マジカル★エクスプローラー エロゲの友人キャラに転生したけど、ゲーム知識使って自由に生きる

入栖/角川スニーカー文庫

一章 プロローグ

エロゲなんてモノは、だいたいが異常でツッコミどころ満載である。

 理由はたくさんある。まずは主人公の家庭からいこう。

 大抵のエロゲ主人公の親は家に居ない。なぜか居ない。妹や幼なじみに朝起こして貰うためにか、部屋に女を簡単に連れ込みたいというシナリオライターの都合か、くわしい理由は分からない。居ない理由としては海外出張している事もあるし、親元を離れ一人暮らしや寮生活を行っている事もあるし、初めから亡くなっている場合もある。

 また家に親が居ない上に世話焼きな美少女の妹がいるのかよ、なんてツッコミを入れたくなるが、エロゲではコレが普通なのだ。

 そう、ちょっと特殊な家庭で生活している事が多いのが、エロゲの主人公である。

 ツッコミどころ満載なのは家庭だけではない。エロゲ主人公に持ち得る特殊能力『エロゲ主人公補正』もそうだ。

 たとえば女装して女子校に通うというエロゲは、なぜか正体がばれない。何らかの特殊能力を使っているとしか思えないぐらいにばれることはない。とあるエロゲでは水泳の授業があったのにばれることはなかった。まあそのゲームでは主人公の代わりに幽霊が代理出席したから、ばれるわけがなかったのだが。

 うん、幽霊が出席したらそりゃばれるわけないよな(錯乱)。

 しかし、だ。『なんで今まであんなことがあってもばれなかったのに、どうしてそこでばれる!?』と言うタイミングで正体が露見するのもざらだ。体育で獅子奮迅の大活躍しても外れることのないウィッグが、なぜかヒロインと小さな小競り合いで簡単に外れるのだ。

 うん、ヒロインとの小競り合いじゃ仕方ないよな(錯乱)。

 少し本題から外れるが、本来なら『女子校に男子が女装して通う』という前提からして、異常きわまりなく一般人には理解しがたいものである。ただエロゲ界においては至って普通の出来事であり、玄人でなくとも何ら違和感を持たずにシナリオに没頭できるシチュエーションである。このシチュエーション違和感を持つのはよっぽどのエロゲ初心者だけだ。

 また、主人公のモテっぷりもエロゲ主人公補正の一つと言えるだろう。

 主人公の周りには、綺麗どころが集まる。お兄ちゃん呼ばわりする美人妹や義妹。頼んでもいないのに朝早くから起こしに来て、勝手に布団をめくって朝立ちにびびり、張り手する美少女幼なじみ。才色兼備で容姿端麗で凜とした佇まいなのに、エロエロなシーンになると急にしおらしくなる生徒会長。はたまた大学を出たはずなのに小学生にしか見えないロリ教師まで。それらが本当になんの取り柄もない、ただ少し優しいだけの少年に集まり、欲情するのだ。彼女らは淫魔(サキュバス)のたぐいなのだろうか。いや主人公が男淫魔(インキュバス)なのか。

 とはいえ異常なのは主人公だけではなく、ヒロインもだ。

 現実に居たらどん引きするであろう口癖のチョロインや、プロの格闘家もびっくりなほど戦闘力のあるヒロイン、高校生の子がいるくせに見た目が娘と変わらない若さの主婦ヒロイン、しょうがくせい としか みえない ひろいん。

 ただ、どんなに若く見えるヒロインがいたとしても、ゲーム開始時に『登場人物は全員十八歳以上です』と表示されるため、プレイする紳士諸君(エロゲプレイヤー)はとても安心し自家発電に励むことができるだろう。

 さて、ストーリーもまた、頭のねじがぶっ飛んでいる。漫画、アニメ、ドラマなんかに比べても、遙かにぶっ飛んでいる。

 一つ例を挙げるとすれば、あれがいいだろうか。あるゲームの男主人公の家は父子家庭であり、しかも兄弟が男しかいない。つまり男のみの家庭だ。そして隣の家族は母子家庭でかつ、子供は姉妹しかいない。つまりこちらは女しかいない。さて、そんな男だらけの家の父親は、とても娘が欲しかった、そして隣に住む女だらけの家の母親は息子が欲しかった。親たちは考え抜いた末、名案をひらめいた。


 そうだ、息子と娘を交換しよう。


 エロゲなら起こり得る。なんという迷案であろうか。そして主人公は交換に出され、いきなりハーレムとなるのだ。

 紳士淑女(エロゲプレイヤー)は感動するだろう、なんて素晴らしい設定なんだと。しかし一般人は思うだろう、なんだこの超展開は?

