お嬢様不機嫌みたいです?ー大丈夫ですか?お嬢様ー

 摩耶とはそのまま相馬と喋ることはなかった。

「じゃあ、また会おう」

 奈々の父親が摩耶と摩耶の両親そして相馬に別れの挨拶する。

「またね、摩耶」

「うん…」

 奈々は笑顔で言うが摩耶は暗い表情のままだった、そんな摩耶を見て奈々は相馬の近くに来て小声で聞く。

「マジであんた何したの?」

「本当に俺は何もしてない」

「本当に?」

「本当」

 奈々は相馬が嘘をついてると思い睨む。しかし大きくため息をつく。

「何もしてないって信じるけどなんであんなに暗い顔してるの?」

「さっぱり、言うのは無駄だと思うがその〜、俺と奈々がショッピングモールのやり取りを見てなんか羨ましいとか言っていたんだよ」

「はぁ?なにそれ」

「分からない、本人も分からないと言っていた」

「本人が分からないんじゃあ私にも分からないわよ」

「幼馴染でもか?」

「人の心を読めたら苦労はしないっての、全く…。じゃあ帰ったら必ず話し合いなさいよ」

「うんまあ、分かったよ」

「じゃあ、またね」

 奈々は素直に笑顔で見送る。

「……意外だな」

「なにがよ」

「素直に見送るなんて…」

 つい言葉が出てしまう相馬、それにカチンときた奈々は付け足すように言った。

「一応お嬢様、ですから」

 まさかの言葉に驚く、普通なら馬鹿か阿呆などの罵倒が来ると思ったが意外な言葉に一本取られた相馬。

「そうくるか…、意外と面白い奴だな…」

 奈々は勝ち誇ったようにドヤ顔を相馬に見せたのち摩耶の所に戻った。

「摩耶、あの男が何かしようとしたら私に連絡してね。すぐに飛んでいくから」

「うん…、ありがとう」

 笑顔を見せる摩耶、しかしそれは作り笑顔だと気づく奈々だったが何も言わずに見送る。

「じゃあまたね」

「バイバイ、奈々ちゃん」

 そしてそのまま自家用ジェット機に乗り帰っていく。

 機内では浮かない顔のまま窓の外を眺める摩耶。

 当然、その様子に黙ってない摩耶の両親。

「おい、摩耶の様子がおかしいんだが何をした?」

 父親が威圧的に相馬に質問をする。

「いや〜、何もしてないです」

 そう答えるしかない相馬に摩耶は。

「…お父様、相馬さんは何もしてません、私が少し体調が悪いだけです」

 摩耶がフォローするが明らかに何かあったかのように冷たく他人事のように言う。

「摩耶がそう言うなら…」

 身を引く父親。

「一応今はこれだけにしとくが何かしたと分かれば、お前を消すからな」

 殺意マシマシの父親に恐怖を覚えるしかない相馬。もはや摩耶を信じるほかなかった。

 そして無事に日本に着き環が待っていた。

「おかえりなさい」

「ただいま」

 環は摩耶の両親に挨拶しに行く傍ら相馬は摩耶と話す。

「なぁ摩耶、大丈夫か?」

「はい、大丈夫です」

 摩耶は笑顔で答える、当然相馬もそれが作り笑顔だと気づく、口元は震え明らかに何か思い悩んでる事が分かる。

「俺があの時、ドアを開けようとした事は謝るよ」

「いえ、相馬さんのせいではありません」

「じゃあ何が悪かった?謝る、いや謝るだけじゃ足りないのであれば何でもするよ」

 どちらも悪くない、しかしあるとするならば摩耶がドアを開けないで、と言ったのに対して相馬は開けようとした事。しかしそれだけでは摩耶が落ち込み暗い顔はするはずがない。それは相馬も知っていてもちろん奈々も知っていた。

