第三話 はじめてのかんゆう



「お!思ったより似合ってんじゃん」


「ありがとう

((でも…思ったより、ってのはいらないかな?おまえ馬鹿にしてんのか?そうだろ。))

……っておまえ馬鹿にしてんだろ」



「せやなー」

おい、ざけんな。何がせやなーだよ。せやかて工藤だよ。


てか、おまえ着替えてないんだな。

そういやあ、さっき春樹に撥水加工された服着てれば傘いらねぇじゃんって言ったとき、"いるわ。"って返してきたけどやっぱいらないじゃん。

だって着替えてないし、そもそも髪の毛も海苔みたいになってないし。なんだよ、サラサラヘアーとか惚れるじゃねぇか。女だったらな。

おまえ、さっき濡れた俺の頭をみて笑ってたけど。いくらノリがいいからって頭まで海苔(ノリ)みたいなヘアスタイルするつもりはなかったんだ。

わかってくれ、友よ。おお友よ、セルニンティウスよ……。


「どうしてお前は髪も崩れてないんだよ。髪の毛まで撥水加工してんのか?

え?それともよくある健康食品の青汁のおかげとかいうんか?

この青汁のおかげで私は○○になれました。

おい、まてや、ガンまで治るとか、エクリサー……ん?エリックサーぁ?エスクサー?おん?えっと……あー。エリクサー。そう、エリクサーかよ。

あのファンタジーで度々登場する幻の万能薬。みたいに、飲んだら凄え効果でも付くんか?



「そやなー」


え?うそ、まじかよ……うわ、えー。いや、まじか。こいつ…………やりおるっ!くっ……まさか撥水加工大好き人間だとは思っていたがまさか髪の毛にまで撥水加工してたとは……。

いや、違うわ。ふつうに、こいつ適当に返事してるだけだろ。

多分何を言っても肯定してくれる感じかする。


「上級国民のオーラのおかげでスプリンクラー如きでは濡れませんでしたとか言うんか?」


「それなー」


何が上級国民のオーラだよ。ざけんなカス。それなーじゃねえよ。そこは肯定しちゃヤバイだろ。

ほんと生返事だな。

思ったより似合ってるとか言って頭をあげたっきり、また紙を見ている。

さっきから生返事が酷い。

「おいこら、てめぇ……。"なんでも言うことを聞いてくれるハルキチャン"かコラ」


「ホ・ン・マッ!」


はい、確定。馬鹿にしてんのか?

ノリノリじゃねぇか。

こいつ、確信犯だ、タチが悪い。

全く。

なんでも言うことを聞いてくれるなら、100万円ちょうだいって言ってもくれるんか?


「ねね、100万円ちょうだい?」


「はい、どうぞ?」

そう言って春樹は机の引き出しから紙で束にされたドラマとかでよく見る1万円の束を机の上においた。


「え?100万円……うそ……え?ホンモノ?」


「あげるよ」

ほしいほしいほしいほしいほしいほしいほしいほしいほしいほしいほしいほしいほしいほしいほしいほしいほしいほしいほしいほしいほしいほしいほしいほしいほしいほしいほしいほしい


「いらねえよ、冗談に決まってんだろ」

ほしいなぁ、うん、ほしい。

いらないって言ったけど、日本人としてそこは一度、いらないとか断るのがマナーっていうか?

うん、いや、ほしいなぁー。



「よかった」

そう言った春樹は100万円を机の引き出しに戻して満面の笑みを浮かべた。


あ、ああああああああああああああああああああああああああああ

!!!俺の100万円ちゃんがぁぁぁぁぁぁぁぁ!!


「あ、当たり前だろ。俺たち友達なのに金を要求するわけないじゃん」


「いやぁ、そうだよね!うん、わかってたよ!統月がそう言う金の力に負けない人だって知ってたよ!!いや、試すようなことして悪かったね?」


んぃぃいいい!ごめんなちゃいぼく金になびきまくりでしゅぅぅうーー!!


「うへ?う、うん。」


「このお金、秘密結社のメンバーを誘う資金にしようと思ってたんだよね」

ああ、だから引き出しに100万め……


「へぇ」


「あのさ、よく考えたら2人で秘密結社を経営するのって無理があると思うんだよね」


「うん」

はよ、気づけや。それ、前から思ってたわ。それこそメイドさんとかドアを開けことしか仕事がないドアマンに手伝ってもらえよ。ドアマンなんて暇だろ?

