episode2 one day

目の前には見慣れた人物が笑顔で立っていた。


「アシュリー、いや、その目の色は……、サリーか?学校には来るなって言ってあるだろ。それにアシュリーの方の仕事はどうなっているんだ。」

「Sorry、私はあなたの忘れ物を届けにやってきタ。」


ブロンドヘアーにペリドットのような淡い緑色の瞳の女性、サリーが四角いケースから何かをカラカラと取り出し差し出してきた。


「ラムネ、おいしいヨ。」

「あ、ああ、ありがとう。って、そういうことじゃなくて。忘れ物って、何?」


白い大粒のラムネを食べた瞬間だった。

頭の中に広がる淀んだ空気が、一気に収束していく感覚がわかった。


「ふふっ、おいしいでしョ。それはあなたの能力を抑えル、おクスリ。びっくりしタ?」


─────


彼女と出会ってかれこれ4年、いや5年ほどは経つだろうか。

以前の職場で僕は科目講師の育成指導をしており、彼女と他数名の外国人職員を僕が受け持っていた。

そんな彼女が僕のどこを気に入ったのか、突然告白してきたときには、周囲の友人にドッキリなのではないかと相談して回っていたほどの美人だ。


僕は多少ではあるが英語スキルがあり、Skypeを通じて彼女の両親や友人とコミュニケーションを取っていたし、外国人は男女の付き合いにオープンな一面がある。


付き合って程なくして、彼女の故郷のカリフォルニア州サンフランシスコへと赴いた。



日本ではシリコンバレーと呼ばれるベイエリアの北部に位置するサンフランシスコは、有名所でいうと、ゴールデンゲートブリッジや、ゲームでも見かけるような光景のフィッシャーマンズワーフ等で有名だ。


一通りの観光を終え、サンフランシスコ最後の夜。

僕は彼女に外へと連れ出された。


豪邸が立ち並ぶエリアから車を西へと走らせ、到着したのは街灯もまばらな倒壊しかけた家屋が立ち並ぶエリアだった。


「ついて来テ。」


今にも崩れ落ちそうな木製の塀を飛び越え、溢れん笑顔のまま突き進む彼女。

あまりに軽い身のこなしに付いていくのがやっとだった。

ついに家屋や塀もなくなり、視界に広がるのは暗闇の中の草原。

その中にポツリと小さなすべり台があった。


「Would you please hurry.閉められちゃうヨ。」


彼女が何を意図して発言しているのかわからなかったが、あのすべり台を滑ろうとしているのだろうということは伝わった。

おちゃめな一面があることは重々承知であったが、まさかこんな真夜中にこんな人気ひとけのない場所の滑り台を選ぶなんて。


狭いすべり台の上で二人は見つめ合っていた。

美しいブラウンの瞳は、薄暗い僅かな光をすべて吸収し、虹彩の発色がとてもきれいに見えた。


「いいですカ?Are you ready?Go!」


その一声とともに、彼女は僕にしがみつき、そのまま後ろへ倒れた。

バランスを崩した僕はそのまま滑り台を滑り落ち、着地するであろう砂場を通り抜け、そのまま砂の中へ吸い込まれていった。

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