第2話 リビングアーマー

 夜道を行くサンテの前に現れたのは。

 体長およそ1メートルのハゲた腰ミノ。

 そんな特徴を持った緑の体色をした人型の魔物、ゴブリンだった。


「姉さんも兄さんも凄かったんだから、私だって凄いはずよ」


 子供らしい何の根拠もない、自信に溢れた言葉と態度。

 だが当然、ゴブリンには言葉も自信も通用しない。


「ギギャーッ!!」


 ゴブリンは奇声を上げながらサンテへ飛びかかると、両手の爪を振り下ろした。


「キャーッ!」


 悲鳴を上げ、頭をかかえて蹲るサンテ。


 ガイーンッ!!


 しかしその爪はサンテには届かず、金属の盾にて阻まれ。

 勢い余り衝突したゴブリンは、弾かれて後方へと転がっていく。


「ギャギャッ!?」


 何の前触れもなく現れ攻撃を防いだ、全身金属鎧の人物にゴブリンが戸惑っていると。

 鎧の人物は、右手に持った長剣を躊躇いなく振り下ろした。


 ドガン!


 空気すら吹き飛ばす音を剣が放ち、その後に剣身がゴブリンへと衝突する。

 剣の衝撃に吹き飛ばされたゴブリンは地面に倒れ込み。

 頭上に現れたHPバーが、みるみるうちに減少していき。

 そして終には、ゼロになる。


 ポンッ!


 HPバーがゼロになったゴブリンが煙に包まれると、跡には黒く小さな小石が残されていた。


「あっ、あの。危ない所を助けてくれて、どうもありがとうございます」


 鎧の人物は何でもないと言う風に手を振ると、頭へ手を移して兜を外して見せた。


 カポッ!


 そんな音が聞こえそうなほど見事に外された兜の中は……

 頭も首もなく、空っぽだった。


「きゅー……」


 サンテは、生まれて初めて気絶を体験した。




 快い揺れと地面の硬さに目覚めてみれば。

 サンテは誰も装着せずに空っぽなのに、ひとりでに動いて自分を助けてくれた金属鎧の腕の中であった。


「あわわわわわわわわわ」


 両手を前に出してパタパタ上下させるも、その程度では状況に何の変化も起こさない。

 本来ならば。

 しかし伽藍がらんの鎧は丁寧にサンテを地面に立たせると、少しだけ距離を空けた。

 そのままセンスゼロの下手なダンスの様な、奇々怪々なポーズを取り続ける。


「うーんと、もしかして鎧さん。お話し出来ないの?」


 鎧が右手でサムズアップをすると同時に、どこからともなくピンポンピンポーンと明るい音が聞こえてくる。


「お話し出来ないのは分かったけど。あんなヘンテコなポーズじゃ、何が言いたいのか全然分からないよ?」


 鎧が半歩よろめき、驚きのポーズをしている。

 またも同時にガガーンと重低音が響いてきた。

 数秒固まった後、四つん這いになってこうべを垂れる鎧。


「あっ、ごめんなさい」


 片膝立ちになり、いいよとでも言いたげに左手を振っている。


「うん、ホントごめんね。それで鎧さんは、この後どうするの? 私は都会に出てビッグな女になるの!」


 再び立ち上がった鎧は、またも通じないジェスチャーを試みる。


「全く分からないけど。鎧さん、私と一緒にいてくれますか?」


 グッとサムズアップする鎧と、聞こえてくる効果音。


「そんなんだー。ありがとう、鎧さん! ……ふぁー」


 時刻は既に深夜を越えようとしている。

 サンテが眠たくなるのも無理はない。

 それを見た鎧が、再びサンテを抱え上げる。


「鎧さん、ごめんねー、ありがとう」


 それだけ言うとサンテは、夢の中へと旅立っていった。

 月明かりの闇の中。

 まるで、姫を守る騎士の様に。

 伽藍の鎧は左手にサンテを抱えて、雄々しく立ち続けていた。


 時々現れたゴブリンに、右拳みぎこぶしを遠距離から放ちながら。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る