お嬢様体育祭やりますよ!ー怪力クソお嬢にあいつは改名だなー

 摩耶だけではなく奈々からも冷たい態度をとられる相馬は誠人に勉強を教えてもらう、誠人はそれなりに点数は取れるため相馬に教えるのは苦ではなかった。結果、相馬は前回よりは良くなったがそれでも赤点ギリギリだった。

 そしてテストも終わり数週間が経つ、奈々はクラスメイト達と摩耶は主に女子のクラスメイト達と話す。相馬は一人で窓の外を眺めていた。

「なぁなぁ相馬、そろそろ体育祭だけど…てか大丈夫か?」

 ずっと顔色が優れない相馬に心配をする誠人。

「…まあ大丈夫だ、体育祭?ああそんなものあったな、環から聞いていたわ。それがどうした?」

「お前が大丈夫と言うならいいが…、まあいい。その体育祭で学年別の騎馬戦があるんだ」

「騎馬戦?それがどうした?」

「嫌だったら断っても構わない、相馬があの件以降正直評判悪いだろ、だからここで一位になることを見せつけみないか?総合優勝は別にどうだっていい、騎馬戦だけ勝てればいい。どうだ?」

 イジメの件以降、相馬の悪い噂は絶えない。それは相馬も知っていた。誠人はその悪い噂をひっくり返そうと考えていた。

「嫌ではないがその頼みは誠人に得がないじゃないか、何か裏がありそうだな」

 虫のいい話、しかし何か裏があると考える相馬。

「確かに俺には得はない、けど環先生の言葉通りにみんな仲良くしないと意味がないだろ、特にお前は」

 流石委員長と言うべきなのか誠人の優しさなのかそのどちらもなのか誠人の言葉に感動する。

「誠人…お前、良い奴だな」

「良い奴と思ってなかったんかい」

「なんか時々摩耶と仲良くなりたいとか言ってきたりしたから正直お前も他と同じ奴と思ってた」

「酷い言われようだな、まあいいやこれでチームは決まったな」

「ところで俺に協力する奴なんかいるのか?」

「ふっふっ、俺に任せろ」

 胸を張る誠人、しかし相馬は不安だった。

 体育祭まで日にちが近づく中、摩耶と奈々の仲は変わらなかった。

「騎馬戦は三人が土台、一人が上。三つの騎馬で戦う。大将騎馬を決めて大将騎馬を倒せば勝ち、他の二つの騎馬は守りと攻め、ルールはこんなもんだ」

 体育の時間はほぼ全てが体育祭に向けた練習となっていた、誠人は男子を集めて騎馬戦のルールを説明していた。

「大将騎馬は相馬、他の騎馬は俺とあと誰かいいな?」

 誠人は勝手に決めたのか大将騎馬を相馬にした。当然周りは不穏な空気になる。

「相馬か?マジ?」

「何かまた問題起こしそうじゃね?」

 最初の頃とは一変して相馬に対する意識が大幅に変わっていた。その様子を見かねた相馬は誠人に耳元で囁く。

「大将騎馬は俺じゃなくてもいい、他の誰かにしろ」

「いやダメだ、お前が大将騎馬だ」

 誠人は相馬を大将騎馬にしようと必死だった。

「分かった、そしたら相馬の騎馬対二つの騎馬で戦うのはどうだ?」

 二対一という不利な条件を提案する誠人。

「お前マジか、いくらなんでもそれは…」

 たとえそれで勝ったとしても大将騎馬にさせるのは話は早いと思う相馬、しかし意外にも周りは、

「まあそれならいいか」

「相馬をぶちのめせばいいのか」

 やる気はあった。そして相馬の騎馬対他の二つの騎馬の戦いが始まる。

「ルールは上から落とすかハチマキを取れば勝ち、いいか?」

 相馬を上に乗せ下の誠人が言う。

「分かった」

 ハチマキを巻き試合が始まる、相馬の騎馬はその場に留まり向こうからやってきた所を狙う。一つの騎馬が向かってくる。

「もう一つは様子見だと思う、相馬いけるか?」

 誠人は冷静に考えて相馬を指示しようとしたが向かってきた騎馬は相馬と組み合ったほんの数秒で呆気なく落とされた。

「……はっや」

「チンピラを相手に…いやなんでもない」

 実際、相馬にとってこの騎馬戦自体はそうでもない。もはや銃弾を軽く避けれてなおかつ喧嘩を慣れてきた相馬は組み合う時点で勝ちも同然だった。

 そして最後まで様子見していた騎馬も向かってくるが呆気なく倒された。

「さすが相馬、やるね〜」

 誠人は相馬の肩を叩く。

「強いな相馬」

「あの力強さは異常だろ」

「勝てるんじゃね?」

 男子達は相馬の圧倒的な強さを認め始める。

