多分マヨネーズ

「何勝手に出て行ってんのよ」

 美里愛ちゃんが冷たく切れ味のある言葉で僕を威圧した。


「ご、ごめん」

「ごめんで済まないわよ。浮気男!」

「う、浮気!?」


 美里愛ちゃんの突拍子もない言葉に、僕は仰天した。

「ちょっと、人聞きの悪いこと言わないでよ!」

「杏、いつまで私たちの邪魔したら気が済むの?しかも今回は、今回は……」

 美里愛ちゃんは落ち着いた口調ながら、僕を指差す手は震えていた。


「私から彼を奪う気ね」

「すみません、色々語弊があると思います!」

 僕はいてもたってもいられず叫んだ。

「清太を、奪う?」


「清太はJ.K.C.K.の専属アシスタント。なのに杏は彼と半ば強引に恋人契約することにより、私たちJ.K.C.K.の活動を無慈悲に妨害する。それが狙いでしょ。いいよね。アンタは彼氏をゲットできて、J.K.C.K.の撲滅にも大きく近づける。そう目論んでいるんでしょ」


「違うわよ。私はただ彼を保護したいだけ」

「違わない。男子、いや、ウチのアシスタントを略奪するなんて許さない。返しなさい」

 美里愛ちゃんが鬼気迫る表情で杏ちゃんに詰め寄る。ていうか僕、今、モノ扱いされてる?

「あそこに行っちゃダメよ」


 杏ちゃんが僕の両肩を抑える。僕は顔から火が出る思いをした。

「触るな!」

 美里愛ちゃんが背中からいきなり水鉄砲を持ち出した。そして、鉄砲の口から白くとろみのある物体が勢いよく放たれた。そいつはストレートに杏ちゃんの口へ飛び込んだ。


 しばし時が止まる。僕の肩にも、手前の床にも白い物体がかかっていた。何が起きたのかさっぱり分からなかった。

 気がついたら、杏の顔が青ざめていて、彼女が悶えはじめた。


「いやああああああああああっ!」


 杏ちゃんは絶叫しながら、自身の居場所である風紀委員室を飛び出した。美里愛ちゃんの勝ちが決まった。

「もしかして、マヨネーズ?」

 僕は素朴な質問をした。

「だったら?」

 美里愛ちゃんは相変わらず涼しくはぐらかす。


「さあ、邪魔者は消えたわね」

「そ、そうかな?」

 僕は美里愛ちゃんに苦笑いを見せた。


「とぼけてんじゃないわよ。アンタ今からペナルティだから」

「えっ!?」

「さっさと来なさい」

 美里愛ちゃんは有無を言わさず僕と左手をガッシリとつないだ。体の芯がいろんな意味で冷たくなった。


「あの、仲がいいんですね」

「別に清子は友だちでも何でもないから、ただのアシスタント」

 美里愛ちゃんはキッパリとその手の関係を否定しながら、僕を連れて風紀委員室を後にした。

「待ってください」

 香帆ちゃんもそう言いながらついてきた。

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