 先にも話した女子校に女装通いもそうだ。いきなりハーレムだ。そして声を大きくして言えないが、抜きゲと呼ばれるエロに特化したエロゲは、初心者でなくとも理解しがたい超(エロ)展開すらある。

 つまり、エロゲとは一般的思考が通用しない、一種の超世界なのである。

 もしそんな超世界に来てしまったとしても、主人公なら一部のゲーム以外であまり問題にならないだろう。そして主人公は世界の中心で、とてつもなくモテるのだから。

 でも自分がその世界の中心主人公ではないと分かったならば。その世界は一歩間違えれば地獄と化す。

「やべえ、やべえよ……」

 鏡に映る自分は、自分なのだけれど自分ではない。いや鏡に映る人間は自分の思い通りに動くのだが、見た目が自分ではない、と言った方が正しいか。

 そして、この顔、明らかに……。

「絶対あのエロゲ主人公……じゃなくて横で騒いでるモテない友人だよな……!」

 思わずその場で膝をついた。



 エロゲ主人公の友人とは、たいてい不遇である。

 とある友人はむだに奇行を繰り返し、ヒロインから汚物のような扱いを受けることもあるし、とある友人は二股主人公に絡まれ、仲を取り持つために奔走することもある。

 そしてなによりエロゲ友人キャラにありがちな設定であり、不遇と至らしめる一番の理由は『モテない』である。

 彼らは非常にモテない。特に美女とはお近づきになれない。理由は簡単だ。主人公プレイヤーが気に入った女の子が主人公の友人とくっついたらどうなるかを考えればいい。すぐさま土砂降りのように苦情が来て、ユーザーが激減するからだ。

 俺だって気になっていたかわいい女の子が、画面にちらちら出てくる糞男にとられでもしたら、画面を突き破る程の正拳突きをかましてしまう可能性は大いにあり得る。また、すぐさまサポートページに飛んで罵詈雑言を並べ立て、今度は某掲示板サイトや批評サイトで狂ったように批判したのち、傷ついた同士とむせび泣きながらも励ましあっていることだろう。

 さて、鏡に映る俺『瀧音幸助たきおとこうすけ』は超不遇にも不遇にもなりえる、可変キャラクターだ。もちろん優遇、とまではいかない。

 このキャラが登場するゲーム『マジカル★エクスプローラー(通称マジエク)』はクリックゲーとも呼ばれる戦闘シミュレーションゲームである。ゲームプレイヤーは学園生活を行いながら、授業やイベント等で行くダンジョンで戦闘を行い、自分や仲間を強化していく。またこのゲームは武器防具、魔法、魔道具等を製作することもでき、自分専用の特別な武器やらを装備させることもできるし、商店を開いて都市一番の錬金術師兼商人を目指すこともできる。

 無論これはエロゲのため、恋愛要素もしっかり存在する。むしろメインが恋愛要素だろう。

 日々の生活では美人かつ実力者のヒロイン共が異常なほど絡んできて(主人公のみ)、神に祝福されているのではないかというぐらいエロハプニングが起こる(主人公のみ)。風呂覗きはなぜか成功し、ヒロインたちのアーンな姿を見ることだってできる(主人公のみ)。

 主人公の友人である瀧音幸助は、いちゃいちゃする主人公を横で見ながら、半泣きでハンカチを噛んでいるような、いわゆる三枚目。そう、引き立て役君だ。

 『あの子超かわいいだろ、実はな……』とか、『あの子は学園一の美少女ともいわれているぜ』とか、やたら語るものの、そのすべての女性はすべて主人公に持っていかれてしまう。もちろんであるが瀧音幸助に用意された女性はいない。

 用意された女性どころか、嫌われていたぐらいだ。それなりのイケメンではあるらしいが、空気を読まずエロ発言をしたり、アホとしか思えない行動をしていれば、残念ながら当然であるとしか言えないが。一応例外として、何人か嫌悪しないヒロインもいるにはいるが、それはごく一部だ。

 だからこそ瀧音幸助を主軸として恋愛シミュレーション視点で見れば、かなり不遇といえるだろう。

 また戦闘面でも不遇な方だ。そもそも男性キャラクター全体がパッとしない性能になりやすい傾向がある。当然だ。エロゲをプレイする紳士淑女が何を求めているかといえば、嫁にしたい美少女ヒロインである。