「手のひら返しが早すぎるだろ…」

 相馬は呆れたがほんの少し嬉しくなった。

 そして相馬は大将騎馬に決まった。

 体育祭の前回、家で夕食を食べ終わって片付ける相馬。環はお風呂に入っていた。

「ーー相馬」

 台所に来て声をかけたのは奈々だった。

「どうした?急に?」

 全く喋らない訳ではなかったため度々、摩耶の事を話す奈々だったが今日もその事だろうと思い相馬は片付けしながら聞く。

「そろそろ摩耶の気持ち分かった?」

「全く分からない、別に考えてない訳では無い、ただその思いつかない」

「だと思った…」

 大きくため息を吐く奈々。

「いいわ、明日気づかせてあげる」

「気づかせる?一体…」

「じゃ、おやすみ」

 一体なんの事かさっぱりな相馬は結局分からないまま次の日を迎えた。

 体育祭当日は様々な種目が行われる、学年全体で順位を争う、学校の一大イベントということもあり教師も大いに盛り上がる。

 リレーだけじゃなく徒競走のほかに借り物といった様々な種目に全生徒は応援する。相馬や奈々、摩耶もそれぞれ種目に参加をした、そして最後は騎馬戦となった。

 リーグ戦で行われる騎馬戦、得点はほぼ均一となっておりこの騎馬戦で総合優勝が決まる。

「いいか、相馬を守りながら必ず一は落とせよ、相馬なら二でもいけるから大丈夫だ」

 誠人は自信満々に言う。

「いや実際分からないぞ勝てるかどうか」

 絶対に勝てると豪語するよりもしかしたらと一応逃げ道を作る相馬だがもはやクラスの男子達は相馬は二対一なら絶対に勝てると思い込んでいた。

 そしてクラスの男子達の思い通りに二年相手に勝った。その後三年相手にも少しばかり手間取りつつも勝ち総合優勝が決まった。

「勝ったーー!」

 誠人が喜びクラス全体も喜ぶ、相馬はそんなクラスメイト達を見て少し肩の荷が降りた気がした。

「ーーちょっと待ったーーーー!!」

 マイクを通して響き渡る声、それは壇上に上がった奈々だった。

「あれ、奈々ちゃんじゃね?」

「一年の?」

「噂の編入生か?」

 全校生徒が奈々を見る。

「聞いて驚くな、私はとあるお嬢様だ!金もあり権力もある。そして何より力もある!!」

 全力で演説を始める奈々に驚きを隠せない全生徒達。

「おい…あいつ何やってるんだよ」

 さすがにマズいと思った相馬は止めようとした。

「私は宣戦布告をする。笠原 相馬!!」

 奈々は急に相馬を指さす。

「ん?俺?」

「今から私と騎馬戦で勝負しないさい!!」

「は…はぁ!?」

 驚く相馬、そして困惑する全生徒。

「いい、私が勝ったら私と付き合いなさい!」

「つき、付き合う!?お前何言ってるの?」

 相馬は不思議と摩耶の方を見た、摩耶は一体何が起きたのか理解が追いついてなかった。

「先輩達、下級生の我儘ですが手伝ってくれる先輩が居ましたらお願いします。この笠原 相馬を倒して付き合いたいんです」

 奈々は協力を求める。さすがに集まらないと思った相馬だが、

「あの編入生面白いことするね、いいじゃん俺行くわ」

「まあ可愛いし手伝ってあげてもいいかな」

「笠原 相馬ってあの噂の問題起こした奴か、ならいいんじゃね?」

 意外集まる上級生に呆れる相馬。

「こりゃ凄いことになったな、なぁ相馬」

 笑いながら誠人は言う。

「こんなの先生たち……うっわマジか〜…」

 教師達の方を見ると完全に黙認、又は楽しみにしている教師が沢山いた。

「仕方ない、やるか…」

 挙句の果てに相馬と奈々は勝負することになった。

 奈々の方には厳選された上級生、対して相馬の方は同級生のみのメンバー、不利な状況だが今回は一体一の対決、上の力で決まるものだった。

「相馬、私に負けたらいいわよね?」

「正直お前とはやりたくなかった…」

 アメリカで見た奈々の強さ、ほぼ相馬と変わりない強さであるため相馬にとって戦いたくはない人物だった。

「ルールは落とせば勝ち、いいわね」

「シンプルでいい」

「じゃあいくわよ」

「ああ」

 合図が鳴る、相馬と奈々は組み合う。お互いの力はほぼ互角。全生徒達が応援する熱い戦いが始まっていた。

「クソっ、お前なんで急に…」

「言ったでしょ、付き合うって」

