21 ひ孫が可愛くて、可愛くて



今は成人されたSさんの息子様がまだ2歳だった頃、Sさんは不思議な体験をしました。








今から18年ほど前。



その年、Sさんのおじい様が亡くなられました。


お葬式は無事に終えたのですが、ここからが大変です。



というのも、Sさんのご実家の信仰がため、

四十九日だけではなく、

七日ごとの法要を執り行う必要があったのです。


所謂、忌日法要であります。





Sさんは1週間に一度は必ず実家に帰り、

法要のお手伝いをするという忙しない日々を過ごしていました。




さて、忌日法要が中盤に差し掛かったころでしょうか。



夕暮れ時、Sさんはキッチンで夕食の準備をしながら、リビングで遊ぶ2歳の我が子を見守っていました。





積み木か、ミニカーか。


具体的に何のおもちゃかは覚えていないとのことでしたが、とにかく、

息子様は小さなおもちゃを幾つか床に並べて、手で探ったり、掴んだりして遊んでいたそうです。




(静かに遊んでるな。)




そう思いながらぼーっと眺めていると、

息子様が突然、床に並べたおもちゃの一つを手に掴み、斜め上、天井に向かって突き出すと、

「大きなおじいちゃん、はい!」

と言ったのです。





Sさんは驚きました。



“大きいおじいちゃん”とは、

おじい様のことを呼ぶ時に息子様が使っていた愛称でした。



ぎょっとしたものの、すぐに

「ああ、ひ孫をよく可愛がっていたおじいちゃんが会いに来たんだな。」

と受け入れたそうです。






不思議な出来事が起きつつ、迎えた四十九日。



実家での手伝いを終えて帰宅し、

Sさんは夕食の準備を始めました。



日が沈み始め、薄暗くなったリビングで遊ぶ我が子を気に掛けながら、手際よく調理をします。




しばらく静かに遊んでいた息子様。



が、彼は何の前触れもなく、急にぴたっと動きを止めると、周りを2、3度見渡して斜め上を見上げ、一点をじーっと凝視しました。



そして、持っていたおもちゃを投げ出したかと思うと、弾かれたようにだっと走り出し、

Sさんの元に駆け寄って、足にがっしりとしがみついたのです。



何も言わない息子様ですが、身体を震わせて何者かに対する恐怖を一身に伝えてきます。



事態が掴めぬSさんは、ただただ我が子の背中を撫でて、「大丈夫だよ、大丈夫。」となだめることしか出来なかったそうです。







翌日、家でのんびりしていると、固定電話が鳴りました。



電話をかけてきたのは、ご実家にいますお母様。



「あ、もしもし?お母さんどうしたの?」

『もしもし、S?』



話の内容は、法要の手伝いをしてくれたことに対するお礼と労いでした。



その流れで世間話を少しばかりし、話を締めようとした…その時にはっと昨日の出来事を思い出しました。




『それじゃあね。』

「あ、待って待って。お母さん、聞きたいことがあるんだけど。」

『何?』

「昨日、実家で何かしなかった?」

『え?突然、どうしたのよ。』



我が子がおじい様のことを呼んでおもちゃを差し出したのを見ていたSさんは、

昨日怯えたのもおじい様が関係していると考えたのでした。


彼女は話を聞き出そうと、お母様に昨日の出来事を説明します。



『ええ…。昨日何かしたかって言われても…。』

「なんでもないならいいんだけど…。」

『う~ん…。は!あった!あった、あった!』



お母様が電話の向こうで、上ずった声を上げました。



『昨日ね、四十九日の法要を終えたでしょう?だから、仏壇に飾っていたおじいちゃんの写真を上に上げたのよ。』




葬儀の後、後飾り祭壇に飾っていたおじい様の遺影。



四十九日を迎えて成仏しただろうと、廻り縁へずらっと飾られたご先祖様の遺影の隣に、

それを並べて吊るしたそうです。



それを聞いて、Sさんは思わず「あ~。そうだったんだね。」と呟き、納得しました。



生前、目に入れても痛くないというぐらい、ひ孫である息子様を溺愛していたおじい様。



四十九日を迎えて仏になった彼は、

「可愛いひ孫がいるんだ!」と、ご先祖様達を引っ張って来たに違いない、

そう思ったそうです。



大勢をぞろぞろ引き連れて会いに来るおじい様の姿は想像に容易く、

見知らぬ人間に囲まれてしまったであろう我が子に、Sさんは思わず同情したのでした。





「来てくれるのは良いんだけど、そんな大勢引きつれて来たら、そりゃ息子は怖がるよ!ちょっと考えてほしかったかな。」




話し終えたSさんは、当時の光景を思い出し、わははと笑いました。

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