第6話 内閣府未確認生命体D対策本部

パブリックコメントに投稿したことなどすっかり忘れて農作業に勤しんでいる俺の携帯電話が着信を知らせるメロディーが穏やかな雰囲気を醸し出した。

「はい川上ですがどちら様でしょうか」

「こちら内閣府未確認生命体D対策本部です。以前お預かりしましたパブリックコメントについて米軍基地関係者が非常に興味を持っており、大変恐縮ではございますが、明日行われる三沢基地でのカンファレンス会議に有識者として参加していただくことは可能でございますでしょうか」

「あー 思い出しました。ちょっとお待ちいただけますか」

電話を保留にしながら一度頭の中を整理してみる。そういえば先日酔っ払った勢いで色々恥ずかしいことを書いたのを思い出した。


「お待たせしました。明日何時ぐらいになりますでしょうか」

「ご都合がよろしければこちらから車を手配させて頂きますので、明日10時頃でいかがでしょう」

「わかりました。ちなみに具体的な出席する方と議論する内容はどうなっているんでしょうか」

うっかり失言しそうになったので内容について確認していく


「はい、出席者は国連軍総司令部関係者、並びに政府対策委員関係者、及び有識者となっております。参加人数はおおよそ50人程度の見込みとなってます。議題については昨今有名になっております公式名称黒龍についてどのような対策を今後していくかについて議論されます」

「会議に出ると日給とか出ますか? 」

「日給は支給されませんが、対策本部について直接雇用される場合もございます。詳細については会議後に追ってご説明させていただきます」

お金について何度も聞くのは浅ましく感じてしまった俺は10時頃であれば農作業も終わってるので参加しても問題ないと思った

「わかりました参加させていただきます。よろしくお願いします」

オペレーターと思われる方と電話を切った後で、それで正しかったのかなと悩んでいる小心者の俺がいた。


翌日10時になる公用車と思わしき黒い車が現れ一人の男が乗り出して来た。

「自衛隊三沢基地所属加藤でございます。本日はカンファレンス会議にご案内させて頂きますのでよろしくお願いします」

軍服を着て現れた男は敬礼をしながらそう名乗った。幾分気押された感は否めないが挨拶をして三沢基地へ向かった 。俺はGパンにTシャツと短く切りそろえた髪に浅黒く日焼けした肌をしていた。いかにも農家らしい格好だが会議にはフォーマルでなくても大丈夫だそうだ。


カンファレンス会議は東京政府官僚と三沢基地、沖縄米軍、横田国連軍司令本部とTV画像で繋がっていた。其々がまるで映画の様にコマ割されて表示されている。自衛隊の加藤さんによると隣にいる女性が通訳で公用語は英語。通訳によると現在化学兵器による攻撃をアメリカ側が検討しているがオーストラリア側は現地が猛反対している状況であるとの事だ。他には大型の鋼鉄でできた網のようなものを使用して捕獲する案が出ている様だ。


沖縄米軍にいるジェームスという男が俺に質問しているようだ

「あなたの言う動物に好かれる体質というのはどの程度の信用がおけるものでしょうか」

「信用と言われても尺度がないのでご説明するのが難しいですが体質的なものなので信用していただくしかないです」

「大変失礼だが確認のために米兵を2名派遣したいが構わないだろうか」

少しムカッとした表情になったかもしれないが、隠すように笑顔を作り余裕をもって俺は答えた。

「もちろん問題ありません」


すると東京の対策本部の人が割り込んできた。

「彼は軍属でない普通の一般人です。有識者として呼ばさせていただきましたが状況について詳しく説明していないので、一度休憩を挟んだ後改めて彼の案を議論したいと思います」

その男は柳田と名乗り会議を中断して状況を簡単に説明してくれた。


要約すると網は全長が15m程必要な鋼糸鉄線で現在作成中で2~3日程度時間が必要な事。化学兵器は条約で使用が禁止されており使用が困難である事や現地民の反対が根強い事を教えてくれた。つまり俺のくだらない餌付け作戦が一番手の作戦となっているようだ。網ができるまでの2日間の時間でドラゴンとの会話をして欲しいとの事だった。


「会議については英語になりますので川上さんには厳しいかと。こちらで代わりに説明しておきます。川上さんにはそこにいる加藤と対策本部との契約について詰めておいていただきたい」

英語の会議は正直にってヒアリングも厳しい状態で出ないで済むのなら助かると思ってしまった。

「すみません。正直厳しかったので後お願いしても良いですか」

「はいわかりました。それでは本作戦については実行する方向で調整させていただきます。川上さんについては対策本部の一員として頑張ってもらいたいと思ってます。金銭面等の契約についてはそこにいる加藤とお願いします。最終的にはこちらの判断で本日中に決断いたしますのでよろしくお願いします」


その時の俺は狐につままれたような顔をしていたと思う…

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る