第34話

「もしもし」


『もしもし? 春山君? バイト終わったの?』


「あぁ、さっきね」


『お疲れ様、大変だった?』


「いや、そうでもないよ」


 電話で清瀬さんと話す内容は他愛も無い世間話がほとんどだった。


『それでその駅前のケーキ屋さんが美味しくてね……』


「へぇ~、俺も行ってみようかな?」


『……ねぇ、春山君……』


「何? どうかしたの?」


『映画……楽しみだね』


「ん? あぁ、そうだな……どうかした?」


『……いや……別に……て言うか、ただの私のわがままなんだけどさ……』


「うん」


『……なんか、最近藍原さんと仲良いから……ちょっとヤキモチ』


「そ、そっか……でも、俺はもう藍原とは……」


『わかってるよ、でもさ……好きな人が元カノと一緒にバイトしてるって……結構不安なんだよね……』


 まぁ、そうだよな……。

 俺はスマホ越しに清瀬さんの声を聞きながらそう思っていた。


「大丈夫だよ、俺と藍原はもう……」


『うん……そうだよね! ごめんね、変な話しして』


「いや、良いよ。大丈夫」


『もう遅いし、そろそろ電話切るね。ごめんね疲れてるのに』


「いや、俺も清瀬さんと話したかったし、全然良いよ。じゃあまた明日学校で」


『うん、じゃあね』


 清瀬さんはそう言い終えると、電話を切った。

 俺はスマホを机の上に置き、大きく伸びをする。


「はぁ~! 俺も寝るか……」


 時刻は23時を少し過ぎたくらいの時間だ。

 明日も学校だし、早めに寝ようと思い、俺はベッドに横になる。


「不安になるか……」


 俺は清瀬さんの言葉を思い出しながら、目を瞑った。

 清瀬さんの気持ちを知っているからこそ、俺は藍原と仲良くすることに疑問を抱き始めていた。

 藍原との関係は良好になりつつある。

 しかし、そのせいで清瀬さんが不安になるのはどうなのだろうか?

 

「俺と藍原は……終わったんだ……」


 俺はそう自分に言い聞かせながら、布団を被り眠りに落ちた。





「はぁ……困らせちゃったかな?」


 私、清瀬彩葉は先程まで電話していた春山君の事を考えながら、そんな事を呟く。

 

「……藍原さん……多分まだ春山君の事……」


 ライバルの名前を呟きながら、私は春山君の事を考えていた。

 私と元カノ、春山君はどっちを選ぶのだろう?


「もう……絶対に負けない……」


 そう、もう出遅れる訳にはいかない。

 絶対春山君を渡す訳にはいかない。

 私はそんな事を考えながら、ベッドに横になる。


「映画デートが勝負ね……」


 私はそんな事を考えながら、スマホで映画館周辺のデートスポットを調べ始めた。


「藍原さん……手強いもんなぁ……」


私はそんな事を考えながら、スマホを操作する。





「はぁ~あ……眠いなぁ……」


「どうしたの? 二日バイトして疲れた?」


「あぁ、まぁ……そんな感じ」


 学校の昼休み、俺は直晄と話しをしていた。 直晄は相変わらず、昨日のバイトの事が気になる様子で、俺にしつこくバイトの話しを聞いてくる。


「そう言えば、藍原の親父さんからこれからも店で働かないかって誘われたな……」


「へぇー! じゃあ結構気に入られてるんだ!」


「まぁ……そうなんじゃね?」


「これはもう藍原さんと結婚するしか……」


「なんでそうなるんだ」


「イデッ! 殴らないでよ……」


「お前が変な事を言うからだ!」


 俺は直晄の頭にチョップをお見舞いする。

 まったく……こいつは何回言ったらわかるんだか……。


「はぁ……どうしようか……考えててな」


「まぁ、そうだよね? 元カノの家でバイトって、結構気まずくない?」


「本当だよ……でも、作業もそこまで大変じゃないし……時給も割と良いし……」


 これから何かと金が必要になるし、バイトをして損は無い。

 しかも、面接も履歴書も不要でやっとってくれるバイト先がある。

 こんないい話は無いのだが……。


「問題が大きすぎるんだよなぁ……」


「だから、よりを戻せば全部解決じゃない?」


「それが簡単にいくわけないだろ?」


「湊斗は本当に藍原さんの事はもう……」


「……もう終わった話だ」


 俺は直晄にそう言って、会話を中断した。

 直晄の質問に俺は多分どう答えて良いかわからない。

 好きなのか、嫌いなのか……今じゃ自分が藍原にどんな感情を抱いているのか、まったくわからない。

 可愛いと思うことももちろんある、だが付き合って居た頃の藍原を思い出すと、よりを戻してもまた直ぐに別れるような気がしてならなかった。


「……直晄」


「何?」


「もう、藍原と俺の関係について……何も聞かないでくれ」


「え?」


「俺と藍原はもう別れたんだ……よりは戻らない。言い切っておくよ」


「……本当かな?」


 俺がそう言うと、直晄は笑いながら俺にそう言った。

 

「それより、今度のゴールデンウイークは清瀬さんとデートだろ?」


「あぁ、資金も手に入ったし、今日は帰り

に服でも見ていこうかな……」


「じゃあ、久しぶりに僕と帰るかい? 服の相談くらい乗るよ」


「おう、じゃあ頼むわ。俺はそういうの良くわからないし」

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