君の台詞の作者は誰?

村乃枯草

プロローグ あれは人生を損している、と思う

 僕は会話が得意な方ではない。

 話術で人を和ませ笑わせ、人の輪の中心になっている人を見るとうらましく思う。でも、そこまでだ。会話術を磨くのでもなく、人の輪の中に入っていくのでもなく、外から見てるだけ。それが僕の領分だ、と誰に聞かれるともない言い訳をしている。

 だから、学校の教室に入って、目の前の数人に「おはよう」と挨拶すると、それからしばらく話をすることがない。

 友達が多い女子は挨拶を交わす相手も多ければ、その後の話も長い。学生の本分は勉強だと言われるけど、本当の本分は無駄話なんだろうな。

 そんな中、ある子が教室に入ると気まずい空気が流れる。

 急いで教室に入ってきた女子生徒が、前を歩いていたその子とぶつかりそうになる。慌てて減速して、謝りの言葉をかけた。

「ごめん、秡川さん」

 秡川さんと呼ばれた女子は、後ろを向いて声をかけた女子を一瞥すると、無言で前を向いた。

 周囲からヒソヒソ声が上がる。

「なにあれ。感じ悪い」

「だまり姫になに言っても無駄だって。もう気にしなくていいよ」

 だまり姫こと秡川さんはひそみを意に介することもなく無言で自席に座り、平然と机の中の教科書を整理する。周囲は、彼女だけを別空間に切り離したように、自分たちの無駄話に戻る。

 これがこの学級の通常運行。おしなべてこの世は何も無し。

 彼女を見ていると、いくら会話下手の僕でも、あれは人生を損している、と思う。

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