 しかし、今は理由を聞かないことに何も解決はしなく相馬は謝ることしか出来ない。

「ごめんなさい。今はそれだけしか言えないです」

 摩耶は頭を下げて両親に元に駆け寄る。

「ごめんなさい、か……」

 腑に落ちない相馬、しかしそれ以上聞くのは諦めた。

 家に帰るとさっそく環の話が始まる。

「ねぇねぇ、どうだった」

「普通だよ、普通」

 子供のように目を輝かせながら聞いてくる環に面倒くさく軽くあしらう。

「じゃあ摩耶ちゃんとは?」

「あ…」

 摩耶の事を聞かれた相馬は思いつく。

「なぁ環。もし仮に環の女の幼馴染が俺か別の男の誰かと話していたらどう思う?」

「どう思うって?なにそれ?」

「分からない」

「はぁ?じゃあ私にも分からないわよ」

「だよな〜」

 リビングをあとにする相馬。

「ちょちょちょ、話は終わってないよ〜」

「寝る!疲れた!」

 相馬は逃げるように去った。

 部屋に入りベッドに横になり考えた。

「……よく分からないか…、俺にもさっぱりだ…」

 そのまま目を閉じて寝る。

 夏休みはまだ少しある、相馬は残りの期間ずっと考えていた。スマフォには当然何も摩耶からの連絡は何も無い。

「分からねぇ…、どうしたらいい」

 一度摩耶の家に行こうと考えたが門前払いを食らうと思い止めた。

 するとスマフォから着信音が鳴る。

「ん?非通知、怖っ…」

 そのまま切る。

 しかしまた鳴る、同じ番号から。

「はぁ?なんだよ、壊れたか?」

 考え事してる時に鳴り響く着信音に苛立ちまた切る。

 しかしまた鳴る、同じ番号から。

「ウッッッッザ、マジで誰だよ」

 苛立ちから電話に出てやろうと思い開口一番怒号を浴びせようとスマフォを耳に当てる。

「さっさと出ろよーー!!」

 しかし、先に怒号が飛んできたのは電話の向こうからだった。

 急に耳元で怒号が飛んできて耳がキーンとなる。

「だ、だれ?」

 ビックリして相手を聞く相馬。

「私が電話をする時はワンコールのみ、いい?」

「その声は…奈々?」

「そうよ、本当にヴァカね」

 下唇噛みながらの馬鹿発言、ハッキリと奈々と断定した。

「んで、摩耶とはどうなったの?」

「いやそれよりなんで俺の番号を?教えた覚えはないぞ」

 元々、教える気もなかったため知るはずもない電話番号にいとも簡単に電話をしてきた事に驚く。

「言ったでしょ、私はお嬢様だから」

「お前、なんでもそれでまかり通ると思うなよ、通報するぞ」

「あ、あんたそんな事をしたら今すぐそっちに飛んで馬に蹴られるよりも私の蹴りを入れるから覚悟してね」

「嘘です、すみません」

 何も無い壁に向かって反射的に頭を下げる。

「ん、それでいい。それで摩耶とは?」

「進展なし、分からないまま」

「つっかえねぇ…」

「容赦ねぇな、仕方ないだろ。家に行こうと思ったけどあの様子だと門前払い食らいそうだよ」

「本当につっかえねぇ…」

「お前…、まあいいや。どうしたらいい?」

「そう言うだろうと思った」

「なんだそんな事なら…」

「ーー奈々お嬢様、日本に行く準備が整いましたーー」

 電話の奥から執事か分からないが男性の声が聴こえた。

「え?お前日本に来るの?」

「さぁ、なんの事かしら?」

 しらを切る奈々。

「今さっき聴こえたぞ、日本に来るのか?」

「あー聞こえない、あ〜やばい、電波が〜ブチッ」

 わざとやってるとしか思えない態度のまま電話は一方的に切られた。

 相馬は急いでリビングに向かった。

「環!」

「なによ、急に…」

 環はリビングでお菓子を食べならが雑誌を読んでいた。

「環、夏休みが終わって転校生、編入生なんでもいい、俺の教室に加わろうとする生徒は断れよ。絶対に」

「どうしたのそんな予言者みたいな言い方して」

「いいから、絶対にだ。正直これ以上は身が持たなくなりそうだ」

 冷や汗ダラダラの相馬だが特に慌てることなく環は頷く。

「分かった」

「よし…」

