18 祭り




「言われてみれば、私の家系って結構霊感が強いのかもしれない。」



Yさんからお話(夜勤の見回りで)を伺っている時に判明したのですが、

彼女の血筋には霊感の強い方が幾人もいらっしゃるようでした。


特に強かったと言われているのは、母方の家系で曾祖母にあたる方であります。

その強い霊感を活かして、今でいうカウンセラーのように悩みを抱えた人に寄り添っていたのだとか。


それだけのお力がある彼女のことですから、言霊を操り望み通りの死を引き寄せられたのかもしれません。


「私はお風呂で湯に浸かりながら眠るように死にたい。」と常々言っていた彼女は、

夫が居眠りをしている間、浴槽の中で湯に浸かったままご逝去されました。

原因が何であったかは不明ですが、まるでその瞬間に寿命が尽きたかのように、安らかに亡くなられたそうです。

まるで、眠っているかのように。



そんな彼女の血を引いているせいか、親戚同士で集まると不思議なことが起きてしまうらしく…。




先述した曾祖母の夫、曾祖父が亡くなったとの知らせをうけて、Yさんのお母さんが法要に参列された時のこと。


お昼を食べようと、大人と子供合わせて5人でファミリーレストランに行くことになりました。


席に着いてすぐ、店員が運んできた水。

お盆から机の上に1つずつコップが並べられ、全てが置かれた時、店員のすました態度とは裏腹に5人の心中はざわめいてお互いに顔を見合わせました。


なぜなら、店員が机に並べたコップはどう数えても6つ。

1つ多いのです。


「すみません。1つ多いのですが…。」

1人が店員にコップを指し示しながら声を掛けると、あっと店員は驚いて「すみません!おさげします!」と手際よくコップを片付けていきます。


店員がその場を去ったあと、お祖母さんが口を開きました。


「おじいちゃんが一緒に来ていたんだね。」


肉体を無くし霊体となって、私達についてきたのではないか。

法要という故人の冥福を祈る行事の後に、高祖父を側に感じることが出来たそうです。




また、祖父が亡くなってしばらく経ったある日のお話。


親戚のおじさんが遊びに来るということで、Yさんは家族と一緒に地元の有名な商業施設へ観光に行くことになりました。

一通り回ってお腹が空いてきたので、その施設内にある中華料理屋でご飯を食べることに。


そこの料理は日本人好みにアレンジした味付けでどれも美味しく、店内の雰囲気も良くて満足でした。

しかし、Yさんは1つだけ気になることがありました。

親とおじさんが話す声に雑じって聞こえてくる音です。



中国の伝統的な楽器である二胡や古箏の独特な調べ、特に箏の技法である押し手でぴぃいんと半音上がってゆらぐ音が、普段POPを聞く彼女には面白くてたまらなかったそう。


チェーン店の中華料理屋やテレビで中国の話題を紹介する時に流れるような、至って一般的な中華風の曲なのに、どうも気になって仕方がないのです。



その音が気になって数分経った時でした。


なんの前触れもなく、曲が変わったのです。


その音がはっきりと聞こえてきて、Yさんは驚きました。


今まで流れていた中華風の曲から一転、流れてきたのは大御所が歌う演歌だったのです。


サビで祭りだ祭りだと繰り返す、年末の歌合戦で大トリを飾ってきた有名な曲で、演歌になじみのないYさんでも歌手と題名がすぐに分かりました。

彼女がそのことを慌てて家族に伝えたのは、突然演歌が流れたからではありません。


その曲は、亡くなった曾祖父がカラオケに行っては必ず歌う十八番だったからです。


おじいちゃんの好きな歌が流れてる!と伝えると、みんな次々にああ、本当だ!と驚きました。


「あの中華風の音楽がCDで流されていたとしたら、誰かが意図的にやらないと曲は変わらないでしょう?もしかしたら店員さんの中に演歌が好きな人がいて流したのかもしれないけれど、演歌が流れたのはあの1曲だけだったし…。」

とYさんは首をひねります。



彼女はこの不思議な出来事を怖くは感じず、むしろ実に祖父らしい存在のアピールだと思っているそうです。


妻のことが大好きだった彼は生前に「俺が死んだらお前の枕元に出てやるからな。」と冗談めかして言っていました。

それに対して祖母は「怖くない形で出てきてね。」と返していたのです。







これらの体験をした当人達や読者様の中にはぞっとされている方もいらっしゃるかもしれませんが、作者はとても家族愛を感じられる話だと思いました。



コップが増えて亡き曾祖父を思い、曲が流れて「あ、これ、おじいちゃんが好きだった歌だ!」と気づけるのは、愛情持って家族と関わってきたからこそではないでしょうか。


もし関係が希薄だったら、水が多いのを店員の間違いだと流してしまうでしょうし、曲が流れてもそれが祖父の好きな曲だったと気づけなかったでしょう。


自分を愛し、知ってくれている家族が気づける形で、「側で見守っているよ」というメッセージを送ってくれた結果が今回のお話なのではないかと感じます。




起きた現象はどれも特異で驚かされましたが、心がほっと温まる、不思議な体験談でした。



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