な?大切なところたから二回言った。


「でさ、本部とか名前とかは後回しにしてとりあえず、何人か初期メンバーを勧誘したいと思うんだけど、どうかなっ?」


「わかる((知らんけど……))」


「だよね!やっぱ、うーんそうだな、あー、こいつにするか……いや、うーん」

そう言いながら、机の上に広げた紙のリストをペラペラと雑にめくり出した。

いや、そこは"やった!"って言えよ。

おまえが振ったネタだろ、最後まで責任持ってやれよ。


「いや、今日あったら言おうと思ってだことがあるんだよね」


「何?」

春樹は紙をめくるのをやめてこちらを見た。


「いやさ、秘密結社のマークを決めるのはいいよ?」


「うん」


「でもさ、秘密結社の名前っていらなくね?」


「え?」

なんだか驚いた様子。


「秘密結社の秘密度をどのくらいにしたいのか知らないけど、超秘密主義にするなら名前は無い方がいいと思うんだよね」


「え……なんでそう思うの?」

まじで意味がわからないという様子の春樹。いや、分かれよ。


「今の時代、インターネットでいくらでも調べられるようになったじゃん。

世界中の情報がわかる世の中で秘境も、神秘も、何もかもほとんどわかりきった世の中でみんな秘密に飢えてんだよ。

そんななか、俺たちは秘密結社を立ち上げようとしている。

まださ、食品会社で営業をしているサラリーマンを親にもつ一般家庭の子供と、バンド活動に熱を入れて将来をあまり考えてない大学生が、二人で『ウェーイ、秘密結社作ろうぜ!ふぃぃー!!』とか言ってんならいいんだよ。

でもさ、俺たちの生い立ちを考えてみろよ。

俺は弱小といえど神社家系だろ?一般人から見たらなんか陰陽術とか使えるんじゃね?とか思われててもおかしくない。

いや、使えないんだけどさ。

で、おまえはクソ金持ちの坊ちゃんで、クソでかい屋敷に住んで、高貴な血を継いでいる現代に生きるプリンセスだ。

そんな二人が秘密結社を立ち上げる?いや馬鹿だろ。

いやね、あの場では否定しなかったよ。

今は周りに部外者がいないから言わせてもらおう。

いや、馬鹿だろ。

ただえさえ怪しい二人が秘密結社だそ。どうすんだよ、バレたら。

メーだかモーだか知らないが」


「ムーな」


「そう、ムーとかいうオカルト雑誌とかに追いかけられて、夏の特番とかで話題の超能力者Hの密着に成功とか、身に覚えのない映像を流されてさ、秘密結社に入れてくれとか、秘密にしてないで公開しろよとか、有象無象のカスどもから迷惑電話が鳴り響くことになるんだぞ?

その覚悟あるのかよ」


「……ある、そう言うこともあり得ると思って準備は色々してある」


「そうか、なら言うことはない」


「いや待てよ。」

俺を呼び止めた春樹に振り向いて"なんだ?"と返した。


「どうして秘密結社の名前がいらないところに繋がるんだ?」


あ、忘れてたわ。


「あー、今はいいがこれから人数が増えていくわけだろ?」


「そうだな」


「今はいい、でもその内ポロっと漏らす奴が出てくるかもしれないじゃん?」


「いや、情報管理は徹底させれば」


「無理だよ、無理無理」


「いや、やって見る前から」


「自由迷走教会"フリーメイソウ"っていう秘密結社があるじゃん。あの秘密結社、昔は秘密を漏らしたやつを暗殺してた歴史があるのに名前もその当時から有名だったし、組織内部の秘密も漏れ漏れだったんだよ。

俺たちは秘密を漏らしたやつを殺すとかないだろ。

だからさ、無理なんだよ。だったら漏れようともわからない方がいいじゃん」


「そうかもね」


「つまり言いたいのは、名前がもともとなければ、情報が漏れてもまだ隠してるとか相手が勘違いするんじゃねぇの?ってこと」


どうかな。俺的にはいいと思っていったんだけど。


「はー、なるほど。うん、たしかに!そうだね、いいかもしれない」


「でしょ、で、俺のリュック開けて勝手に秘密結社のマークの案見てるみたいだけど、そっちも決まったん?」


「ああ、決めたよ。これにした」



そこには、蜘蛛のようなマークが書かれた一枚のラフ画があった。





======

秘密結社 名称 ーーーー

構成人数 2

設立者 近衛メディオス春樹、柳葉統月

本拠地 未定

======



☆side ???




