守りたかったものと、守れなかったもの

第25話 守りたかったものと、守れなかったもの

「隊長! どうして私なんて庇ったのですか! 私は貴方の邪魔をした人間ですよ! なのに、どうして……!」


 血を吐くような声が、自分の喉から出るとは思わなかった。

 今までの人生で、きっとこんな大きな声を出したことはなかったかも知れない。

 母上を亡くしたあの日ですら、私はこんなにも大きな声は出なかったのだから。


「どうして……」


「あー……。なんだよ、守ってやったのに……ほんとお前は馬鹿だなぁ……」


 私の頭を撫でるその手がどうしてだか暖かくて、なのにどんどんとその手からは体温が失われていって。

人が死ぬのがこんなにも怖いと感じたのは、私はもしかしたら初めてかも知れない。何度も任務で命の危険を感じて、それでも生きてきた。私は隊長の為に死ぬ為に生きていた。

 それがどうだ。蓋を開けてみたら私は隊長に守られているではないか。

 情けない。部下の命を消し炭のように扱った、これが報いか。


「凉萌」


「なんですか、隊長……」


 力なく、私は隊長に頭を撫でられたままに擦り寄った。

 嗚呼、命が消えていく音がする。嗚呼、隊長が死んでしまう。

 それでは、意味がない。私が生きていた理由が。ないも同然だ。


「俺は、お前のこと、利用してた」


「なんですか、それ」


「あの日。お前が右目を失ったあの日。盗賊を城に手引きしたのは俺だ」


「……」

「幻滅したか? 助けに入ったのだって、お前を利用する為だ。分かるか? 俺は何から何まで、自分のことしか考えてないんだよ」


「……隊長。貴方は私の何を見ていたのです?」


「なに、」


「私が、そんな簡単なことに気が付かない愚かな女だと思いますか」


「……」


 隊長はどうやら言葉を失ったようだ。私はしてやったりと言うような顔をした。


「私がそんな鈍い女だったなら、私は隊長に付き従うことはありませんでしたよ」


「……そぉかよ」


「はい」


「……全部、知ってたのか」


「知らなくては、私は貴方の為に死のうだなんて思いませんでした」


「はは……。そいつァ……お前には敵わねぇわ。凉萌」


「はい」


「あーあ、なんでだろうな」


 隊長は私を見上げる。隊長の綺麗な金色の瞳の中には、眼帯をした右目が映っていた。私は静かに目を閉じた。

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