第3話 木刀でも僕の剣術ならお前を斬れる。(斬ってない)

 昨日、あの後、校舎裏、中庭、空き教室等々廻って最後に教室に戻ったけど手紙の差出人とおぼしき人とは会わなかった。


 今日の授業のほとんどは実技演習だ。そのため現在僕は校庭に出ている。一昨日魔人の襲撃があったのにも関わらず校庭は綺麗だった。戦いの後が何もない。

 この学校は特殊な結界に囲まれているため、学校が一晩で自動修復するらしい。ただ膨大な魔力がいるみたいだから大変な労力がいるとのこと。昨日、全校集会で校長が言ってた。


 さて、僕は騎士になるためこの学校に来た。だから僕は木刀を手にし、アーツィー君と手合わせしている。

 アーツィー君は僕よりやや強いくらいだ。この演習の中だと真ん中よりやや下くらいの位置にいる。それが僕の剣の腕前だ。

 ちなみにアーツィー君はこの演習の中だと上の下くらいの強さだ。え?アーツィー君と僕を比較する時、ちょっと盛ってないかって?いやいやぁ、まっさかぁ。


 そんな訳で只今絶賛、涼しい顔したアーツィー君の猛攻を僕は必死な形相をして受け流している。ア、アーツィー君…ちょっと君、いつもより激しくないか?昨日ラブレター(?)を貰った手前、僕はちょっとでもカッコいいとこ見せたいんだよ(怒)。いや、今僕のこと見てるかわかんないけど。


「流石は僕の親友、アーツィー君。やるね」


「なに言ってんだよ。レルだって、国内5位の剣をここまで受け流してるじゃないか」


 そう、アーツィー君は魔法無しの剣術大会で国内5位。ただこの実技演習は魔法ありきの実戦向きの演習だ。だからこの演習の中では上の下くらいになってしまう。大会ルールの魔法無しならこの演習の中では1番だと思う。


「ハハハッ、なんだか段々楽しくなってきたよ。もっと速度を上げるね」


「!?」


 いや、待って。きついんだが?もうきついんだが?僕のこの顔見てそのセリフ言ってる?ねぇ?もう、きついんだよ。ぎりぎりなんだよ。今日はちょっと頑張ってるだけだよ。良いとこ見せたいから。


 そんな僕の心の叫びを無視するかのように剣速が上がる。攻撃パターンも増える。


「くっ」


 思わず声が上がる。ホントにギリギリ堪える。だが、ここまで。アーツィー君の得意技、突き攻撃が放たれる。

 僕の腹に木刀が突き刺さる。僕はくの字に折れ曲がり、胃から吐き出しそうになったものを無理矢理飲み込む。


「うっ…、くっ。…はぁ、はぁ、はぁ…」


「あー、レル君大丈夫?レル君があんまりにも俺の攻撃凌ぐからつい本気出しちゃったよ」


 アーツィー君が僕の背中をさすってくれてる。いや、吐くからやめて。苦しくて声が出せない。あと、つい本気を出さないでくれない?アーツィー君。


 …僕は少しの間、喘いだあとアーツィー君につげる。


「僕、しばらく保健室で休んで来るよ」


「大丈夫?俺も行こうか?」


「いや、いいよ。僕一人で行ける。次の演習開始時間までには戻るよ」


「ああ、わかった」



 僕は木刀を手にしたまま保健室へ向かう。



 この学園の実技演習では自分の武器は使えない。演習に熱くなりすぎた生徒達が手加減せずに斬り合って互いに大怪我をしたことがあるからだ。だから演習前に先生がみんなの武器を回収して、模造刀をみんなに渡す。

 僕は模造刀じゃなくて木刀だけど。アーツィー君は僕に合わせて木刀を使っていたけど彼の本来の武器は彼オリジナルのロングソードだ。

 



