第1話「貧乏少女とカクヨムユーザー登録」
「早速だけど、美也ちゃんに朗報があるんだよ」
一旦隣の部屋の自室に帰ってタブレットを持ってきた美也ちゃんは僕のその言葉に期待するのもあってか、見るからにヤル気満々だ。
「なになに? 康太お兄ちゃん朗報ってなに?」
「なんとっ、本日限定でユーザー登録した人が来月から始まるカクヨムロイヤリティプログラムの事前受付すると百万円を参加人数で山分けできるんだよ。現在何人が登録しているかはわからないけど多分千円くらいのポイントが貰えそうだよ」
この本日中というのがキモなんだ。うっかりこの情報を見落としていて参加は実際に収益化が始まってからでいいやって思っている作者も多いだろうと思う。お知らせにも書いてあったように、仮に今日中にそれに気づいた千人の人が事前受付したとしても一人千円分の収益ポイントが手に入るというわけだね。
「なんとっ! 千円もですかっ!?」
いきなり敬語になったことから、美也ちゃんにとっては千円が如何に大金なのかということがわかる。
僕はもう事前受付しちゃってるから、美也ちゃんの分をのけると本日中の事前受付が残り998人以下に収まることを祈っておこう。他の人が事前受付していませんように。
「カクヨム運営から支払われる収益ポイントって三千円からしか
「早くっ、早く! 康太お兄ちゃん、カクヨムの登録の仕方を教えて!」
その通りと言わんばかりに美也ちゃんが僕を急かす。
「はいはい、っと。まずはタブレットで使っているメールアドレスを入れて、ユーザーIDとパスワードを設定するんだ」
僕は口を出すだけで絶対に手は出さない。これから自力でお金を稼ぐつもりがあるのなら出来るだけ自分でやらないと美也ちゃんのためにならないからね。
美也ちゃんは僕の言葉を必死で聞きながら、言う通りにタブレットを操作する。
「うん、それでいいよ。後はカクヨム運営からメールが来たらOK」
後ろから確認しながら僕は間違いがないように気を付けて見守る。
「えっとえっと、次はアカウント設定だよね。ニックネームは『ミーヤ』で良いよね? 友達もそう呼んでるし、後は……公開プロフィール?」
「そこは例えばプロ作家とかだと実際に書籍化された作品を紹介したり、他には何でも自分のことを書くスペースだよ」
「うーん、私は特に何も書くことないなー。部活とかもしてないし小説のこともライトノベルなんて書くのは初めてだし」
「そんなことないよ、美也ちゃんは物書きとしての立派な実績があるじゃないか。童話コンクールで金賞をもらったよね?」
僕の言葉に美也ちゃんは振り向いて『あっ』と声を上げながら嬉しそうな顔をした。
「それだっ! ええと……『小学校のころ童話コンクールで金賞を貰いました。ミーヤって言います、皆さんよろしくお願いします』っと……よっし、できた」
「生年月日の登録も忘れちゃだめだよ。それを入れないとロイヤリティプログラムに参加できないからね……うん、最後は収益のタブから事前受付したらバッチリ」
「でも未成年の子は保護者の許可がいるってさっき言ってなかった?」
「そこは大丈夫。既に許可はとってるよ」
美也ちゃんがタブレットを取りに行ってる間に真理子さんへ僕からメッセージアプリでちゃんと説明しておいたから。
『私にはよくわからないけど、康太くんが言うならきっと安心ね』
スマホに表示されている自分のお母さんからの返信を美也ちゃんに見せてあげた。後は収益を受け取る為の銀行口座の設定もあるんだけど、それは実際に現金化できるようになってからでも遅くはないよね。
「さっすが、康太お兄ちゃん! ホントにありがと! じゃあさっそく小説を書けるねっ」
もちろん練習がてらドンドン書くのもアリなんだけど美也ちゃんが本気でお金を稼ぐつもりがあるのなら、ちゃんと勉強をして準備をしてから書き始めて欲しかった。それに彼女の文章力は現状でも読めないほどに低くはない。
実際に美也ちゃんがコンクールで受賞した『ヤマネコとアライグマの大冒険』という童話を読ませてもらったときは凄く感動したからね。正直言っちゃえば、その童話に感化されて一気に書いたのが書籍化もできた『異世界旅人』なんだ。
「書くのはいつでも始められるから今はまだ慌てなくて良いと思うよ。それよりもユーザー登録したばっかりなんだから、もっと色んな作品を読んで色んな人と交流を持った方がいいんじゃないかな」
「カクヨムの小説は前から読んでいるけど、交流って?」
「交流というのは自分の好きな作品に応援ボタンを押したり、更新情報がわかるようにフォローしたり、評価したり、レビューを書いて相手の作者さんとコミュニケーションをとることだよ。挨拶がてら近況ノートにコメントを残したりしてもきっと返事をくれて仲良くなれると思うな」
「あー、ユーザー登録すればそんなことも出来るようになるんだねっ、面白そうっ。でも作者さんと仲良くなることって大事な事なの?」
「もし美也ちゃんが自分で書いた作品を応援してくれた人がいて、その人も小説を書いていたとしたら読んでみたいと思わない?」
「なるなるっ、面白いかは別としてもそれは読みたくなるね。なるほどー、他の人と仲良くなるのって大事だね」
まあそればっかり意識してたら他の問題も発生しちゃうことがあるんだけどね。
「でも、仲良くなることを目的に読んでもいない作品の応援ボタンを押したり、評価したりしたら絶対に駄目だから」
僕がちょっと真面目にそう言うと、美也ちゃんは不思議そうな顔をして顔を傾けていた。
「そんなことしないよ~。っていうか、そんなことして何か意味があるの?」
自分の作品の星やPVを増やすために手っ取り早くそうする人も少なからず存在するのは確かだ。でも今の美也ちゃんにそこまで言うことはないかな。
「ま、そこら辺はおいおい説明してあげるよ」
「うんっ、じゃあ今は康太お兄ちゃんの言う通りに今は他の人の小説を読みながら自分が書きたいものを考えておくね」
「よし、いい子だ。素直な美也ちゃんに僕からプレゼントをあげよう」
引き出しを開けて取り出したのは無線のキーボード。最近まで僕が使ってたヤツなんだけど、手も大きくなったことから大きめのキーボードに買い替えたんだ。
だからこの小さめのキーボードは手の小さい美也ちゃんにピッタリだと思う。
「収益化で稼ぐつもりなら早い執筆速度と頻繁な更新が重要になるから、これからはこれを使って文字を打つと良いよ」
もう使ってない物なので何も考えずに差し出したんだけど、美也ちゃんはそれへ手を伸ばさずに少し顔を曇らせた。
「康太お兄ちゃんからはいつも色々貰ってばっかりだから、なんか悪い気がする」
なんでそんな顔をするのかって思ってたら、なんだ柄にもなく遠慮してたんだね。
僕は笑った。
「僕はね凄く楽しみにしてるんだよ、美也ちゃんの書く小説をね。ライトノベルになった『ヤマネコとアライグマの大冒険』みたいな素敵な作品がもうすぐ読めるかと思うとワクワクするんだ……だからこれはあげるんじゃなくて、美也ちゃんの作品を読みたいから渡しているんだ」
美也ちゃんは花が咲いたように顔がパアと明るくなって、『ほんとに!? ほんとに読みたいっ!?』って言いながら僕の腕にガッシリと抱き着いてくる。
「康太お兄ちゃんありがとっ! 私これを使っていっぱい小説を書くからねっ」
中学生になって少し膨らんできた美也ちゃんの胸が僕の腕にギュッと押し付けられて、不本意ながらもドキドキしてしまった。
ごめん美香叔母さん。僕は美也ちゃんに手を出さない自信がないかもしれない。
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