第23話 久々の投稿

 わたしが阪畑さん達と共にアイドル活動を始めてから1週間が過ぎた……


 この1週間の間、わたしは尾神さんと、お互いのマンツーマンで、お互いの苦手克服の為の練習を行っていた。


 尾神さんは、予想通り厳しく怖かったが、そのおかげでわたしは阪畑さん達の様にダンスを踊れる様になった。また、その逆に、尾神さんの歌も、わたしの指導のおかげもあり、歌声がマンツーマンを始める以前よりも綺麗になっていた。





 そして、今日……


 わたしにとっては、阪畑さん達と一緒に行っているアイドル活動での、初めての動画撮影を行う日である。この日の撮影を行う為に訪れていた場所は、学校とは異なり、7月の炎天下の中、子供達が遊んでいる、どこにでもある様な近所の公園であった。この日の撮影の為、わたし達の衣装は、学校で着ている制服ととても似た感じの服を着た状態でいた。


「ん~ とりあえず、この場所なら、踊っても人の邪魔にはならないと思うよ」


「確かに、広いスペースもあるし、大丈夫かもね」


 公園の広さを見ながら、阪畑さんは動画撮影のスペースを考えていた。


「でしょ!! 夏休み前のこの時期は大会の都合もあって、学校内は運動部に完全占拠されているし、部活でない以上は、自由に学校も使えないから、こうして、公共の場で投稿を行うしかないけど、この場所は良いでしょ! 女月ちゃん」


「でも…… この場所だったら、子供達が邪魔して入って来ないかな?」


「そうだったね…… もし、子供達が勝手に収録中に入ってきたらどうしよ!?」


 しかし、阪畑さんは、尾神の心配事を聞き、収録中に子供が入って来た時の場合の心配を始めた。


「大丈夫ですわ!! そんな事もあろうかと思いまして、軽く柵を作れるようにロープを持って来ていますの」


「さっすが、紗美さん!! 準備が良すぎるよ!!」


「撮影を行うのでしたら、この道具は必要不可欠ですわ」


 そう言いながら、桜森さんは、自分で持って来た大きなドラムバッグの中から、策を作る用の骨組みとロープを取り出した。


 そして、侵入を不可能にする為のロープを作り終えた後、いよいよ、撮影を行う為のスタンバイが始まった。同時に、桜森さんは、テレビ番組のスッタフが使っている様な大きなカメラをセットし、映す角度の調整を始めた。


 そんな時、わたしはどうしても気になった事があり、その事を阪畑さんに聞いてみた。


「あっ、あの…… 阪畑さん……」


「ん? どうしたの? 朝芽さん。もしかして、初めての投稿に緊張をしているの?」


「そっ、それもそうなんですが……」


「その事に関しては、今までのやって来た練習の成果を信じればいいよ。心配をしなくても、きっと上手く行くから」


「たっ、確かに…… そうですけれども……」


「ん? まだあるの?」


「公共の場で、それも一般の人がいる公園で、勝手に柵など作って、撮影をしても大丈夫なのでしょうか?」


 わたしは、緊張癖のあるあまり、上手く喋れずに、本当に聞きたい事を、少し引き延ばしてしまった。ホント、今更ではあるが、撮影を始める直前になった今になってから、わたしは、本当に公共の場で勝手に撮影をやっても良いのか心配になり、その事を阪畑さんに聞いてみた。