朝焼けのまだ空がしらばむ朝。

電柱に寄せて積み上げられたゴミ袋から溢れ落ちた生ゴミをつついていた小鳥たちは、近づいて来た近隣住民に驚いてチュンチュンと鳴きながら飛び立った。

あまりにびっくりしたのか驚いて飛び立った小鳥の一匹の肛門から水っぽいフンを落とすと、ビャチャリと嫌な音を立ててアパートに住む男の部屋のベランダに飛び散った。


乱れた姿で、腹を出して寝ていた間抜け顔の男はその不快な音に反応し、薄く目を覚ました。

口の端からよだれを垂らし、ボサボサの寝癖。その側にはぐちゃぐちゃに押しやられたタオルケットと、カピカピになって丸められたティッシュや飲み終わった空き缶がそこら中に散乱していた。


枕元に置いた電子時計みればまだ8:30と表示されている。休日だと言うのにこんな早く目覚めるなんて珍しい……。


オレの名前は丸井優也、26歳、フリーター。大京星工科大学卒業。略名大京大では社会心理学を専攻。友達のレポートを盗み見してネットから寄せ集めした論文を提出し、教授の慈悲で卒業。

第一志望だった手杵(てぎね)ホールディングスの傘下テギネートに就職。

営業マンとして、働きライバル企業のJINJYO食品と競い顧客を奪い合った。

が、強引な手口でライバルを貶めていたのが発覚。自主退職を余儀なくされ再び就職活動を開始。就職面接を12回受けるも書類選考落ち。

それからは大学を卒業して生活に困らない程度にアルバイトをして自由に暮らすこの生活は最高だと思っていた。

アルバイトをする中で、日本には強大な権力をもつ御三家と呼ばれる血族集団が牛耳っていることをしる。

御三家の噂には信憑性があった。

それは路地裏で聞いた半グレたちから、柱に寄っかかって電話をしていた携帯から漏れた音声から、アルバイト先の店長が平謝りしていた時の会話から、ウィキペディアから。

そしてオレは知ってしまった、御三家の一つ、日本の物流を牛耳る一家、"神将家"からオレが就職できないよう圧力をかけて来ていたことを知った。


最近新卒募集の張り紙をみて応募した先の企業も書類選考で落としてきたのをみて行動を移した。誰が採用を決めているのか知らないオレは、知人の"ぴーしおたく?"とかいう職業についているやつに聞きに行った。するとそいつはカチャカチャとキーボードを鳴らしてあっという間に調べ上げた。ものの数分でネットの海から企業のサイトを拾い上げた知人は、社長の写真と名前と社訓が書かれた貴重な個人情報の書かれた紙をオレに渡してくれた。

一回印刷に1000円と情報料として3000円を払ったオレは社長をつかまえて尋問することにした。


なんかドアが沢山ある先に住んでいた社長をオレは手品を使って潜り込み、簡単に侵入した。誰にも気付かれずに31階にあるJINJYO配達の社長の住む部屋の前に立っていた。

