第43話 文化祭ライブ前日

 日が暮れるのも早くなり、少しずつ寒くなってきた10月のある日、この日はいよいよ文化祭の前日であった。その為、学校内は明日の文化祭に備え、屋台や看板などが、学校中の至る所に設置されていた。また、明日の文化祭の準備に追われている生徒達が、暗くなった校舎内に残って準備をしている為、6時を過ぎた今の時間でも、校舎の窓からはたくさんの明かりが漏れていた。


 そんな中、私達【D-$】のメンバー達も、明日の文化祭のライブに備え、最終のチェックを行う為に、学校に残っていた。


「そう言えば、文化祭は明日だね」


「麻子ったら、今更何言ってんのよ」


「別に言うくらいいいじゃない」


「まぁ、そうね」


「そうでしょ!! せっかくこの数週間の間、必死に頑張ってきたんだから」


「確かに、この数週間は、今までよりも忙しかったのは確かね」


「でしょでしょ!!」


 私はいつもの練習場として使っていた、校庭裏のベンチに座りながら、女月と話をしていた。同時にこの数週間の忙しかった出来事を、思い返していた。


 私達【D-$】の活動は、部活動ではない為、当然の事ながら学校内の施設は使用できない。だから、その為、学校の隅っこである校庭裏しか使用出来る場所がなかった。


 また、私達は文化祭のライブに出場をすると決めたその日から、1人でも多くの客を集める為のチラシ配りや、1人でも多くの客を魅力する為の歌やダンスの練習で、大忙しの日々であった。


 そんな明日の文化祭で歌う歌は、新曲が2曲もある。今までにも、自分達で歌を作ったりもしたけど、さすがに一気に2曲も作ったのには、歌を作った詩鈴も、凄く忙しそうであった。


 また、その歌に曲を入れる作業を行った紗美は、曲を作るだけでなく、【D-$】の衣装担当と撮影の担当がある為、今回の練習だけでも、今までの2倍は忙しかったはず。


 もちろん、忙しかったのは詩鈴と紗美だけではない。今、私の隣に座っている女月もまた、この数週間は凄く忙しかった。【D-$】での女月の担当は、ダンスであるが、前回の撮影の時にはいなかった為に、今回のダンスの振り付けは、確実に1ヶ月以上も空いてからの担当である。その為、久々の出来事だっただけに、女月は相当苦労したはず……


 一方の私だって、この数週間は今まで以上に忙しかった。【D-$】のリーダーとして、みんなの手伝いをしたり、また、文化祭のライブに1人でも多くの人を体育館に呼び込む為に、日々、チラシ配りに没頭していた。今まで配っていたチラシがダメなら、また新しいチラシを作ったりと、チラシ作りだけでも、物凄い時間がかかった。


 また、チラシ配り以外の宣伝として、学校内に貼る事が出来る、ポスターの製作も行った。少しでも目立つ場所にポスターを張る事が出来るように、私は生徒会などに頼み込んだりしたりもした。その結果、少しでも目立てる場所に、いくつかポスターを貼らせてもらえることが出来た。これだけでも、学校内では凄い宣伝効果となったはず。


 だが、皮肉なことに、文化祭でのライブが出来ると分かった日以降、私達は【D-$】の動画を上げていない。忙しかったというのも理由にあるが、それ以上に、一度ならず、さすがに二度も沢谷先生の目を盗んで動画を投稿するのは良くないと思い、あの日以降、動画を投稿していない。


 その代り、その間にも少しでも動画の再生数を上げる為、沢谷先生に上手くバレない様に、今まで配っていたチラシや学校に貼ったポスターに、【D-$】がUTubeで活躍をしているという事を書いておいた。そのおかげで、全く動画を上げていないこの数週間の間だけでも、今までに動画を投稿してきた時以上に動画の再生数があった。見事な作戦で成功をした!! これに関しては、沢谷先生は見て見ぬふりをしているのか、はたまた、本当に気づいていないのかは、知る気もない。


 そんな感じでこの数週間は、とにかく練習と宣伝の毎日で凄く忙しかった。忙しい練習を毎日行ってきたが、その結果は、明日で全てが分かる。

私達が練習通り、上手く歌って踊れるのか?


 最もそれ以上に、どれだけの人が体育館に集まるかの方が心配である。


 いくら当日に私達が上手く歌ったり踊れたりしても、当日に体育館を満員に出来なければ、今までの練習は意味がなくなってしまう。


 今はそんな不安気持ちと、今までの練習や宣伝で動き回っていた疲れのせいで、ぐったりとしたい気持ちであった。


 そして、女月との話も終わりに差し掛かった頃、自動販売機のジュースを買いに行っていた紗美と詩鈴が、4人分の缶ジュースを持って戻ってきた。


「麻子さ~ん、お待たせ!!」


「ジュースを買ってきましたよ」


「あぁ、ありがとう」


 紗美と詩鈴は、それぞれ2本ずつ缶ジュースを手に持ち、そのうちの1本をベンチに座っていた私と女月に渡した。


 練習終わりは、いつもこうして缶ジュースを飲むのが日課であった。私は炭酸入りのオレンジジュース、女月はスポーツドリンク、紗美は紅茶、詩鈴は炭酸がないブドウジュースと、皆こうして飲むジュースはいつも決まっている。もちろん、今日も飲むジュースは変わらず同じである。