「だっ、大丈夫だよ!! だいいち、そんな事を気にしていたら、撮影なんて出来ないよ」


「そっ、そうですわ。何事も心配ばかりでしたら、物事なんて出来ないですわ」


 その反応に、阪畑さんと桜森さんは、苦笑いをしながら答えた。どうやら、本当に大丈夫という保証はないみたい……


「まっ、麻子と紗美がああ言っているけど、ここは公共の場。他人に迷惑をかけない範囲内であれば、きっと大丈夫よ!!」


「そっ、そんなものなのでしょうか?」


「そんなものよ。公園なんて」


 その後、尾神さんも、阪畑と桜森さんと同意見の事を言った。ただし、尾神さんに関しては、阪畑さんや桜森さんとは異なり、自信を持って言っていた。


「そっ、そうだよ。公園はみんなのものだから、撮影に使っても大丈夫だよ」


「そっ、そうですわ。迷惑をかけない以上は、大丈夫なのよ」


 その後、阪畑さんと桜森さんは、再度、大丈夫と言ったが、その時もまた、自信がない様にガタガタ声状態であった。


「さっ、そんな事を気にせずに、さっさと、撮影を始めるわよ」


「そうだったね」


「1秒でも早く始めて、早く終わって、場所を開けないと、それこそ迷惑行為になるでしょ!!」


「そうですわね。じゃあ、みなさん、スタンバイに着いて下さい」


 こうして、阪畑さん達は、先日に打ち合わせしていた場所の位置に、スタンバイを始めた。


 この段階では、桜森さんは、動画撮影の収録に使うカメラの設定等の為、まだ、所定の位置には付いていなかった。そんな、桜森さんが動画撮影をする為のカメラの設定を行っていた時、阪畑さんは何を思ったのか、桜森さんに一時中断をする様に声をかけた。


「あっ、紗美さん、ちょっと待って!!」


「えっ、どうしてですか?」


「ちょっと、良い事を思いついて」


「良い事って、何よ。早くしなさいよね。麻子」


「分かってるって、じゃあ、朝芽さん、こっち向いて」


 えっ!? 阪畑さんが動画撮影の撮影を遅らせてまで言いたかったのは、わたしの事だったの? 一体、何? わたしは、気になりながら、阪畑さんの方を振り向いた。


「さっ、阪畑さん、いっ、一体なんでしょうか?」


「ん~ 朝芽さん、その結んでいる髪とメガネを外してくれるかな?」


 えっ、結んでいる髪を解き、メガネを外すのですか!?


「どっ、どうしてでしょうか?」


 もちろん、わたしはなぜ結んでいる髪を解き、メガネを外さなければならないのか、その理由を聞いてみた。


「きっと、朝芽さんは、髪を解き、メガネを外している方が、本物のアイドルみたいで、絶対に可愛いと思うよ」


「そう言えば、そんな感じがする」


「本当にそうでしたら、朝芽さん、阪畑さんの言う通り、メガネを外す事をオススメしますわ」


 阪畑さんは、以前にも見た事のある、わたしの髪を解きメガネを外した姿を知っている為、そちらの姿の方が良いと言ってきた。同時に、わたしの髪を解きメガネを外した姿を見た事のない尾神さんと桜森さんもまた、わたしの髪を解きメガネを外した姿が可愛いと予想をし、外す様オススメをしてきた。


「ほっ、ホントにですか?」


「ホントだよ! だから、外そうよ!!」


 わたしは、確認の為に再度阪畑さんに聞いてみた。


「そっ、そう? ……じゃあ、外しますね……」


 わたしは、阪畑さんの言う通り、結んでいる髪を解き、かけていたメガネを外した。これは同時に、わたしにとっては、普段のわたしとは異なる、全く別のわたしになる瞬間でもある。


 そして、髪紐を外し、メガネを外したわたしの姿を始めてみた尾神さんと桜森さんは、凄く驚いた様子であった。


「よっ、予想はしていたけど…… 朝芽さんって、髪を解きメガネを外した姿になると、本当に可愛いわね……」


「たっ、確かにそうですわ…… 悔しいけども、この可愛さは本物ですわ」


 そんなわたしの姿を見ながら、尾神さんと桜森さんは、少しの間、固まりながらわたしの方を見ていた。


「でしょ!! 私の言った通り、朝芽さんはこの方が可愛いでしょ!!」


 その後、固まった様子となった尾神さんと桜森さんの方を見ながら、阪畑さんは初めから予想をしていた事を言った。


「じゃあ、朝芽さんは、そのままの格好で今のスタンバイに着いてて」


「わっ、わかったわ」


「じゃあ、桜森さん、収録のスタンバイを初めて!!」


「はっ、はい。じゃあ、始めますわね」


 そして、ほんの少し遅れての、撮影のスタンバイは始まり、カメラのセットが始まった。同時に、カメラがセットされた直後に、桜森さんは急いで自分の位置にスタンバイをした。


 その後、カメラが回り始めたのと同時に、阪畑さんが歌い始め、UTubeに投稿する動画の撮影が始まった。この動画の撮影は、わたしにとっては、阪畑さん達と行うアイドル活動での初めての動画の撮影となった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る