大学で御偉いさんがいる部屋に入る時はノックを3回してからドアを開け、部屋の中に入ったらよろしくお願いします!と挨拶してから始めろと言われていたのを思い出した。


ーーコンコンコン……。


「ん……んん"誰だね……ん?今日はうちに誰か呼んだ覚えはないが…………ああ、"リサ"か!いいぞ入って来たまえ」


社長が許してくれたので部屋に入ることにした。

もう深夜だというのに部屋でライトをつけて本を読んでいた社長はオレをみて目を見開いた。

くっくっく……その反応が見たかった。

オレはバレないように黒いニットと黒いサングラス、金髪のカツラ、黒いマスクに黒のロングコート、黒の手袋をして暗闇から出てきたのだから。

社長から見れば闇から何か出てきたように見えただろう。

真夏にコートや手袋をするのは非常に辛く半ズボンに裸足で従兄弟がお土産に買ってきてくれたアロハ柄のサンダルを履いてここまできた。


「な、な……なん……なんなんだ……なっ!そ、それ以上近づくなっ!……何が目的だ!」


そう騒ぐ社長を無視してずいずいと近づいていくと悲鳴をあげて本を手から落とした。

「ひ、ひっ……これ以上近づいたら大声あげ

「よろしくお願いします!!!!!!」


何か言おうとした社長を無視して、大きな声で挨拶をした。

狼狽える社長を無視して襲いかかると『私はそんな趣味はない』などと訳のわからないことを叫び続けた。


寝込みを襲って縛り上げたからか大人しく、思ったより簡単に拘束できた社長をみて記念に一枚写真を撮った。

拘束して椅子に座らせたらとりあえず水をかぶせるのが通例なのだとドラマで知ったオレは家の中を探したがバケツが見当たらなかったので高圧洗浄機とかいう水を飛ばす機械を持ってきて、社長に浴びせた。

水を浴びせた社長は、もう濡れるのは嫌なのか、言わなくてもいいことまでべらべら話してくれた。

終始怯えながら命だけはと、泣きながら謝ってきたんで仕方ないから、お前が書類選考落ちにした丸井優也を合格にしろと言ってやった。

そしたらよ『喜んでやらせていただきます、ウチのものが書類のほうを破棄してしまった可能性があるのでこちらに電話番号と住所、顔写真を送ってください』っていうからラインで友達登録して、その場で変装用のマスクとサングラスを外して自撮りした写真と、連絡先を一緒に送ってやったんだった。

それが一昨日の話。市役所に書類を提出しないといけないから数日待ってくれと言われてこうして寝たり漫画読んでダラダラしていたわけだが、もしかすると楽しみで早く目覚めてしまったのかもしれない。


全く、まさかオレがその丸井優也だと気付かず媚びてきてるなんて馬鹿な男だ。



傲慢な社長が書類選考落ちにした男をおだて上げる滑稽な姿を思い出してきておかしくなった。

しばらく肩を震わせて笑ったいたオレはなんとなく、目を開けたまま天井を見上げていた。



ーードンドンドン


おや、誰か来客予定はあったかな?


ーーーピーンポーン!ピーンポーン!


ん?……誰も呼んだ覚えはないんだけどな。


ーーーピーンポーン!ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポン!!!


あー、ゴクルトの営業マンか幸福の魔術とかいう宗教の勧誘だなこれは。


ーードンドンドン!!


「丸井さん、いるんでしょう?開けてくださいよぉ」

「いるってわかっているんですよ!」

「早くしてほしいのですが」

「居留守は通用しませんよ?」


ーードンドンドンッ!!


