第6話 死霊の来襲

「し、死霊だ!死霊が攻めて来たぞ!!」


「そ、そんな!ここに来たって事は、隣町はもうやられたのか!?」


「馬鹿!そんな事どうだっていいだろ!早く逃げるんだ!」


 夕暮れ時。夕食を摂り一日の疲れを癒すこの時に、小さな街は騒然としていた。街の北門は破られ、死霊達が街の中に侵入して来たのだ。


 恐らく北門の門番は生きていないだろう。

運悪く北門の近くに停車していた荷馬車が俺の目に映った。


 荷馬車に乗っている老夫婦が死霊達を見て凍りついている。気付いた時、俺は荷馬車に向かって走っていた。


 って!俺は今丸腰だぞ?死霊達は百体はいる。そんな連中に素手でどうするつもりだ俺は!?


「早く馬を動かして!急いで!!」


 俺は老夫婦に怒鳴った。固まっていた老夫婦は我を取り戻し、慌てて馬に鞭を打つ。馬は面倒そうに動きだした。


 その際に、荷馬車から積み荷と思われる木箱が落ちた。荷馬車が去った後、俺は死霊達に囲まれた。


「自分の身を犠牲にして他者を救う。なぁんて美しい光景なのだああぁぁっ!!」


 鼓膜をつく大きすぎる声に、俺は思わず耳を塞いだ。な、なんだこの馬鹿みたいな大声は!?


 俺は死霊達の先頭に立つ男を見た。巨漢の身体にいびつな形をした黒い鎧を着たその男は、俺を見て何やら頷いている。


「少年よ。君は素晴らしい精神の持ち主だ。殺して死霊にするには惜しい。私の部下にならんか?」


 鎧の男は大きい顔についている大きい口を開き、俺に話しかけて来た。


「······アンタがこの死霊達の隊長か?」


 俺は数歩後退しながら鎧の男に問いかけた

。同時に何か武器になりそうな物が無いか周囲を見回す。


「その通り!私の名はシャウト!偉大なるハーガット軍中尉だ。因みに先月迄は大尉だったがな!!」


 シャウトと名乗った男がまた叫ぶ。くっ!なんて大声なんだコイツ!至近で聞くと鼓膜が破れそうだ。


 ん?コイツ先月迄は大尉で、今は中尉?階級が一つ下がったのか?


「······シャウト中尉。アンタ何かヘマをして降格させられたのか?」


 この男の階級なんて興味が無かったが、俺は時間稼ぎの為に質問する。俺の十歩先に、

荷馬車から落下したと思われる木箱が目に入った。


「失礼だぞ少年!私はヘマなど犯していない

!それ処が、私はハーガット様の開かれた舞台に招待されたのだ!!これは、将来の栄達が約束された正真正銘のエリートのみ招待される催しなのだぁ!!」


 こ、声の振動で身体が揺れそうだ!このシャウトって男を叫ばしていると、こっちの耳が持たないぞ。


「なる程ね。その阿呆みたいな大声のせいで降格したって事か」


 俺の麻痺しそうな聴覚に、響きが良い綺麗な声がした。俺が振り返ると、そこにはレファンヌが立っていた。


「女あぁぁっ!それはどう言う意味だ!?何の理由があって私が声のせいで降格になったと断言出来る!?」


 シャウトは殺人的な大声を再び放つ。金髪の悪魔はそれを冷然と聞き流す。


「その招待された舞台とやらで、アンタはさぞ盛大に喚いたでしょうね」


「無論だ!いや待てよ?喚いてはいないぞ!失礼な!私はハーガット様の素晴らしい舞台に感銘を受け、声の限り称賛を送っただけだ!!」


「で?その後にハーガットから何か言われなかった」


「言われたぞ!聞いて驚くなよ!偉大なるハーガット様に「よく通る声だな」とお褒めの言葉を頂いたのだあ!これはもう、将来安泰間違い無しだろ!?」


「アンタの将来は知ったこっちゃないわね。で?他に何か言われなかったの?」


「ええ!?えーっと。何か言われたかな?ん

?そうだ!思い出したぞ!ハーガット様から

「今度その顔を見せたら喉を潰す」と言われたのだあ!そして私は中尉に降格し、地方の死霊部隊に配置されたのだ!!」


 こ、こいつは自分で分かっているのか?何で降格したのかを?俺はシャウトに呆れながらも、木箱の側に移動した。


「はっ。左遷されて地方死霊部隊の隊長?それでどうやって栄達するの?アンタ、大声のせいで脳みそが萎縮でもしているの?」


 レファンヌは大声男を嘲笑した。シャウトは数十秒考え込み、自分が悪口を言われた事に気付いた。


「女あああっ!ハーガット軍、未来の将官候補になんて失礼極まりない台詞を!地方からコツコツ。いや違う?そうだ!小さい事からコツコツと積み上げ出世する!それが私の立身出世物語となるのだああ!!」


 シャウトは更に音量を上げ叫んだ。腰からやたらでかい剣を抜き、レファンヌ目掛けて巨漢を揺らして走り出した。

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