文化委員

「そろそろ全クラス集まったか? よし、ではこれより委員会を始める。始めに担当の先生は今日は休みだ。今日決まったことは後日俺から伝えておく」


 会議室に設けられた、長机を合わせた長方形の上座にはガタイのいい三年生の男子と、その隣に同じく三年生の女子が座っている。今喋っていたのはその男子の方だ。


 残った席には役員達が好きに座っているけれど、さすがにクラスの男女では隣合って座るように指示された。


「とりあえず俺から自己紹介させてもらう。文化委員の委員長を務めさせてもらう、三年の金貝かながいだ」


 この自己紹介で一年の一部は不思議そうに顔を見合わせたりしている。本来ならばまだ委員長は決まっているわけがないからだろう。

 しかし、文化委員は学校行事への関わりが深く、その長もまた責任を伴うために生徒会が直接指名をする形になっているのである。


 つまり、彼は現在の生徒会長から信頼されているということに他ならない。

 そして、その委員長の隣に座っている美少女と称するに相応しい人が生徒会長だ。


「知っている人も多いかと思いますが、鷺ノ宮さぎのみやれいです。私は生徒会の者ですが、文化委員とは共同活動が多いので挨拶に来ました。また、文化祭等の行事前には生徒会役員の誰かが参加しますので、その際もよろしくお願いします」


 堅苦しくはあるが、それが板についている。

 一年時には風紀委員、二年で生徒会副会長、三年の生徒会選挙では圧倒的支持率で当選した、まさに生徒会長になるべくしてなったと言ってもいいだろう。


 同時にその容姿も人気の理由で、無謀にもアタックする勇者は後を絶えない。ただし、誰一人突破したことは無い鉄壁の要塞らしいけど。

 しかし、それも最近では揺らいでいると噂だ。もちろんその犯人は……萩井大和。


 つまりラブコメ要員である。どこから一織と萩井を繋げてくるかわかったものではない。気をつけなくてはならないだろう。


「と、言うわけで二、三年は知っていると思うが、文化委員はあらゆる行事で重要な役割を担っている。時には学校の代表として動くこともある。だから責任のある行動を心がけるように」


 金貝先輩の眼光の鋭さのせいもあるけど、責任という言葉に一年のみならず、二、三年にも緊張が走る。


「しかし、やりがいはあると保証しよう」


 ニヤリと金貝先輩は笑った。


「じゃあ、俺と鷺ノ宮の挨拶は終わりだ。さっそくだが、副委員長を一年か二年から二人決めたい。ちなみになぜ二人かと言うと、次年度の委員長の多くはこの副委員長の二人から選ばれることが通例だからだ」


 つまり、副委員長を競わせて質を上げようという企みか。一見効率的にも思えるけど、障害も多そうだ。

 一年やったら次はしたくない理由ってこの制度も関係してるんじゃないだろうか。


 少なくとも俺はしないけど、二年じゃ人気も信頼も厚く、かつ頼られたら断れない俺の隣の幼馴染みはなりそうだなぁ。

 実際、すでに二年の数名はチラチラと一織を見ていたりする。


「どうだ? 誰か立候補はいないか? 特に二年」


 慌てて二年勢が金貝から目を逸らす。


「思ってた以上に厳しそうな委員会だね」

「まぁな」


 一織がこっそりと耳打ちしてくる。

 俺達が座っているのは金貝先輩から一番離れた下座だから小声で話してたし内容は聞こていないと思うけど、それでも目立つのは変わりない。


「そこの後ろの……二年か? クラスは?」

「二年三組です」


 呼ばれて臆した様子もなくすぐに返事する一織。

 俺なら慌ててる。今も視線が突き刺さってきて辛い。


「先程から二年の一部が君を見ていたが、名前は?」

「神原一織です」

「もう一人は?」

「……塚本千利です」


 俺をセットで聞いてくるな。あんたの求めている人材は一織一人だよ。


「どうだ? 副委員長」

「お断りします」


 え?


 ザワザワと特に二年生がざわついた。

 彼女なら受け入れると思ったからだ。俺だってそう思っていた。

 確かに一織は断らないわけじゃないけど、自分ができる範囲のことならば大体は請け負う。


「そうか。塚本は?」

「いや、俺は……すいません」

「ふむ。残念だ」


 金貝先輩はそれだけ言って他の生徒に声掛け始めた。


「一織が断るとか意外だな」

「うーん、副委員長になったら忙しそうだし」

「忙しいのなんていつものことだろ」

「でも今は優先しなくちゃいけないことがあるもんね」


 ツンツンと人の頬をつついてくる。

 まさかとは思うが、俺がしないからしないとか言わないよな?


 そういや、昨日変なこと言ってた。

 俺の傍にいるとかどうとか……。


 朝も最初から一緒に行く予定だったって……。

 本気で言ってたのか……っていつまでツンツンしてやがんだコイツ。


「やめろって」

「ふふ、照れちゃって〜」


 照れるとかそういうのじゃないっての。長過ぎるんだよ。


「それじゃあ、今年度の副委員長は二年の鈴木と一年の友垣ともがきで異論はないか?」


 気がついたらいつの間にか副委員長が決まっていた。二年はちょいイケメンくらいの男子が、一年は小柄で勝ち気そうな女子がなったみたいだ。

 どちらも立候補だったらしいからなりたい人がなれて良かった。


「二人は次の回から前に座るように。次に今月の予定を伝える。月末にもう一度委員会がある。それと、今週末に生徒会と合同の地域清掃ボランティアがあるが、急な話であったため、これは強制ではなく自主参加とする。参加する者は俺か鷺ノ宮に伝えればいい。生徒会は全員参加らしいからな」


 もっと、『絶対参加で来なかったら罰がある』みたいなキツい委員会かと思ったけど案外まともなのかも?


「今月の予定は以上だ。最後にそれぞれ自己紹介をして終わる」


 順番おかしくないか?


「まぁ、どうせ自己紹介なんかしたところで半分も覚えられんからまた名前を聞くと思うが許してくれ」


 なるほどな。それで優先順位が下がって最後に回されたのか。その気持ち分かるよ。自己紹介で名前なんてほとんど覚えられない。

 ちなみに一織は覚える。それが人気の秘訣でもあるのだと思う。


「ちゅか……塚本千里です。二年三組です。よろしくお願いします」


 最悪の自己紹介になってしまった。

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