さっきよりも強めにドアが叩かれる。

部屋の中まで響く音だ。

うるさい。

しつこい勧誘だ。


「早く出てきてくださいよー!」

「いるんでしょう?」


何人もの男の声が聞こえる。

早朝に、しかも休日の朝に迷惑なこった。


「丸井さん?死んだふりはやめましょう」

「いるんでしょう?」

「起きてるんでしょう?」

「はやくでてきてくださーい!」


「テメェら朝からうるせぇぇぇんぞ!静かにしろ!!!!!!」


怒鳴り声がした。あ、隣の石井さんだな。同じ井つながりでも向こうはアル中親父、オレはあんなやつとは違う。

正直見下していたが、今は少し見直した。


「なんダァおら?」

「テメェ調子乗ってるとシメちまうぞ」「おっさんいい気になってんじゃねえぞコラ」

「あん?なんだその目やんのか?あ"」


「ひっ……な、なんでもありません」


「は?なんか言ったか?聞こえねぇんだよなあ?」


「で、ですから……」


「ああ''!?言いたいことがあるならはっきり言え!!」

「ごちゃごちゃ言ってっと潰すぞワレ」


「ひ、ひ、ひぃぃぃ……た、たしゅけて」


「ひゃっひゃひゃひゃ……こ、こいつ、たしゅけてだってよ」

「きいたかおい!ひひひひ!」

「ははははははは!……おい、オッサンッ!!謝るのが先って教わらなかったのかなぁ!!!!!!」


「ごめ、ごめんな」


「ああ"!?なんだって!?聞・こ・え・る・よ・う・に、言えよおい!!!」



ーードンっ。ガンッ……ドツ


扉を叩く音とは違う。

大きなものが壁に当たる音がした。



「おら!オラ!オラァ!!はははは!!!…………ふぅ、てなわけで丸井さん、はやく出てきて貰いたいのですが」



急に落ち着いた声で話す男。

流石にやばい。オレはパジャマの上に黒いコートを羽織り、サングラスとニット帽と手袋をして三階のベランダから飛び降りた。

この変装ならバレないはず、

飛び降りた先の道を歩いていた小学生が悲鳴をあげる。

涙目になりながら防犯ブザーを鳴らそうとしたのをみて"手から放った炎"で防犯ブザーを溶かした。


「いたぞ!バーニングマンだ!!」


バーニングマン……だせえ名前だ。

そんなやつどこにいるんだと思っていると、ガラの悪そうな体格のいい男たちが鉄パイプを持って道の角からこちらに向かって走ってくるのが見えた。

小学生がオレのことを指して変質者が出たと叫ぶので、それから逃れるように走り出すと、ガタイのいい男たちがオレを指差してバーニングマンが逃げたと怒鳴る。


バーニングマンってオレのことか!?


くぅぅ……クソダサい名前つけやがって!せめてファイアーマンとかウルトライグニスだろ!!


逃げるオレ、追ってくるガラの悪そうな男たち。

塀を飛び越えて屋根を登って、建物の上を全速力で走るオレを奴らは途中から車を手配して追いかけてきた。

ずるいぞ!くそ!


住宅街を超え、川を抜けた先にある歓楽街。

人が入り乱れる中ならそうそう気づかれないだろう。そう考えたオレは、建物の屋上から飛び降りて人混みに紛れた





って感じなんすよ!ね!だから、ほら?助けてくれないスカ?

へへへ、いいっしょ?オレ変なやつらに追われてんすよ。

だから助けてほしいなって!


同じコート仲間じゃないスカ!あはははははは!!!!!!』






★side 柳葉統月( 主人公)




うわぁ……。

変なやつに絡まれた。


俺たちは秘密結社の勧誘のため街へ来ていた。

俺はタキシードを春樹はタキシードの上にお気に入りのファー付きのコートを羽織り髪をオールバックに固め海外ブランド製のグラサンをしてきた。

「今日、曇りだぜ?サングラスいる?」

「いる……フッ、それからサングラスではない!グラサンだッ!」


サングラスじゃなくてグラサンらしいどっちでも、どうだっていい。

それから、曇りなのに"サングラス"をして、夏なのにファー付きの熱いコートを聞いていることが信じられない。


こいつ、こんな厚着なのに汗一つかいてないんだせ?死んでるみたいだろ?(笑)


二人で外に勧誘しに行くと言うとクリスさんはメイド服から警備用の服に着替え春樹の護衛のためについてくるとか言って来た。


だったらと俺の采配で暇そうに見えたドアマンの二人を連れて街を歩いていた。

「暇だよね?」「暇では」「いや、ひまでしょ?ええ?」「はい……暇です」


なんて少々交渉があった気もしないでもないが、ついてきてくれた。




ドアマンの二人は二メートル越えの身長でスーツに紫色のネクタイ、サングラスをかけている。二人とも……。

最近流行りのペアルックとかいうやつだろうか。ふふ、キモいな。


いい歳して秘密結社に入りたい厨二病の素質をもつやつで常識的でなおかつ可愛い女の子はいないかと探していたわけだが、途中、真夏だというのに黒いロングコートを羽織り黒い手袋をはめて黒いニットを被ってサングラスを曇らせながら全身からおびただし汗を流す変態を見つけた。見つけてしまった。




