第38話

『それじゃあ……それだけだから……おやすみ』


「あ、あぁ……おやすみ」


 清瀬さんはそう言って電話を切った。

 短い電話だったはずなのに、俺はその電話が長いものに感じてしまった。

 

「なんで俺なんだ……」


 藍原か清瀬さん、どちらかを選ばなければ、この状況は終わらない。

 でも……俺はどうしたら良いのだろうか。


「……俺はどっちが好きなんだ」


 俺はそんな事を考えながら、ベッドに寝転がり目を閉じた。





 翌日、俺は学校の自分のクラスに入ると、いきなり直晄に話し掛けられた。


「湊斗、ちょっと来い」


「え? あ、あぁ」


 俺は直晄に言われるままについて行き、階段の踊り場まで連れてこられた。


「昨日は色々大変だったな……」


「あぁ……あれが修羅場って奴か……俺はもう経験したくない……」


「多分、これから何度か経験すると思うぞ……お前は」


 直晄の言うことは最もだった。

 二人の女子から好意を抱かれ、どちらか一方を選ばなければならないこの状況は修羅場に遭遇しやすい。


「んで、お前は結局どっちを選ぶんだ?」


「え?」


「え? じゃないだろ? 白戸さんがやり過ぎたとはいえ、いずれは決めなきゃいけないことだ」


「ま、まぁ……そうだけど……藍原が俺とよりを戻したいと思ってるなんて、知らなかったし……」


「俺は知ってたけどな……」


「知ってたなら言ってくれても良いだろ!」


「藍原さんのことを考えて言わなかったんだよ!」


 まぁ、直晄に当たっても仕方ない。

 俺はそう考え、これからの事を直晄に相談した。


「どうしたら良いと思う?」


「僕に聞かないでくれ……僕も昨日から胃が痛いんだ……」


「ストレス?」


「誰のせいだと思ってるんだ!」


 俺の方が色々痛いよ……。

 直晄は直晄で俺や藍原に気を遣ってくれていたみたいだ。

 こいつにも色々迷惑を掛けてるよなぁ……。

「はぁ……なぁ、直晄……」


「ん? なんだよ?」


「俺ってば……どうしたら良いんだろうな……」


「……藍原さんか清瀬さんって事?」


「……うん」


「モテる男は辛いな」


「そうかもな……」


「ん? 皮肉のつもりだったんだが?」


「いや……こう言ったらだれだけど……本当に辛いよ……どっちかの気持ちに答えるって事は、どっちかの気持ちを否定するってことだからな……」


「……なんだ……皮肉を言った僕が馬鹿見たいじゃないか」


 直晄はそう言いながら、スマホを弄り始めた。

 

「なぁ……直晄はいつもどうしてるんだ?」


「何が?」


「告白をどうやって断ってるんだ……お前は告白された回数が桁違いだろ?」


「まぁ……自慢をするわけじゃないけど……確かにそうかもね、でも湊斗と俺で違う事が一つある」


「なんだよ?」


「どうでも良い……言っちゃ悪いけど、他人みたいな人に告白されるのと、仲の良い友人……いや、それ以上の関係の相手に告白された事だ」


「……どう言う意味だよ」


「ごめん無理、で済む話しじゃないだろ?」


「確かに……」


「どうでも良い相手の告白を断るのは簡単。でも、二人はそんな簡単な関係じゃないだろ?」


 確かに直晄の言うとおりだ。

 藍原は元カノで、互いに嫌な部分も知ってる。

 だから一度別れたのに、あいつは俺をまた好きになって……俺もあいつをまた好きになりつつある。

 清瀬さんとは最近知り合ったけど、なんか一緒に居ると楽しいし、電話が来ると胸がざわつく。

 しかも、清瀬さんは俺に好意があると最初から俺に公言していたし、俺はそれに対して考えるとも言った。


「はぁ……」


「羨ましいなそのため息……」


 俺はため息を吐きながら、上を見上げた。

 藍原なんてもうどうでも良いと思っていた、清瀬さんに好意を持たれている事に気がついて浮かれた。

 でも……今はどっちの考えも変わった。

 藍原とはもう少し付き合い方を考えるべきだった。

 清瀬さんの事を真剣に考えるべきなら、藍原の事はスッパリ忘れるべきだった。


「とりあえず、ゴールデンウイークは清瀬さんとデートしてくるよ」


「え? この状況で?」


「約束してたんだ、それに……清瀬さんが楽しみにしてる」


「じゃあ、僕から一つ提案がある」


「提案?」





「藍原」


「え? み、湊斗!? な、何?」


「ゴールデンウイーク暇か?」


「え? まぁ……予定がある日もあるけど……なんで?」


「デートしようぜ」


「え?」


 お昼休み、俺は藍原を屋上に呼び出して話しをしていた。

 直晄からの提案で片方だけとデートをするのは良くないと言われ、俺は藍原にデートのお誘いをしていた。

 正直、気まずさで胃に穴が開きそうだが………確かに清瀬さんだけとデートをするのはなんか不公平な気がする。


「い、いきなりどうしたの? も、もしかして……昨日の話を気にしてる?」


「ま、まぁな……お前の気持ちとか……その……全然わかってなかった……」


 俺がそう言うと藍原は顔を真っ赤にして下を向いてしまった。

 まぁ、昨日の暴露事件の後出し……俺以上に藍原は気まずいだろうな……。


「き、きききき……昨日の話は……その……あの……気にしなくて良いから! 私が勝手にそう……思っただけだし……」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る