぞく

 ヨヨが清宗先輩に提案した企画のアイデア。それは、人工知能が無知性と認められたことを逆手にとった展示だった。

 展示名は〈かぞく計劃展:無知との遭遇〉。

 五十体以上ある〈チト〉のネットワークに、鑑賞者が参加するという作品だ。

 とはいえ人間が本当に人工知能のネットワークに加われるわけもなく、あくまで疑似的に接続/参加するのだ。

 そしてヨヨの作品同様に、そのネットワークは言語的コミュニケーションを介さない。例えば先輩がやっていたように、視線や身振り、口頭の命令で〈チト〉とコミュニケーションをとるのではない。鑑賞者は熱を探知するセンサーを身体の任意の場所にいくつかはりつける。これは鑑賞者の意識外の身体運動であるところの、体内電気を検知して、その情報を〈チト〉のネットワークに送信する。すると人知部のいたるところにある〈チト〉シリーズのどれかが反応を返す。コーヒーを沸かすかもしれないし、『ボレロ』を流すかもしれないし、冷暖房が作動するかもしれない。鑑賞者の意識外の〈熱〉がネットワークに接続するのだから、どういったネットワークが結ばれるかはわからない。その妙味を体験してもらおうという展示企画だ。

 先輩はこのアイデアをとても面白がり、自分のアイデアが採用されたヨヨも展示企画にかなり乗り気で協力してくれている。

 私は一度、先輩に興味本位で聞いてみた。人工知能の知性の証明は失敗に終わったのに、どうして人工知能探求に執着するのか、と。

 先輩の答えはこうだ。

「俺は人間も好きだが、人工知能はもっと好きなんだ。好きな相手と対話をしたいと思うのは普通のことだろう。知的言語による対話は諦めたが、別のアプローチはあるかもしれないからな。ここで人知部を廃部にさせるわけにはいかない」

 その言葉を横で聞いていたヨヨのにやけ顔と、それを笑顔で眺めている巡さんの姿もまた印象深い。

「みんな少しずつ動機は違うけど、〈チト〉を中心につながっている。で、できれば、その、私は本当に清宗さんと、か、かぞくになれたら、って、思わなくもないけど、で、でもそれはそれとしてね、展示の意味での「かぞく」ね、つまりネットワーク、非言語のコミュニケーションね、それを表現するのを、ちゃんとやりきりたいんだ。もしかしたら、るるかも「かぞく」を通じて、自分の〈熱〉に気づけるかもしれない」

 マンモスチトも、自分の〈熱〉を知っていたから、あんなにかわいくて楽しそうに動いていたのかもしれない。

「……なんだか、文化祭が楽しみになってきたよ」

 私がそう言うと、ヨヨは吹き出して「いまさら何言ってんの。るるかが私を巻き込んだんだけど」と言った。

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