 求めているヒロインが強ければ、人気も上がりやすい。人気が上がればグッズの売り上げが上がる。なにより開発者たちがヒロインが好きで、なるべく強くしたいと思っているんだから、ヒロインは強くなるに決まっている。

 ただ、その中で瀧音幸助の能力は悪くはない。悪くはないのだが、超玄人向けの性能であることと、専用武器が無いこと、そして何よりヒロイン達が優遇されているため、対比して不遇に見える。終盤はほとんどの人がメインパーティから外してしまうであろう。もちろん俺も外した。どう考えたってヒロイン使いたいに決まってる。

「はあっ」

 目の前に映った瀧音幸助が大きくため息をつく。

「とりあえず俺が本当に瀧音幸助なのか確認するか……」

 と瀧音幸助のアイデンティティともいえるマフラーを外しながら、少ない可能性をつぶしに行く。しかし、

「現実はかくも非常なのか」

 なんでこうなったんだろう? どうやら俺は本当に瀧音幸助らしい。この体は自分ではない。理由は……不明だ。戻る方法も不明だ。

 それに今考えるならば原因よりも、今後どうするかだ。原因がすぐ分かるなら考えても良いが、そうではないだろう。ならばまず今後どう生活するかを考えた方が建設的だ。

「ここってマジカル★エクスプローラーの世界なんだよな」

 日本ではない。魔法と機械技術が融合して発展した世界だ。エルフ、獣人、ドワーフだって居るファンタジー世界なのだ。

 ならば。

「俺って魔法……使えるんだよな?」

 いや、使えないわけがない。先ほど自分が瀧音幸助だと確認したときに入学の案内も見つけた。こいつはツクヨミ魔法学園に入学が決まっているのだ。

 魔法学園に魔法使いじゃないやつが入学できるだろうか。

「魔法かぁ」

 使えるならぜひとも使ってみたいとは思う。ていうか、使えなければ学園退学じゃないか? うん、ならばどうやって使うのだ?

「ゲームだったらマウスでクリックやら勝手に発動してたりなんだけどな」

 画面じゃあないしクリックなんてできない。そもそもステータスすら見ることができない。自分のHPとかMPが見えるくらいしてほしいが、まあ無理だろう。

 だが、こいつは魔法使いだから入学できたのだ、であれば魔法に関する教科書というか、本が残っているのではないか?

 椅子から立ち上がってリビングを出る。

 瀧音幸助はゲームの設定どおり、学力はお世辞にも良いとは言えないらしい。教科書やノートに封印されたテストは、半分程度しか丸が書かれていない。また魔法の歴史書や国語の教科書に写されている有名らしい人物の写真には、レベルの低い落書きがしてある。

 なんだこいつは授業をしっかり受けろよ、なんて思ったが一年前の教科書からはその落書きはぱったり無くなった。そしていたるところに魔法式やら魔法陣やら、魔法に関する何かが書かれるようになっていた。

 俺は魔法の歴史書を閉じる。そして本を持ったサルの絵が描かれた魔法書、それもやけに綺麗な魔法書を手に取る。

「サルでもわかる魔法、ね」

 何ら書き込みもなく、折り目すらもなく、開いた形跡さえなさそうな綺麗なままの本をパラパラめくる。浮かんだ疑問もあったが少し考えても答えは出ず、結局考えることを放棄した。とりあえず読んでみよう。

 本に書いてあることを信じれば、この世に生まれた生物には魔力が備わっているらしく、また大気中にもその魔力というものがあるらしい。これはゲームで見た設定と同一である。

 そしてその魔力を利用して起こす奇跡、魔法。火を生み出し、水を生み出し、風を生み出し、土や金属でさえも生み出す。

 ただ起こす奇跡に比例して魔力を消費するため、魔法使いはある一定以上の魔力を持たなければならない。一般人と魔法使いの一番の違いは、この魔力量にある。らしい。もっともゲームと同じであれば、瀧音幸助は学園の教師ですら舌を巻くほどの魔力量を誇っているはずだ。魔力量だけなら。

「あー、書いてあるとおりにしてみたが、これかな。でもなんか変な感じがするんだよな……」

 たとえて言うなら目や耳が光と音を認知しているみたいに、体全体が新たな感覚器官になってしまったような。それでいてその不思議な温かみのある魔力みたいなものは、全身からあふれるくらいに感じられると同時に、体の外にも似たようなものが存在しているように思う。そして外の魔力は俺の体をソフトタッチしてきていて、正直くすぐったい。

