第7話 ダンジョンは魔物の宝庫

 迷宮都市ガラハド。


 ここはダンジョンによって栄えている都市だ。

 ダンジョンという名の迷宮型の魔物は人々を誘い込んで魔力を集めている。

 その魔力を糧に成長するこのダンジョンは恵みの糧であり危険の象徴でもあった。


 ダンジョンには不思議な現象がある。


 それは魔物が定期的に沸きだすというもの。

 全くダンジョンに入らずに放置するとダンジョンの魔物が溢れ出すという現象が起きるため定期的に中の魔物を掃討する必要がある。


 管理された迷宮は人々の生活を支える糧となる。

 ダンジョンの機能として一つだけ決まりがある。

 初めてダンジョンへ入る際には登録が必要であるということだ。


 登録すると腕輪型のアイテムボックスとダンジョン階層を記録してくれる機能を持つものが支給される。

 ダンジョンの中に入ってすぐのところにある不思議な魔道具がその装置だ。

 なぜそんなものが在るのか分かって居ない。


 だが、それを持っていると倒した魔物のドロップアイテムが自動的に収納されるという便利な機能が付いている。

 もちろん倒した魔物が全てドロップを落とすわけではない。

 ただの魔石の場合もあるし、アイテムとして入手できる場合もある。


 なんでこんな物を落とすんだという物さえもある。

 ダンジョンの魔物は倒すと霞のように消えてしまう。

 だからドロップした物を拾う手間なく進めるのは大変ありがたい。


 また10層ごとにボス部屋がありボスを倒して通過すると次回から腕輪で階層を移動することができる。

 これはあくまで10層ごとの機能なので2階に飛びたいと思ってもそんな事はできない。

 だが深く潜れば潜るほど行き来の手間を考えるとかなり便利だ。


 それに時折宝箱がダンジョン内で発見される。

 ポーションや薬草が入っていることもあるが時折剣などの武具やアクセサリー、宝石などが発見されることもあるらしい。


 ただし、ダンジョンは魔物だ。

 この迷宮内での死は現実であり復活するなんて機能はない。

 命がけの勝負という事になる。


 リリーナは魔物の解体や採取に大分慣れてきたのもあり、ちょっと試しにダンジョンに潜ってみたいと考えていた。

 相変わらず防具なんて付けて居ない。

 このガラハドでは最近リリーナの奇行は有名なところになっていた。


 曰く、ドレスで魔物を倒す少女が居るだとか、エルダートレントを手懐けた少女とか。


 リリーナの知らないところで噂が広まっているなど知らない。

 リリーナが次に何をやらかすのかとかなりの注目を集めているのだが、本人は全く気が付いていなかった。


――――…


 リリーナは迷宮の入り口に向かった。


 迷宮では初めての場合、登録が必要だ。

 登録の部屋へと足を伸ばしてリリーナは魔道具に手を翳した。

 すると魔力を吸われる感覚がして次の瞬間にはリリーナの目の前に腕輪型の魔道具が出現していた。


 ダンジョンの不思議な腕輪だ。


 それを腕に付けたリリーナは早速ダンジョンの奥へと足を進める。

 ダンジョンの中は洞窟のように薄暗い。

 所々には光を放つ小さな小石が埋め込まれており、これがダンジョンを照らす明かりとなっている。


 ダンジョンに入るのは初めてなリリーナは辺りを見回しながらゆっくりと歩いた。

 途中、左右に分かれた道があり右側を選んで進んでいく。

 すると上からぽとりと何かが落ちてきた。


 不定形な水溜りのようになっていたそれは意思があるかのように盛り上がる。

 ぐねぐねと動きまわる魔物でスライムと呼ばれている。

 目や鼻、口はなく全身がどろどろの体でできている。


 その中には核とよばれる心臓部があり、それを破壊するとスライムは死亡する。

 リリーナはナイフを投擲してそれを仕留めた。

 すると核を貫かれたスライムはびくりと体を震わすと霞のように消えて行った。


 腕輪に手を当てて魔力を流すと手に入れたアイテムが頭に浮かんでくる。

 入手したアイテム欄にスライムの粘液×1と書かれたアイテムが増えていた。

 スライムの粘液は糊の変わりになったり、ものを接着したりするのによく使われているらしい。


