23話:安らぎの雫

ファンとキキの体が急に光り輝きだした。


「なんだ!?」

「な、なに、コレ!?」

「キャ!?」


いきなりの事態に困惑する俺。

驚きの声を上げるファン。

小さく悲鳴を漏らすキキ。


そして輝きの光が収まる。溢れる光の後、俺の目にはファンとキキが『人間』の姿から元の『魔獣』の姿に戻っている姿が入った。


『グルル?』


状況が解らずキョトンとした顔をしている虎魔獣形態のファン。


『キィー、キィー?』


俺の掌サイズの三つ目蝙蝠魔獣形態に戻ったキキが困惑感強めで俺に『またいきなり戻したのですか?』と尋ねてくる。前科があるので疑われても仕方ない。

しかし今回に限っては完全に白だ。

とにかく俺はキキに首を横に振って今回は俺の仕業ではないと告げた。

正直俺にも全く意味解らない出来事だった。


試しにと俺はファンとキキに”擬人化”のSkillを掛け直してみた。


「……あれ?」

『……』

『……』


しかしどうしてか2人に効果が効かない。

困惑が強まる。


「どうなってんだ?」

『マスター、ファン、人になれないの?』


悲しみが含まれた声でファンが言う。

ファンの頭を撫でてやる。

撫でつつ何故この様なことになったのか考えを巡らせる。

しかし考えても明確な答えが浮かばない。

自分のSkillなのに情けない。


『主殿…』


パタパタと飛んでいたキキが俺の肩に止まり声を掛けてきた。


「ん?どうしたキキ、何か思いついたことでもあるのか?」

『……もしかして、ではあるのですが』

「なんだ?正直今情報足りずで手をこまねいてる。些細なことでも何でもいい。キキ、教えてくれ?」


俺達3人の中では現状で言えばキキが一番魔法やSkillの扱いが上手い。

俺のSkillではあるが、その俺のSkillの対象となっていた本人なら何か思いついた可能性もあるだろうと期待した。


『では私が思いついた可能性ですが。おそらく主殿の我々魔獣を【人】の状態に変化させるSkillには一定の時間制限があるのではないでしょうか?』

『ウミュ…難しい話…』

「ファンには難しいか。…しかし、なるほど。いや、でもそれだと、たしかキキは俺が一度魔獣に戻して、またSkillを掛けて人間にしてるぞ?」


キキの考えた通りならファンだけ先に元に戻ることになるのではないか?


『…そうですね…。それでしたら、主殿が最初に一度に掛けているSkillの時間帯ではないでしょうか?今回はファン殿と私は同時期に【人】に変化していましたし…』

「”人化”を掛けた時間其の物、もしくは人数による可能性もあるってことなのか?…そうだ、お前たちの魔力はどうだ?」


先程は戦闘を行い魔力を消費しているはずだ。魔力を消費したことで『人間化』を維持できなくなったのではと考えたのだが、


『ファンはまだまだ元気だよ!ほとんど”風爪”と”部分獣化”しか使ってないから魔力はそんなに減ってない』

『私はいくつもの魔法を使いましたが、元よりファン殿より魔力保有量が多いですので、まだ半分と言った具合ですね』


ファンもキキもまだまだ魔力に余裕があるらしい。

困った。この後もあれやこれやと意見を出し合ってみるも解らず仕舞いとなった。

困ったが、元はと言えば俺のSkillなんだ。

俺がもっとSkillの把握をしていたら良かったってことだろ。

まったく。

仕方ない。

はぁ、と溜息を零した後、一先ずは拠点の洞窟に戻ろうと言う事になった。

本当なら盗賊団の拠点に行って拠点にあるだろうモノも頂こうかと考えていたが今回はやめておくことにした。

人化Skillに関しては、しばらく時間が経ってもう一度Skillを使ってみたらいいだろう。


三人分の鞄のうちキキは背負えないので二つを俺が持ち、残り一つはファンの背中に預けた。

他の細かい物はキキが空間系魔法を使って浮かしながら運んでくれた。


そして拠点の洞窟に戻った。


「キキ、中はどうだ?問題はないか?」

『はい。問題なしです。侵入の形跡もありません』

「まあ侵入しても盗る物はほとんどないからな」


安全確認後中に入っていき奥のスペースに着く。

荷物をその辺りに置きまずは腰を落ち着ける。


「ふぅ。とりあえずただいま、だな」

『マスター、おかえり~』

『お帰りなさいませです主殿』

「……何だか新鮮な感じだな。まあ何か食ったら休むとしようか。今日は本格的な戦闘もしたからな」


朝一から初めての対人戦闘を経験したこともあり、意外と疲れがあったので頂き物の果物を食った後休むことにした。


『おやすみ~zzz』

『お休みです主殿。警戒は第三の目がしてますのご安心ください』

「おう。と言うか一番警戒が必要なのは、俺の血を勝手に吸うキキだけどな」

『そ、それは…申し訳ないです…うぅ…』


キキを揶揄った後は、既に眠るファンに背を預けながら、羽を畳んでおり額部分の第三の目は開いていた状態で眠るキキを抱えながら俺も眠りにつく。

暖かな体温が心地良いと感じる。

この俺の壊れた心に安らぎを齎してくれる。

俺は瞼が落ちきる瞬間、


「おやすみ、ファン、キキ…また明日な」


そう告げた。

また明日と。


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