少年

 川原沿いで群生するカヤの穂が、真昼の日射しを浴びて銀色にかがやきながら風にそよいで揺れている。


 その中を、一人の男が──刀を一振り肩に担いでいるけれど、風貌からして、侍ではなく浪人であろう──目を細め、向かい風に逆らって歩いていた。


 こちらに気づいても、助けてはくれまい。


 大きな杭に立ったまま縛られている血まみれの少年は、身体中の痛みを堪えながら、卑屈に頬をゆるめる。だが、すぐにそれをやめた。

 茅に隠れてよく見えなかったが、こちらに向きを変えて歩いて来る浪人の姿は、なぜか全裸だったからである。


「……えっ?」


 そうか、これは幻覚なのか。

 でなければ、裸の浪人などこんな場所にいるはずが──


「おい、坊主。大丈夫か?」


 ──いた。


     ※


「あっ、ありがとう」


 助けられはしたが、助かった気がまるでしなかった。目の前の裸の無頼漢に襲われるのではと、少年は考えていたからだ。

 こんな田舎の集落だからこそ、男色の少年愛好者が人買いにやって来ることなどは決して珍しくはない話だった。


(それにしても……コイツの・・・・、でけぇなぁ)


 伏し目がちの少年は、斬喰郎の股座で長く垂れ下がった〝逸物イチモツ〟が気になっていた。もちろん、性的な意味ではなく、同性としてである。


「それにしても……こいつは、ひでぇな」


 眉根を八の字に寄せた斬喰郎が、顎の無精髭をさすりながら顔を近づけて少年の傷口を見る。

 肌が露出している部分のほぼすべて、赤紫に変色して血も流れて固まりかけていた。先ほどまでの状況と着物の汚れ具合から察するに、投石の被害にあったのであろう。


「おい、坊主。おまえ何をしでかしたんだ?」


 刀を脇に挟んだまま、斬喰郎は両腕を組んで仁王立ちになる。滑稽な姿ではあるのだが、少年はとても笑える気分ではない。


「……何もしてねぇよ。それに、オイラは坊主じゃねえ。ひこってんだ」

「彦作か。オレは斬喰郎。見てのとおり、ただの素浪人だ」


 顎の無精髭を一撫ですると、斬喰郎は豪快に笑ってみせた。それに同調して玉袋が揺れたので、彦作も思わず笑い声をあげた。


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