 組み合いながら話す二人。

「俺は女が嫌いなんだ」

「へぇ、じゃあ今と私と組み合っても大丈夫なの?」

「あっ……」

 力が緩む相馬、すかさず押し込む奈々。勝負になると周りが見えなくなる、相馬は勝負だけに意識が向いていたため奈々が女であることを忘れていた。

「……相馬、聞こえる?」

 押し込んでいた奈々が相馬の耳元で囁いた。

「え?」

「摩耶の声が…」

 相馬は摩耶が居る方へ視線を移すとそこには精一杯応援する摩耶の姿が見えた。

「私と付き合えば摩耶と会わなくて済むのよ、どう?悪い話じゃないでしょ」

「お前何を言ってる?」

「これからの面倒は私が見るってことよ」

 奈々の言葉に何か違和感を感じ怒りが湧いてきた。

「どうしてお前が見るんだよ」

「あんたは女嫌い、それが理由よ」

「勝手に決めるな、摩耶は俺が守るって決めた」

「出来てないじゃない、むしろ離れてるじゃない」

「うるさい!」

 奈々の言葉にはいちいちトゲがあったが今回の言葉はあまりにも怒りを覚えさせるような言葉で相馬はいてもたってもいられなかった。だが相馬の方は限界が近く倒されるのも時間の問題だった。

「相馬、ヤバい……落ちる」

 誠人が苦し紛れに警告する。

「あら、じゃあ私と相馬は付き合うのかな?」

 その言葉で相馬が吹っ切れる。

「誰が、付き合うかーー!!」

 力は逆転して押し返すとそのまま倒れる奈々の騎馬、勝負は相馬の勝ちだった。

「か、勝ったー!すげぇ相馬!」

「あそこから返すと凄いぜ相馬」

 大喜びするクラスメイト達、しかし相馬だけ腑に落ちなく奈々の元に行く。

「奈々、これはどういう事だ?」

 奈々は上級生に謝りつつも笑って話していた。

「相馬じゃん。なかなかだったぞ」

 奈々は笑って相馬に近づく。

「ふざけるにしても度が過ぎるぞ、少しは…」

「一芝居打ったんだ、無駄にするな」

 一言だけ告げて教師に謝りに行ったのち様々な生徒達と笑って話す奈々。

「なんだアイツ…」

 よく分からないと思いつつ振り返るとそこには摩耶が居た。

「ま、摩耶?いやこれはだな、アイツ一人が…」

「…私やっと分かった気がします」

 摩耶は真剣な顔で相馬を見る。

「何が?」

「私、相馬さんが好きかもしれません」

「好き?それって前に言っていた友達としてか?」

 前に摩耶が言っていたクラスメイトも好き、そして相馬も好きという友達として好きの意味。相馬はそう思う。

「いえ、その好きではなくて……その……」

 段々と声が小さくなり顔がほのかに赤くなり始める。

「…相馬さんと話していると心がドキドキするというか……少し恥ずかしいです」

 相馬はその様子を見て考え答えにたどり着くが一応確認のために聞いた。

「…………摩耶、それって好きから恋に変わったと言いたいのか?」

 さすがに無いだろうと思い聞いた、しかし摩耶はそれを聞いて納得したかのように笑顔になる。

「それです!私、相馬さんに恋をしました!!」

 固まる相馬、なんて言えばいいか分からずその場で固まっている。

「ごめんなさい、ずっとモヤモヤしていたので、でも今はその気持ちが晴れました」

 暗い顔だった摩耶が今は笑顔になっている相馬はそれだけで今は十分だと思い一安心した。

 その後、閉会式も終わり帰り道を歩く相馬と摩耶、奈々。

 すると摩耶が相馬と奈々に頭を下げ謝った。

「ごめんなさい!私一人で勝手に悩んで無視してしまって…」

「大丈夫、摩耶が元気なればそれでいい」

 相馬は答える。奈々は安心してホッとする。

「本当にごめんなさい、それと奈々ちゃん」

「ん?」

「奈々ちゃんのお陰でやっと気持ちが分かりました…」

「それは良かった」

「…でも奈々ちゃんには負けませんから」

 摩耶はそう言い先に帰って行った。

「奈々、お前何を言った?そして何を聞いた?」

 相馬は奈々に聞くと奈々は笑う。

「これは大変だぞ相馬」

「???」

 どういう意味か分からず首を傾げたが奈々は楽しそうに鼻歌を歌って先を歩き、相馬は考えながらその後ろをついて帰った。

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