 腕輪に集中していると風を切ったような音が一瞬リリーナの耳を掠めた。

 ふわりとリリーナの周りに魔力が拡散される。魔力を使って敵の位置を探る方法だ。

 そして捉えた敵にナイフを投げて一撃で沈める。


 蝙蝠型の魔物は上空で溶けるように消えていった。

 ナイトバットと呼ばれる魔物で鋭い爪を持つ。

 目は見えていないが超音波を発して位置を探っているのだ。


 リリーナはそういった上空の魔物もいる事を認識して周囲の様子を探りながら進む事にした。

 リリーナはゆっくりと進んでいるつもりだが、それが普通の冒険者にとってかなりのハイスピードである事を知らない。


 魔法が使えて周囲の探知が可能なリリーナは普通に歩くスピードと変わらない速さで移動している。

 魔力で罠をも感知して突破するリリーナは自分がどれだけ有利に移動できているのか理解していない。


 階層の階段を見つけたリリーナはスライムとナイトバットの階層を後にした。


 2階層に到着すると同じような洞窟が待っていた。

 ただ今まで見かけなかったがリリーナにとって馴染み深いホーンラビットがそこにいた。

 鋭い牙をむき出しにして威嚇するホーンラビットをさっくりとナイフで仕留めて進んでいく。


 どうやらこの階層にはスライムとナイトバットに加えてホーンラビットが出るらしい。

 だが、そんな程度の魔物ではリリーナの敵にはならない。

 さくさくと進む探索で困難らしいものも無いままに進んでいく。


 低い階層は部屋数も少ない。

 あっという間に3階層に到達した。

 3階層には先ほどの魔物に加えて蛇型の魔物であるポイズンスネークが出るようになった。


 だが毒にさえ気を付ければ後は変わらない。

 ダンジョンは階層が増えるたびに魔物の種類も増えているようだった。

 ゴブリンやコボルト、オークといった魔物が出てくることになるといよいよ階層は10層に至り、ボスの部屋へとリリーナは到達した。


 ここまでくるのに3時間もかかっていないと知れば多くの冒険者は嘆くことになるだろう。


 ボスのいる扉を開いて中を確認するとボスとして君臨していたのはなんと剣を持ったゴブリンだった。

 扉を開いても向ってこないところを見ると部屋の中に足を踏み入れない限りは攻撃してこないらしい。


 リリーナは剣を持った相手と真正面から戦うなんてことはできない。

 あくまで貴族のお嬢様だ。

 リリーナは扉の外から剣を持ったゴブリンを仕留めることにした。


 ナイフを使って攻撃すると攻撃に反応したゴブリンがナイフを剣で叩き落とした。

 だが、その後に飛んできたナイフには対応できなかったらしく、ずばんと音を立てて倒れると煙のように消えていった。


 リリーナはナイフを回収して次の階層へと進む。

 そんなダンジョンを攻略し始めたリリーナは2月も潜る頃には50階層に到達していた。


 当然ボスはすべて扉の外から倒すという鬼畜ぶりだ。


 哀れなボスたちは真正面に相手が立たない内に始末されていた。

 51階層に降り立ったリリーナは驚きの声を上げた。

 なんと目の前には自然が広がっていたのだ。


 今まで洞窟や石造りの建造物のような回廊しかなかったのに空らしき場所には太陽があり、森が広がっている。

 そして魔物たちもきっとどこかに潜んでいるのだろう。


 リリーナは森の中を注意して歩いていた。

 探知にかかる魔物は投げナイフで始末しつつ進むリリーナ。

 のどかな雰囲気が辺りを包んでいる。


 ふと開けた場所に出たリリーナは崖下に集まって草を食む牛型でモームと呼ばれる魔物の群れを見て不敵に笑った。

 まとめて殲滅するつもりなのだ。


 今のリリーナを見て子爵家の令嬢だと思うものは少ないだろう。

 それほど多くの魔物を闇討ちし続けて来たリリーナは立派な冒険者だ。

 ただ直接対峙することがないだけの強者なのだ。


 逃げ出さないように鋭い氷の刃を大量に生み出すと一気に魔物目がけて振り下ろした。

 ブモーと雄叫びをあげて消えていく魔物たち。


 あっという間に魔物を殲滅したリリーナは大量のドロップを手に入れた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る