第5話 これが僕の剣技だ。(剣技なんていらない)

 今日こそは手紙の差出人を特定するぞ!と意気込み、学園の教室に着く。一番怪しいのは転校生ちゃんだ。と、言うか9割9分9厘当たっていると思う。


 念のため手紙の名前をもう一度確認する。『イルフィリア・クライツェ』それが差出人の名だ。


 一度、転校生ちゃんのフルネームをどうやって知ろうか考える。

 

 みんなのいる教室で転校生ちゃんに「君のフルネームを教えてよ」なんて聞けない。普段女子とまともに会話しない男子が女子に、しかも転校生に向かって君の名前教えてよって言えるやつはこの世界にはいない。いや、どの世界にもいないだろう。


 どんだけお前転校生のこと気になってんだよ。と、思われかねん。


 そのみんなのいる教室以外で転校生ちゃんと二人きりの時に聞くのならまだセーフだ。だが、どうやって二人きりになるのかが問題だ。

 さてどうしたもんかなと悩んでいる内に先生が出席を取り始めた。すると先生が…。


「イルちゃん。イールちゃん。…あれ?イルフィリア・クライツェちゃんー。めずらしいね。今日はお休みかな?」


 などど言う。そう、彼女…先生は出席を取る時もみんなのことを愛称で呼ぶ。そしていない人は一応、一度はフルネームで呼ぶ。


 僕は慌てていない人の席を探す。そして手紙の差出人がわかった。







 やはり転校生ちゃんだった。







 僕は放課後、今日来てなかった転校生ちゃんとばったり街中まちなかで合わないかなぁとか思いながら街をぶらつく。こんな時はだいたい出会う。


「あ、あの…」


 おっと、ほら来た。僕は声のした方へ振り向くと転校生ちゃん…改め、イルフィリアちゃんがいた。


「ん? あなたは確か…クライツェさん…でしたよね?」


「はい。今、お時間宜しいでしょうか?」


「うん。別にいいよ」


 イルちゃんは丁寧な口調のおしとやか清楚系女子のようだ。僕は普段から同世代の女の子と話さないから僕の口調が丁寧語だったり、タメ口だったりとメチャクチャだ。ましてや手紙の差出人。そりゃ口調もおかしくなる。


「で、では、えっと…近くの訓練場に来ていただいても宜しいでしょうか?」


 訓練場…。えっと、近くのカフェとか見晴らしの良い高台とかじゃなくて訓練場?もしかしたら僕が勘違いしている事があるかもしれないため、僕は確認をとる。


「うん、いいけど。ただその前に一つ確認したいことがあるんだけど……。これ、クライツェさんが僕宛に下駄箱に入れたものですか?」


「! はい。そうです。あの、内容…読んで頂けましたか?」


「うん、そのことなんだけど、中身『1枚で放課後待ってます』しか書かれてなかったんだけど…」


「え!? そんなはずは…。『2枚』入ってませんでしたか?」


 うん、ここまで来たらもうわかった。手紙の内容は僕の想像しているものと違うな。これは。

 さて、僕に対してなんの用件なんだろう?やはりあの時の記憶はリザさんがしっかり消していてくれて、別の用件があって僕に手紙を渡したってことか。

 あ、でもドジっ娘ってのは僕の予想通りだったな。


「いや、ほら『1枚』しか手紙は入ってないよ」


「あ、ほんとですね。私ったらいつもこういうドジしちゃうんですよ」


 彼女はテヘペロする。今まで僕はドジっ娘好きではなかったが少しときめいてしまう。


「え、ぅ、ぁ…。あ、で、僕にどんな用なの?」


 もう一度言うがリザさんは『僕が能力を使って魔人を殺したところ』を彼女の記憶からちゃんと消したはずだ。だからこの件以外の話のはず。


「はい! それは…。『レル君に剣の稽古をつけて欲しいの!』魔人を倒せる程の強い人なんて私の周りにいなかったから。勇者も先生も手も足が出なかったあの魔人を倒せるなんてレル君は本当に強いんですね! 私、剣一筋で生きてきたからほんとそんけ-…。むごむご!」


 おい。こんな人の往来で僕が魔人を倒せること言うな。僕は慌てて口を塞ぐ。そしてそのまま、周囲に愛想笑いをしながらぐいぐいっと彼女を裏路地へ引っ張っていく。


「わかったわかった。わかったから。だから僕が魔人を倒せるってこと秘密にしといてくれないか?…わかったら頷いてくれ」


「むご! ふごぉー!」


 彼女は大きく頷いた。イルちゃん…剣のことになると人が変わるタイプなのね。


 学園生はだいたい負けず嫌いかバトル大好きか剣・魔法大好きのどれかがほとんどで騎士になりたい人も強いやつらと戦いたいからという理由で騎士になる人が結構いる。

 僕みたいに騎士は公務員だからという理由で入隊する人は少ない。

 強いやつらと戦いたいと言っても別に死に急いでいるわけじゃないから自分じゃ到底倒せないような魔人とか悪魔とかに戦いを挑むバカはあんまりいない。まぁ、勇者かごく一部のバカはいるけど。