 保健室前まで腹部を擦りながらたどり着いた僕は中に入ってベットで休もうと思い、ドアを開ける。するとそこには結界が張ってあった。

 保健室内だけという限定的な結界だ。これは遮音結界か。結界の内外の音を遮断するだけの結界。


 中に踏み入れるとそこには悪魔が半分服が脱げている女子生徒をベットに押し倒していた。悪魔といってもこいつはサキュバスか。

 

「んふふ。可愛い娘。食べちゃいたい」


「い、いやー! だ、誰かぁー! 誰か助けてぇー!!!」


「ふふ。可愛い悲鳴。私が結界を張ったから誰も助けに来ないわよ」


「ひ、や、やー! やめて!!! ………八ッ! 保健室の先生は!?」


「アぁー、ホント可愛い。ここにいた年増は今頃お寝むよ。私、年増に興味ないのよ。だから、ね?年増はお寝む中」


「へ?」


「あぁ!その表情とてもいいわ!」


 とかなんとか会話している。僕はただベットで横になりたいだけなんだけど。

 あと、保健室の先生のことを年増とか言うのはタブーだから。あの人に言わせれば29歳はまだ『ピチピチの20代』だから。あの人に年齢と独身のことツッコムのはマジで怖いからやめとき。


 あ、僕に気付いた。


「んもう! 誰よあんた!」


「え? え!?」


「折角良いところだったのに。邪魔をした報いを受けて貰うわ」


「た、助けて! お願いです! 助けて下さい。うぅ、ひっぐ、えっぐ、うぅ…」


「あぁーあ。しらけるわーこの展開。この表情。…私、可愛い女の子の絶望して泣き叫ぶ表情を見ながらその子にエッチなことするのが大好きなのよねぇ。だから、さぁ!!! あんたという希望が死ねば、この子は絶望してくれるよねぇ!?」


 僕はちょっと疑問に思っていたサキュバスって男を襲う悪魔じゃなかったっけ?という問いを勝手に答えてくれた。このサキュバスはそっち系の子か。

 そんなどーでもいいことを考えながら、僕は手に持っている木刀でホームラン予告みたいなポーズをとる。


「アッハハハハ、アハハハハッ。ぼ、木刀!?そんなもんで私を殺せるとでも思ってんの?ただの木の棒じゃ私を斬ることもできないんじゃない?アハハハハッ。おっかしー。アハハ」


「いや、できるよ」


「?」


「木刀でも僕の剣術ならお前を斬れる。そしてお前を殺せる」


「アッハハハハ。あんた悪魔を笑わせる才能はあるよ。いいよ、斬れるもんなら斬ってみな!そして私を殺してみせな!」



 ビュン!

 


 僕は木刀を降り下ろす。そしてサキュバスに背を向ける。


「な!? あんた何してんだ? 馬鹿にしてんのか!?」


「馬鹿になんかしてないよ。それにお前はもう斬った。だから『お前はもう、死んでいる』」


 僕は木刀をゆっくり腰に差していく。ゆっくり、ゆっくり。徐々に、徐々に。タイミングを合わせて…。














 3



「は、ハァ!?」



 2



「斬ったあぁ?」



 1



「まだ間合いにさえ入って-」



 スッ。



「なァアガガアアァイイィ!!!」


 サキュバスは大量の血を吹き出し消滅する。悪魔は魔人と違い、死ねば霧散するものだ。魔人は死体が残って後処理が面倒。


 あーあ。ベット3つあんのに3つとも血だらけじゃん。仕方ない。教室で座って休むか。ちなみに襲われていた女の子は放置した。リザさんに任せるとしよう。










「あれが噂のマルチデリーター。組織の人間が気付けないような小さく、ごく限定的な結界を素早く察知し、保健室に行く口実のため、わざと演習中にダメージを負い、人が襲われるすんでの所で助けに入る。これが組織のナンバーワンか…」


 じゅるりと舌舐めずりをする双眼鏡を持った女の子が呟いた。

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