「なんで意識したとたん、こんなに感じられるようになったんだ?」

 考えたところで答えはでない。そもそも魔力自体をよく知らないのだから当然か。だったら魔法を試してみよう。もし使えればやっぱりこれは魔力だったといえるだろう。

「ええと、『ライト』」

 魔力の少ない一般人にも使えたりするとまで書かれていた、明かりの魔法『ライト』。正直に言えば『ライト』ですら、本当にできるのかと半信半疑だった。魔法なんて今まで一切触れていなかったのだ。でも思考とは裏腹に、現象はすぐに表れた。

「うそだろ? マジかよ……」

 目の前に浮かぶ光源。手で光源の周りの空を切る。電線の役割をしている紐やらが無いかを確認するも、何もぶつかることは無い。今度はゆっくりその光源に手を近づけていく。

「は、ははっ、はははっ、すぅぅっっげぇええ!」

 ただ光源に接触することは無かった。また熱もなかった。ただ手がその光源を貫き、切り裂く。しかし光源は最初の形のままだし、そこから微動だにしない。魔力の供給を止めると、その不思議な光源はすぐに消えてしまった。

 俺は部屋の電気を消し、カーテンを閉める。そしてもう一度魔法を使った。

 ピカ、と薄暗かった室内が、不思議な光球によって照らされる。俺が魔力供給を止め、消滅するよう唱える。するとすぐにその光球は光を失い、あたりは薄暗闇になる。俺は再度ライトの魔法を唱え、室内を照らす。

「信じられねえ……」

 生み出された光球は電気を動力とする熱を持った光ではない。魔力によって生み出されたライトだ。すぐに魔力の供給を止めて、ライトをまた消す。魔法を発動させると、ピカ、とあたりが照らされる。

 すればするだけ感動した。そして魔法という摩訶不思議な力に心が躍る。

 他者からすれば、何をやってるんだと思われるかもしれない。だって俺がやってるのはライトという、魔法使いが始めて覚える魔法だ。幼稚園とか小学生くらいの魔法使いが一番初めに覚えるらしい魔法だ。なに、おまえはそんな当たり前の魔法で感動しているんだ、と言われたっておかしくない。でも仕方ないだろう。

 もし電気の概念がまだない世界の住人が、いきなりテレビやらネットやらを見たらどう

思うか。失禁とまではいかなくても腰を抜かすことはあり得るだろう。でも俺たちの世界は電気があることが普通で、小さなころから慣れてしまってるんだ。だから驚かない。

 魔法だって同じなんだろう。こんなので驚く俺を馬鹿にする奴は、この世界の奴に腐る程いるだろう。だが言ってやりたい。魔法のない世界から来てみろ。おまえらはたかがライトというかもしれない。だけど俺にとっては電気を使わない空中浮遊するライトなんだ。

「すっっっっげぇっ………………!」

 ライトをつけて消して、またつけては消して。繰り返すたびに感動し、一つの思いが心の中に生まれる。

 作り出された光に手を伸ばし、包み込むように手をかぶせる。そしてゆっくり手を開き、まったく衰えることのない光を見つめる。それをしていくうちに、自分の心の中でくすぶる何かに、だんだんと火が付いていった。

 魔法を使っていろんな事をしてみたい。

 魔法はライトだけではない。攻撃魔法、防御魔法、回復魔法、補助魔法、ネタ魔法、エロ魔法。数え切れない種類の魔法がある。俺はそれを使うことが出来るのだ。瀧音一人では難しいが、仲間に頼ったりアイテムを使うことで飛行することだって可能だろうし水中を自在に泳ぐことも、水中で呼吸することも可能になるはずだ。また戦闘用の魔法をしっかり扱えれば、『ダンジョン』にだって挑めるだろう。

 そうだ、そうだよ! この世界には『ダンジョン』があるんだ。

 俺は世界に存在するダンジョンを冒険できるのだ。マジカル★エクスプローラーの設定通りなら、この世界には数多のダンジョンが存在している。

 舞台となる学園は特にダンジョンの多い地域に立地している上に、転移魔方陣のおかげで数十のダンジョンに挑戦出来た。ゲームなどによくある洞窟や遺跡風のダンジョンや、忍者屋敷のような和風ダンジョンもあれば、仕切りなど一切ない広々とした草原が広がるダンジョン、渓谷、火山、雪原、浮遊島。さらにはアニメでよく使われる、鏡のような湖をモチーフとしたダンジョン、壁全体が宝石のように輝く水晶で出来たダンジョンなど幻想的なダンジョンもある。

 そんなダンジョンに俺は行くことが出来るのだ。

 そう、俺はファンタジーの世界に居るのだ。幻想を目の当たりに出来るのだ!