 仮に奈々が学校に来ようとも摩耶目当て、相馬目当てであっても別クラスになればそう簡単には手出しが出来ないと思いガッツポーズする相馬。

「今回は俺の勝ちだ」

 いつの間にか勝負になっていた。

「変なの…」

 環は馬鹿を見るような目で相馬を見たあとに雑誌を再び読み始める。

 そして夏休みが終わる、登校は摩耶と一緒に来た相馬だが一言も喋らずに学校にたどり着く、摩耶は何事も無かったようにクラスメイト達と話す。

「相馬〜、夏休み何やってた〜」

 陽気な様子の誠人が相馬の前にやって来る。

「あ〜、えっと〜、誰だっけ?」

「ガクッ、お前人の名前を覚えろよ。委員長の塚原 誠人だよ」

 名前を覚えてもらないことに肩を落とす誠人だが意外にも怒ることなく相馬と接する。

「なぁなぁそれより夏休みはどうだった?」

「どうだったて…そりゃあ…」

 夏休みにアメリカ行ったなんて言えない、ましてや摩耶と行った事を言えばまたクラスメイト達に振り回されかねないと思い。

「家でゴロゴロ」

「だよな〜、相馬はそうだろうと思った」

「お前なぁ…、それ正直傷つく」

「悪い悪い、そういや聞いたか外国からの編入生、それもアメリカ」

「ふっ、知らない。知りたくもない」

 完全に奈々だと思い鼻で笑う相馬。

「なんだよ〜そう言うなよ。男かな〜女かな〜、男でもイケメンだったらちょっと嫌だな、クラスの女を取られちゃうし、下手したら摩耶ちゃんも〜…」

 楽しそうに喋る誠人に呆れる相馬。

「どうせ女だよ、そして安心しろ。このクラスには来ないよ」

「そんなの分かんないじゃん」

「さぁな、どうでもいい」

 勝ったも同然、わざわざ奈々の事を知りたくもない。相馬は勝ち誇る。

「おはようございます!真上 奈々です!よろしくお願いします!!」

 奈々は相馬のクラスに来た。

 奈々は他のクラスメイトとは小柄ながらも元気に挨拶するその姿に可愛さとどこか気品がある雰囲気を醸し出してクラスを湧き立たせる。

「マジか………………なんで……」

 完敗する相馬、ふと奈々と目が合うと奈々はドヤ顔する。

「アイツやりやがったな…」

 何か仕組まれたことに悔しがる相馬、そして摩耶を見る摩耶は驚く様子もなくただ奈々を見ていた。

 休み時間、奈々はクラスメイト達と楽しそうに話す中で相馬は環と廊下で会い理由を聞いた。

「環、なんでアイツが?入れるなって言っただろ」

「あら、聞いた話じゃあアメリカで会って仲良くなったらしいじゃない。それに摩耶ちゃんの幼馴染なら一緒に居させた方がいいでしょ」

「うんまあそうだけどね、けどさぁ…」

「相馬く〜ん、会いたかったよ〜」

 可愛らしい声で抱きついてこようと奈々は走ってきたがすぐに避ける。

「お前…」

「あら奈々ちゃん、どうクラスメイト達は」

「はい!みんな優しくていい人です。すみませんわざわざ相馬さんと摩耶さんの一緒のクラスにしてもらって」

 明らかに猫を被ってる奈々。

「いいのよ、じゃあ私はこれで」

「まっ……いってぇ!」

 環を止めようとしたが足を踏みつけられて阻止された。

「いい、相馬。私がここに来たのは摩耶が心配だから来たの」

「お前やってることが相当ヤバって気づいてる?」

「私は摩耶のためだったらなんでもする」

 睨む奈々、その眼差しは本気の眼差しだと感じ取る。

「分かった、一応俺も協力する。正直摩耶があの調子のままだと俺も調子狂う」

「当たり前よ、でも私の事は他人にバラそうとしたらあんたをバラバラにするから」

「脅し方が本当にヤバい奴だな…」

「お嬢様ですから」

「そのいい文句やめろ」

 喧嘩するほど仲がいいと言うが二人はそれを知っているが決してそれは言わない。それは仲がいいと認めなくない二人、ましてやいつの間にそれは気づかない内に勝負となっておりどちらかが言えば負けとなるため負けることが嫌いな二人は負けを認めない、だからこそ二人は不思議と息があっていた。

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