第4話 動物

 昨日は学校が始まったり、イリーナがこの街に帰ってきたりでドタバタしていたから疲れてしまった。

 帰ってきて適当にご飯を済ませるとそのまま風呂に入ることもなく寝てしまった。


「……て……起きて……。」


 いつもとは違う、なんというか形容するのが難しいのだが『美しい』という言葉が似合うような声が聞こえた。目をゆっくりと開けると、俺の部屋のカーテンを開けているイリーナの姿が見えた。


「あぁ……イリーナか……おはよう……。」

「サトリが朝ごはんを作って待ってますよ。」

「ふぁ……今行くよ。」


 朝に弱い俺は微妙に閉じている目をこすりながらどうにか起き上がる。

 昨日は早く寝たはずなのにいまいち疲れも取れていない俺は窓の近くでストレッチをしながらどうにか目を覚ます。

 階段を下りて朝ごはんのいいにおいを漂わせているダイニングやキッチンのほうへと向かう。


「ほい、朝ごはん。」

「ありがとう」


 俺と智里とイリーナは席に着くと同時に『いただきます』といい食べ始めた。


「――――ん?俺と智里と?」


 不思議な現象を前に考えていたことがつい口から出てしまった。

 え?なんでこの子普通に朝食摂ってるの?っていうかなんで智里もノータッチなの?居るのが普通なの?俺がおかしいの?


「私は朝の散歩中に通りかかったらちょうどサトリがごみを捨てているのを見かけたので、話しかけたらこれから朝食でもどうかと聞かれたので。」

「あぁ、そういうことか。」


 納得をしてしまったが当然この家の家主は俺の親であり、権限は親の次に俺が強いはずなのである。はず……であったがサトリよりも権限が下になってしまった。

 まあ仕方がない、朝食毎日作ってもらってるどころか遅刻しないように起こしに来てもらっている。何から何まで頭が上がらない。


「学校行くか……。」


 コーヒーを飲みながら静かに立ち上がる俺であった。



 ************



 学校に向かいながら俺たちは他愛もない話をしていた。ロシアの学校との違いであったり、授業内容の違いであったりといったことだ。


「勉強のほうはどうなんだ?」

「そうですね……編入試験の国語はどうしても慣れないのですがそれ以外の科目は易しかったですよ。」


 ちょうどその時であった、道端に猫が歩いている姿が見えた。

 首輪をつけているので飼い猫だろう。イリーナは車が来ていないことを確認すると道の真ん中でしゃがみ、猫に手のひらを見せて引き寄せようとした。


「こっちおいでー。」


 徐々に近づいてきて、彼女の手に顔をこすりつける猫。

 どこかで見たような、とは言ってもいまいち思い出せない。デジャヴか?

 智里が首を傾げ、何やら不思議そうな顔をする。


「あれ?イリーナって動物苦手じゃなかったの?」

「そういえばそうだな。」


 確かに彼女は動物が苦手であった。原因は昔犬に手を噛まれたことがあることが発端なのであるのだが、それが原因で動物はすべてトラウマになってしまったはずだ。


「苦手でしたけど成長するにつれて犬以外は慣れたんです。颯太は確か動物大好きでしたよね?」

「昔トラウマ克服のためにお前のところに動物持って行ってたな、どの動物持って行っても拒否されたから流石に匙を投げそうになった。犬だけはまだ苦手なのか?」

「はい……どうしてもあの時がチラつくので……。」



 *******



 その後の学校は授業も順調に進み、イリーナも順調に学校生活になれていた。

 どちらかと言えば今では俺のほうが友達の数が少ないまでである。俺……人脈ショボいな…。


 帰り道に差し掛かった時であっただろうか。

 いつも通りの道とは言ってもその中でも最も交通量の多い道だ。俺たちが歩道を歩きながら話してる時であっただろうか。


「あ!」


 イリーナが何やら大きな黄な声を発すると同時に、ガードレールを飛び越えた。


「イリーナ!」


 道路の真ん中にいたのは犬であった。

 小型犬のサイズでありながら道路を横断し、車を見るそぶりも見せない様子であった。

 あの犬目が見えてないのか……?


「あのバカ……犬苦手だろ!」


 おもいきりバッグを投げ捨てると俺もガードレールを飛び越えてイリーナと同じところへと向かう。

 イリーナが犬を拾い上げた瞬間であった、工事中のため、対向車線にはみ出した車がそのまま彼女のいるところへ一直線に突っ込んでくるのが分かった。

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