 いや、よく考えてみろ。ダンジョンだけではないじゃないか。

 世界もだ。世界には面白い物がたくさんある。ここは日本のように自動車、スマホのような物が存在している。それらの動力はすべて魔力や魔石という設定だった。

 俺は魔法の道具が使えるのだ。魔法の道具はどんな仕組みになっているんだろう、魔石とはどんなことが出来るんだろう。知りたいことが数え切れないほどある。そしてそれらは調べればそれらの回答が得られる世界なのだ。これは夢物語ではない、現実なのだ。

 しかもこの世界には人類がまだ到達できていない大陸の中心、地球ではありえない天空に浮かぶ城、地底には大迷宮、海底には龍が住むと言われる宮殿もある、森には小さな山よりも大きい巨大な世界樹があるという設定だった。ゲームでは学園とダンジョンが主だったから、そう言った場所があるという情報だけで、実際に行くのは数カ所だけだったが。

 でも俺はゲームに縛られていない、自由なのだ。

 そんな楽しそうな場所へ主人公達やヒロイン達と一緒に行くことが出来るのだ。

 またこの世界にはエルフやダークエルフや獣人やドワーフや竜人など、地球にはいないファンタジーな種族達も居る。そんな彼女たちと交流も可能だ。仲良くなれば一緒に冒険にいけるかもしれない。

 ああ、やりたいことが次から次へとあふれ、胸がいっぱいになっていく。だがしかし。

「でもダンジョンや世界を冒険するなら……強くならなければならないな」

 強くなる、か。強くなるんだったら自分を鍛えねばなるまい。

 瀧音幸助がゲームの設定通りなら大きな弱点がある。しかしそれ以上に使いこなせばとてつもなく強くなることが出来る、瀧音しか持たない特殊なスキルも持っている。そしてなにより俺には知識がある。最強には届かないだろうが強くなることは出来る。

 いや、待ってくれ。本当にそうか? 本当に最強になれないか?

 エロゲにおいて基本的に優遇されるのは運営やユーザーお気に入りの『美少女』達、そして自身の分身『主人公』である。

「そんな奴らを超えて、友人キャラで最強になれるのか? いや、以外にイケるんじゃないか」

 あのチート共を差し置いて俺は最強になれるだろうか?

 ああ、理解している。彼女らは化け物だ。メインヒロインの一人は荒れ狂う風を自在に操り、鉄のような甲殻を切り刻むほどの風の刃を広範囲にぶっ放す。いくら重傷を負っていたとしても、瞬時に回復させるヒロインもいる。目にもとまらぬ速さで連続攻撃を行う特技を持っていて、終盤ボスですら一度の攻撃で粉々にしてしまうヒロインだっている。そんな彼女達が立ちはだかるのだから、最強への道のりは非常に険しいといっても過言ではない。

「でもどうせだったら……」

 それを理解してなお、俺は頂点を目指してみたい。でもだからといってヒロイン達の邪魔をし、弱体化させ勝利したいのではない。そもそも大好きなヒロイン達が成長しようと努力しているのに、それを邪魔するなんて言語道断だ。俺は普通に成長して強くなったヒロインを超えて、最強になりたい。

 主人公? チートヒロイン達? はは、超えるべき人達がいて、逆にわくわくしてくるじゃないか。

 もし俺がゲームの瀧音幸助ならば、だ。圧倒的な才能持ちで優遇された主人公やヒロイン達と戦える『特殊な能力』があるんだ。そしてその能力を生かすために必要な力も、あのアペンド四天王、三強、そして主人公よりもある。

 そして何より俺には『ゲームの知識』がある。

 ゲームの知識と言えば、これ以上ない最高のチートだ。最強になるために必要な『可能性』の入手先も知っているし、チートな『装備』の入手先も知っている。自分に有益な『魔具』や『財宝』が眠っているダンジョンだって知っている。チート『スキル』がどこで入手できるか把握している。

 最強になるために最低限必要な物はそろっているじゃないか。

「決めた」

 なんでこの世界に来たのかは分からない。でもここで生活しなければならないなら、最強を目指して自分を鍛えてみよう。

 三強や主人公を超える最強を目指してみよう。

 そしてダンジョンだとか天空城だとか世界樹だとか、行きたいところへ自由に行ってみよう。

 この世界を満喫しようじゃないか!

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