 こうして、校庭裏のベンチで飲むジュースは、ダンス等の練習終わりに飲む為かいつも一人で飲むジュース以上に、美味しく感じる。これは、ただ練習終わりに飲むというのではなく、一緒に練習をした仲間と飲むからこそ美味しく感じるのだろう。


 【D-$】というグループ名で動画の投稿を始めて以降、私達はほぼ毎日、この様に練習が終わったり休憩中に、こうしてベンチに座り、皆で楽しくおしゃべりをしながらジュースを飲むのも、【D-$】の活動の楽しみの1つとなっていた。そんな日々も、明日の結果次第で終わりか継続かのどちらかが決まってしまう。


 そのせいか、今日はいつもの様に、ただ単に楽しそうな話をしながらジュースを飲むのではなく、脳裏に浮かんできた事をこの場で喋り始めた。


「そう言えば、明日のライブで全てが決まるんだよね」


「全てとは?」


「アレだよ。今後も【D-$】として活動が出来るのか、それとも……」


「なるほどですね。明日で【D-$】の活動が終わってしまうのか」


「うん、そうだよ」


 私は先程からずっと脳裏に思い描いている、明日以降の事ばかりが、心配になり、今はその事から話題をそらそうとしても、なかなか別の話題が思い浮かばず、ついその事ばかりを言ってしまう。


 その為、私は無理矢理にでも別の話題に変える為、UTubeでアイドル活動を始めて、そこで活動をしていく間に、自分で思った事を話すことにした。


「実はさ、私……」


「あらっ? どうしたのかしら、坂畑さん?」


「UTubeでアイドル活動をやって行く内に、思った事があるんだ」


「何なの?」


「麻子ったら、いきなりどうしたの? 改まった顔をしちゃって」


「おっ、思った事って、何かしら?」


 確かに、突然改まった顔をしながら喋り出すと、何があるのか疑問に思うのは無理がない。私はコレを言う事によって、明日の不安と緊張を和らげようとしているのだから……


「私は将来、自分がアイドルをやるんじゃなくて、私自身がアイドルをプロデュースしてみようかなっと……」


 言うのが少々照れ臭かったが、私はUTubeでアイドル活動をやって行く内に、自分でアイドルをプロデュースしてみようと思った事を言った。


「なんでまた、そんな事を思ったのよ?」


「なぜって言われると…… ほらっ、私って【D-$】のリーダーをやってるじゃない。リーダーとして専用のプロデューサーのいないUTube内だけの疑似アイドルの活動の企画を考えたり、どうやれば人気が出るかとかを色々と考えて行く内に思ったの」


「思ったって、まさか」


「そう、どうやって一般人でも人気が出るアイドルを作れるかを。そこで私が考えたのは、将来、私自身がそんなアイドルのプロデューサーになってみようかなと思って」


「麻子にしては、意外な考えね」


「そうかな? 私だって真剣だよ。だらこそ、今はアイドルとして活動をしているけど、今度はアイドルをプロデュースする側になってみようと思うの」


 ホントに言うのが恥ずかしいくらいであった。普段、教室で多くの人がいる中で将来の夢を語るのはもっと緊張をして恥ずかしいが、こうして友達だけの場でも、それを言うのは、凄く恥ずかしかった。


「すっ、凄いじゃないですの。がっ、頑張ってください」


「もちろん、頑張るよ」


 その為、私は自分だけが恥ずかしい思いをしたと思い込み、今度はみんなの使用来の夢を聞いている事にした。


「それよりもさ、今度はみんなの将来の夢とかを聞かせてよ!!」


「私は…… アイドル活動を通してダンスの振り付けとかをメインにやって来たから、将来は、自分でいろんなダンスを考えて行きたいかな」


「わたくしは、アイドル活動に置いては、映像関連や小道具担当に携わっていたから、将来は、役者をより綺麗に見せる事の出来る職に就こうかしら?」


「わっ…… わたしは…… 坂畑さんに歌が上手い事を褒められて、アッ、アイドル活動に置いては、歌詞を書いたりしていたので、しっ、将来は、シンガーソングライターを、めっ、目指してみっ、みようかな……」


 皆、赤面な顔をしながら、恥ずかしそうな様子で、将来の夢を語り始めた。


「なるほど…… みんなもいろんな夢があるんだね」


 私は皆の将来の夢を聞いて、関心をしていた。そして、少し考えた後に……


「うん、なろうよ!! その夢を絶対に叶えようよ!!」


「そりゃあ、なれたらいいけど、この様な夢なんて、なれるのはほんの一握りよ」


「そうですわ。あくまでも夢は夢ですわ」


「そう思っていてはダメなんだ!! なりたいではなくて、なるなんだよ!! その思いがあったからこそ、私達はここまでやって来れたんじゃないの」


「そっ、そうですよ」


「そうだよ。詩鈴も言ってるように、私達なら、きっとどんな事でも、乗り切る事が出来るよ」


「確かにそうね。何事も目標に向かって頑張らないと」


「そうですわね」


「でしょ!! その気持ちがあれば、明日の文化祭のライブも、絶対に成功を出来るよ」


 こうして私は将来の目標と共に、明日の文化祭でのライブの成功を祈り、皆で気合を入れる為、右手をグーにして、元気よく暗い夜空にその手を伸ばした。

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