第2話


 直後に先輩はすたすた歩き始め、俺はその後ろをついていく。今日は部室裏に向かうのではなく、左手の段差を登っていった。そして最後方の席に鞄を置いて着席する。ここから前を見ると視聴覚室全体を見渡せるようになっていた。


「まず初めに言っておくけど、君が置かれている状況はかなりシビアだ」

「そ、そうなんですか」


 俺はごくりと生唾を呑み込む。


「あぁ、今日は火曜日だろう? そして週末からはゴールデンウィークだ。残念ながらうちの部は全日休みでね、その上一年生がバンドを組む期限は四月中と決められている。つまり今週の金曜日が君のタイムリミットだ」

「……本当にシビアですね」

「オマケに金曜日はミーティングがある。そこで一年生はバンドの結成と目標を全員に報告しなければならない。だから実質今日を含めて後三日しかないというわけだ」

「…………」

「そんなに不安そうな顔しなくても大丈夫だよ」


 そう言って黒木場先輩は俺の頭をポンポンと優しく叩いた。俺は恥ずかしさから咄嗟に俯いてしまう。それはなんだか撫でられることを催促してるみたいになってしまった。


「仮に金曜日までバンドを組めなかったとしても池野先生がどうにかしてくれるさ。あの人は多忙だからあまり部活には来れないけど、面倒見はいい人だからね」


 俺を安心させるために微笑む黒木場先輩に合わせてぎこちなくも笑う。でも、笑ってるだけじゃダメなんだ。俺はあそこに飛び込んでいかないといけない。


「黒木場先輩、教えてください。先輩はどうやってバンドを組みましたか」

「そんなにかしこまらなくていいよ」


 黒木場先輩は朗らかに笑いながら鞄を物色する。

そして中からオレンジ色のレジ袋を取り出し、俺に手渡してきた。中身を確認すると、CDが複数枚入っている。


「これは今流行りのバンドだ。運がいいことに最近はキーボードがメンバーに入っているバンドもかなり流行っている。だからそれを皮切りに話し掛ければいい。やっぱりここは音楽の話が一番盛り上がるからねぇ」

「……お借りしていいんですか?」

「勿論さ、私もしてもらったことだし。それに誰かと好きな音楽を共有するというのはとても楽しいことなんだ。君にも是非その喜びを知ってもらいたいからね。だから私にも感想を聞かせてくれたら嬉しいな」


 ……黒木場先輩の目を見る。恥ずかしいけど、目を見て伝えたいと思ったから。


「ありがとうございます。俺、絶対頑張りますんで見ててください!」


 黒木場先輩はまたあの快晴の笑みを浮かべて、俺にサムズアップで応えてくれた。

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