031:倫理観の違い。
《個体名『ガウル』の眷属化に成功しました》
今、私の目の前にはライオン並にデカくて真っ黒な怖い狼が横たわっている。
えっと……。
本当に成功するとは……。
私は安堵と共にスキル〈獰猛狂化〉を解除する。
この狼、マジでヤバそうだからずっと発動させてた。
いつでも逃げられるように。
《ユウナ、ワタシを疑っていたのですか?》
いや、そういうわけじゃないんだけどね。
つぐみさんから〈眷属化〉の発動条件を聴いちゃったらさー、無理だと思うじゃん。
念の為にね。
スキル〈眷属化〉は凄いスキルだと思う。
でも満たさないといけない条件がかなり多い。
特に厳しい条件がこの2つ。
++++++++++
・自身を認識させた上で、対象の敵意を完全に排除する必要がある。
・射程は約1m。
++++++++++
かなりヤバいよね。
ほんとになんでうまくいったんだろ。
この条件があるから、不意打ちで眷属にするなんてことはできない。
どうにかして眷属になりたいと思わせるか、眷属になる以外選択肢はないのだと諦めさせるか、力で屈服させ心を完全にへし折るか。
私に思いつくのはこの程度。
しかも極めつけが、射程1m。
……危険すぎる。
そんな至近距離まで近づくってリスク高すぎ。
これは主につぐみさんの性質らしいけど。
だから文句はない。
そもそもつぐみさんがいなきゃ〈眷属化〉なんて激ヤバスキルは絶対手に入らなかったと思うし。
と、まあこんな感じで〈眷属化〉は発動自体が難しいうえにかなりのリスクがともなうわけよ。
やっぱ運がいいよね。
だって今回私はただ戦闘を上の方から眺めていて、血の匂いがエグかったから今ならイケるんじゃね? って思って〈麻痺のブレス〉と〈衰弱のブレス〉をブッパしただけだから。
まあ……戦闘というよりは完全にこの狼の一方的な殺戮だったけどね……。
《どうやら、この獣は群れを失い傷心中だったようです。その際にユウナと遭遇してしまい、自暴自棄になったようです》
え、そうだったの!
いや、そういえばそうだったね!
なんかごめん!
私は思わず横たわってる狼にペコリと頭を下げた。
伝わっているか分からないけど。
狼の鋭い眼光が怖い……。
《もう少しで、ワタシを介してユウナも会話が可能となります。しばらくお待ちください。個体名『ガウル』のステータスの取得は完了しましたので、ユウナの視界に表示します》
ん、会話とかできんの?
そんなに頭いいのこの狼。
ビックリなんだけど。
私が驚いていると、目の前に狼のステータスが表示された。
++++++++++
名前:ガウル
種族:イビルウルフ
LV:12
HP:508/508
MP:318/318
攻撃力:324
魔法力:201
防御力:174
対魔力:189
素早さ:507
状態:契約
属性:邪悪
カルマ:-701
ランク:C
【スキル】
〈牙術Lv.4〉〈爪術Lv3〉〈鋭敏臭覚Lv.ー〉〈潜影Lv.ー〉〈隠密Lv.5〉〈身体強化Lv.3〉〈気配遮断Lv.4〉〈気配察知Lv.3〉〈無音Lv.4〉〈統率Lv.5〉〈威圧Lv.3〉〈魔力操作Lv.4〉〈魔力感知Lv.4〉〈闇のブレスLv.5〉〈風のブレスLv.2〉〈闇魔法Lv.3〉〈高速移動Lv.1〉〈立体機動Lv.3〉〈風魔法Lv.2〉〈HP自動回復Lv.3〉〈MP自動回復Lv.2〉〈肉体変化Lv.ー〉〈闇属性耐性Lv.6〉〈風属性耐性Lv.5〉〈毒耐性Lv.5〉〈麻痺耐性Lv.5〉
【称号】
『ユウナの眷属』『闇狼』『闇夜の狩人』『統率者』『暗殺者』『殺戮者』『人類の敵』『人殺し』『魔物の敵』『残虐』『仲間思い』『スピードスター』
++++++++++
……うわー。
めっちゃ強いよこの狼。
普通に格上じゃん。
能力値が軒並み高い。
私よりレベル低いのに……。
素早さだけは私の方が上だけど、そもそもこの狼は特化って感じじゃない。
素早さが1番高いだけで、他が低いわけじゃないから。
しかも何気に名前があることに驚いた。
『ガウル』って名前だったんだ。
……外国の方ってわけじゃないよね?
群れで行動してたっぽいし。
へぇー、魔物にも名前がある奴がいるのか。
まあつぐみさんは会話できるって言ってたし、それくらいの知性があって群れで行動してるなら……当然っちゃ当然かな?
人間とあんま変わらないわけだし。
それにしても、状態異常ってやっぱ強いわー。
こんな格上も倒せてしまうとは。
逆に言うと、状態異常が効かない敵は本当に厄介ってことだね。
《ユウナ、伝えたい情報が2つあります》
お、どうしたのつぐみさん。
《まず悪い情報から。どうやら同時に眷属として従えられる数には限界があるようです》
ふーん。
別にいいんじゃない?
めちゃくちゃ大所帯になっても逆に動きづらいでしょ。
あと何体くらい眷属にできるの?
《恐らくあと3体……多くて4体程かと……。申し訳ありません》
いやいや、つぐみさんが謝ることないよ。
それなら眷属にする魔物は慎重に選ばないといけないってことだね。
《……? それは違いますよ?》
───え?
でも、眷属にできる数は限られてるんでしょ?
《はい。ですから、いらなくなった眷属は殺し、より良い眷属を補充していけばいいだけではないですか。あくまで同時に従えられる数に限りがあるだけなのですから》
…………。
…………。
…………。
いや倫理観っ!!
怖いよつぐみさんっ!!
何その悪魔の発想!!
さすがにドン引きだわ!!
《……? 分かりません。大切なのはユウナとワタシの命です。他はどうでもいいではないですか》
…………。
私はこのとき思い出した。
つぐみさんと私は、どんなに親しくなったとしても全く別の生き物だということを。
価値観、倫理観、道徳観や死生観なんかもたぶん全然違うんだと思う。
どうしてもギャップはある。
正直今の私には、どちらが正しいのかなんて分からなかった。
───いや、本当はわかってる。
生き残るということのみを考えれば、つぐみさんの言うことが絶対に正しい。
でも、少なくとも今は───私はそこまで『魔物』になれそうにはなかった。
えっと、その話はいったん保留っ!
良い方の情報を聞かせてよ。
《はい、分かりました。眷属化の副産物として、対象の精神寄生生命体を“吸収”することができました。それにより、ワタシの能力向上が図れるという事実が新たに分かったのです。今後はさらなる精神系スキルの獲得が見込めそうです》
…………へ?
それってつまり……つぐみさんは同族を……“食べた”ってこと?
《平たく言うと、そうなります》
…………。
…………。
…………。
いやだから倫理観っ!!
ここにきて味わうこととなった、つぐみさんと私の大きすぎる倫理観の違い。
はいそうですか、とすぐに受け入れられるものでは全然なかったので、私は盛大に困惑した。
───目の前に巨狼が横たわっていることなど、すっかり忘れて。
++++++++++
後になって聞いたことなんだけど、ガウルはこの時すでにつぐみさんと私の会話が聴こえていたんだって。
だからどのタイミングで話しかけたらいいかすごく困っていたらしい。
その話を聴いて、私はガウルのことがとっても好きになりました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます