第3話 それ、選ぶんかい!

 仕事探し。免許も資格も経歴も役に立たない。

 そうなると仕事は限られて来る。

「戸籍は何とかしてくれるそうやけど、それでもなあ」

「日雇いとか、非合法な何かとか、どっかで自給自足とか」

「私、虫あかんねん」

 真矢が言うのに、菜子が頷く。

「私は納豆やな」

「いや、食べる話やないやろ」

「ああ、そうやったな。

 私は細かい仕事はあかんなあ」

「ああ。肩凝るわ」

「イライラすんねん」

「ウエイトレスも難しいかもな」

「なんで?」

「例えばな、アイスコーヒーや。『冷コー』言われてアイスコーヒーやとわからなあかんねんで。流石に異世界のメニューはわからんわ」

「通じん時、イラッとするもんな。クレームの元やな」

「やろ」

 色々と見て回ったが、ピンと来るものが無い。

 楽で、そこそこ高給なものーーなんて仕事は元から競争率が高くて無理だ。まあ、気分転換にご飯でも食べようと、デイバックにお弁当を入れていたのを食べる事にした。

 ここで、新たな発見があった。

「あれ?中に入れてたもん、なくならへんで」

「こっちもや。おにぎりが延々と出て来る」

 おにぎり、サンドウィッチ、みかん、お菓子、お茶、コーヒーが、出しても出してもバッグの中に入っている。しかも、冷たいお茶は冷たいまま、熱いコーヒーは熱いままだ。

「もう、これがあったら生きていけるんちゃう?」

「いや、あかん。考えてみ。服とか寝るとことかにはお金いるやん。これで弁当屋しても、売り上げはそこまで行かへんのちゃうか」

「あかんかあ」

 出した食べ物をどうしようかと思ったが、ついて来た騎士団の人に一緒にどうかと勧めたら、流石は体が資本の人。ペロリと平らげてくれた。

「変わった食べ物ですねえ。でも、美味しいです」

 おにぎりを気に入ったようだ。

 後片付けをして、さあ、続きをと立ち上がった時、彼の持つ警棒のような物が目に付いた。

「それ、警棒?」

 訊くと、彼は笑顔で教えてくれた。

「これは対魔物用の武器ですよ。適性のある人だけが使用できるもので、これじゃないと、魔物を傷つける事ができないんですよ。まあ、これは汎用で、もっと適性のある特務隊の人は、誂えた特別製の物を持っているんです」

 ただの棒みたいに見える。

「へえ。何か、ライトセーバーみたいやな」

 言って、菜子は棒を構えてみた。

「スー、ハー。覚悟だ、ルーク!」

 その瞬間、ビイィィンと、先から光線みたいな棒状のものが出た。

「私的には、ビームサーベルかなあ」

 真矢が受け取り、こうかな、と握り込んだら、同じように棒状の光線が出た。

「おお、ガンダム!」

「ふははは!アクシア、敵を破壊する」

 ふざけて遊んでいたら、彼が硬直していたので、2人は我に返った。

「あかん。つい、異世界に来てテンションがおかしなってもうたわ」

「うん。30過ぎた大人が恥ずかしいな」

 反省してそれを彼に返した2人だったが、その腕をガシッと掴み、彼は言った。

「就職先、確定しました」

「は?」

「来て下さい」

「何?どっかの何とかショー?」

「アクションはきついわ、体力的に」

「いいから、早く!」

 何が何だかわからないまま、引きずられて行く2人だった。


 着いたのは、出発地点の騎士団だった。

 そこで偉い人と白衣の人の前でもう一度武器を発動させると、

「高適性ですねえ。特務隊ですね」

「普通くらいならともかく、適性率が高い人は本当に少ないので、半強制的に騎士団の対魔部隊に入ってもらっています」

「高給取りですよ。良かったですね」

「いや、絶対に楽ちゃうやん。それに危険やし」

「就職おめでとう!」

「聞いてへんやん」

と真矢の意見は無視され、白衣の男と騎士団員によって強制的に、流れるように、武器庫へと連れて行かれた。

 ピコピコハンマー、ローラースケート、猫耳カチューシャ、鼻眼鏡、刀、槍、鎌、ナイフ。

「絶対に武器とちゃうやつがあるやん」

「どうせえっちゅうねん、これで」

「刀とかは、ここにあるのは汎用品だから、専用にチューンするからね」

「赤くなるんですか」

「きっとそれは、3倍よう切れるんやな」

 シャア専用ザクのネタは、異世界ではわかってもらえなかった。

 しばらくああでもないこうでもないと、武器を見て行く。ナイフはリーチが短くて不安だし、鎌も槍も大きくて重いし、どうしたものか。

「部活って何してたん、真矢」

「中学は書道部で、高校は射撃や。銃があれば良かったんやけどなあ。菜子は?」

「中学は陸上部で、高校はカバディ部や」

「カバディ?また、斬新な部活動やな」

 インド発祥のスポーツで、インドの国技でもある。「カバディ」と呟きながらする鬼ごっこのようなものだ。

「陸上とカバディか。役に立ちそうにないなあ。でも、下半身は強いんかな」

「一周して探してみよ」

 お互いに、武器を探して、落ち合う。

 そして、互いを指さして、同時に言った。

「それ、選ぶんかい!」

 真矢は鼻眼鏡、菜子は猫耳カチューシャを装着していた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る