 僕はイルちゃんの口から手を離す。


「ぷあぁ…。はぁ、はぁ」


「と、とりあえず落ち着いて、ね?…えっと用件ってのは僕に剣の稽古をつけて欲しいってことで良いんだよね?」


「はぁ、はい! 師匠!」


「………。あ、えっと、ごめんね。僕、人に教えるの苦手-…」


「師匠になってくれなかったら師匠が魔人を倒せる程強い人って学園のみんなに言いふらします!」


「………………………。はぁ、わかったよ。でも、本当に教えるの苦手だし、手加減も下手なんだ僕。から」(斬ってない)


「なら、見て学びます! そして師匠と呼ばせて下さい!」


「…学園じゃ師匠って呼ばないでね」


「はい!わかりました、師匠!」


「じゃ、また明日学園で」


 僕は頭を抱えながら立ち去る。が、何故かイルちゃんが付いてきた。僕は振り返り頭にハテナマークを浮かべる。イルちゃんも頭にハテナマークを浮かべた。


「ん? まだ何か用があるの?」


「師匠に付いてって見て学びます!」


「えっと。今からスーパー寄って家に帰るとこなんだけど…」


「付いてきます!」


「家まで来る気なの?」


「付いていきます! なんなら晩御飯お作りしますよ。」


「………………い、いやぁ。家はちょっとぉ。家は勘弁して欲しいなぁ」


「師匠の剣技を見るまではどこまでも付いてきます!」



 剣技…剣技かぁ。こういう時に『魔人』か『悪魔』か『斬っていい悪党』でも出てこないかなぁ。来るわけないか~。こんな都合の良いタイミングで悪者って出てこないよなぁ~。

































………………なぁ~?
















「グヘヘ、グフェ、グフェフェへ。こんな良いとこらに、グへ、良い獲物が、グフェ、いるじゃねえ、エ、エへ、エフェフェフェ。かよぉ」


 目がイッてる。呂律ろれつがなんかおかしい。血の垂れている剣を持っている。息が荒い。良く見ると左手に生首を持っていた。






 良いよな。これ。斬って問題ないよね?…よし、イルちゃんのために実演してみせよう。僕の『剣技』を。



 僕は素早く腰を落とし、足を軽く開き、左手を鞘に、そして右手を添える。居合い斬りの構えだ。


「お? オヘェ、俺とヤり合おうってぇ、エ、エへえ、かぁ? この俺の剣技に勝てるとおぉォ、で、デヘッデヘへへ、も、も思ってんのキャあ?」


「イルちゃん。見ててね」


「は、はい! 師匠!」


 いつものように左手の親指で鍔を弾き、刀身を少しみせ、能力を発動する。



「お前はもう、死んでいる」



 3



「オメェがその気ならヨォ」

「これが僕の剣技だ」


 僕は右手でつかを握る。



 2



「俺もマジになるゼ」

「だから言ったよ、僕」


 相手も居合い斬りの構えをする。



 1



「?んだぁあア?」

「僕の前に立った時点で…-」



 カチンッ


   

「アンアおマァァーー!!!」

「-お前はもう、死んでいると」


 相手は大量の血吹雪を上げ絶命する。これが僕の剣技。…剣技どころか剣なんて使ってないけどな。


 あ、そう言えば、勢い余ってイルちゃんのこと『イルちゃん』って呼んじゃった。どうしよう、なんか恥ずかしい。

 心の中で呼んでいたせいだ。心の中でもクライツェさんと呼ぶべきだった。とりあえず謝っとこう。馴れ馴れし過ぎるしな。


「あ、ごめん。クライツェさんのことイルちゃんって呼んじゃって」


「し、ししょー。凄すぎます! 強すぎます!私の名前なんてイルで良いですよ! 私! さえ見えなかったです!」


 そりゃ、僕、剣抜いてないし。見えるわけないよ。


「僕の剣技、見たでしょ。じゃ、僕、スーパー寄って帰るから。…あ、学園では師匠とは呼ばないで下さいよ」


「は、はい!ししょぅ…じゃなくて。…………はい、レル君、また明日」


 彼女は二重人格なんじゃないのか。と、疑えるレベルの豹変ぶりだ。学園ではあんなに清楚なお淑やか系ドジっ娘キャラなのに剣のことになると熱血剣バカになるのか。


 やれやれ、僕の秘密を隠さなきゃいけない要注意人物がまた増えた。ま、今さら一人や二人増えても変わんないか。




















 変わんないよね?









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