俺は堂々と道を歩いていたその変態をみて、それから春樹をみて、ああ、真夏にコートを着てる変態が二人いるよ……と内心笑いながら、春樹に話しかけた。


「あ、みろよ春樹。お前のファッションセンスに合うやつがいるぞ!」


と言ったのが発端。

「あ、おい、やめろ」





春樹が苦言をいうのもつかの間カサカサという音がしそうな小走りで近づいてきた変態は、俺たちの前に来るなり頭を下げて、





「助けてください!追われているんです!!!!!!」と叫んだ。







少し離れたところでガラの悪そうな連中が、"いたぞ!あいつだ!"と叫びながら近づいてくるのも見えた。




こいつバカだ。





よし、こいつは放火マンにしよう。

もし秘密結社にコードネームがあるなら、観測者の俺は"オブザーバー"で人形使いの春樹は神話の人形に恋をした王から名前を取って"ピグマリオン "。

で、こいつは、炎を使うから放火魔……というのはひねりがないから、アメコミのスーパーヒーロー要素を入れて"放火マン"だッ!!!!!(やけくそ)


バーニングマンだか知らんが、結局放火魔じゃねえか!

バーニングマンのセンスが悪いとか言ってたがウルトライグニスもファイアマンもおんなじだろうが!にんなじかよ!

にてんだよ!アホ!


適当にガラの悪そうな連中を巻いて変態も確保した俺たちはファミリーレストランにいた。

この変態は、自分がいかに馬鹿なのか……じゃなかった。今までの経歴と最近何をしたのか、それから朝起きてあのガラの悪そうな変質者に追われるまでのエピソードを物語形式にして教えてくれた。

三行で言えよ。

てか変質者はお前だろって。


こいつは車の中で身の上を話した後、それからファミレスの中では正義の活動とやらをベラベラと話して自慢げに語っていた。


日本の物を牛耳る組織があってそんなのは許せない?…………うん、ただの物流会社ですね。


物を仕入れて下ろすだけで金をもらい不当に金を稼ぐ中抜きするような連中がいる?…………ただの仲卸業者ですね。


この真実を知って貰いたいと取引相手をSNSに公開した?………産業スパイですね。


弁護士とか裁判所とか国家権力を振りかざしてきたから正義の炎で対抗した?…………いやただの放火ですね^ ^



「春樹、ダメだこいつ、警察に引き渡そう」


「いや、こいついいかもしれない」


いい?いやいや、何を言ってやがりますか、貴方。こいつ360°上から見ても下から見ても真っ……真っ赤な放火魔やんすぜ!


「いやいや、まてよこんな奴どうせ懸賞金かかってるよ。


あ……。


………こいつ警察に突き出した方がよくね?懸賞金もらえばもっと資金増えてもっといい人材雇えるって!選ぼうよ、人間をさ」



「えぇーー、じゃあもっといい人いるのか?」


「いるよ、俺的にはちょっと厨二病で常識的で、女の子で、なんでも出来て、めんどく下がらずついてきてくれる人」


「無理だ、そんなやつはいない……諦めろ…」

何ため息ついてんだよ!お前の超能力設定も同じくらい非現実的なんだよ?ねえ、春樹クン僕に厳しくないですか……?


でも、中二病……という点は除いたら、いるよな。"常識的で、女の子で、なんでも出来て、めんどく下がらずついてきてくれる人"。ほら、お前のとなりにいるやつだよ!


「いるじゃん!クリスさんとかそうだろ!」


なんで気づかねえんだよ。お前のところ何てクリスさんに限らず沢山いるじゃねえか!近衛邸のメイドさんたち、いくら金貰ってんのか知らないけどなんでも付き合ってくれるよな。ああー、いいなー。俺も神主になってかわいい巫女さんに養ってもらいたいわー。



春樹は、人の目を気にせずクリスさんを抱き寄せた。


「フフフ……クリスほどいい女はそうそういないがな…」


「春樹様……」


変な含み笑いしやがってケッ。これだから金持ちは。ケッケッケ。


無駄に行動がイケメンな春樹は、クリスさんの手を取り顔をじっと見つめる。

それに対してクリスさんは目を潤ませ頰をほんのり赤くさせる。


あーあーあ!!

なんでだよ!褒めたのは俺だよ?!

ファミレスで、イチャイチャしてんじゃねえよ!!!!!


「リア充爆発しろ……っ(ボソ」

放火魔が舌打ちした。

おお、変態放火魔、いいこと言った!



「チッ、何見てんだよ……出てって下さい」


舌打ちして睨みつけてくるクリスさん。

ひっど……。

「え?今タメ口だった?おっ、これは脈あり」


「ねえよ」

「は?」


いや、二人してそんなまじで言わんでもええやん。イワンコフぎずついちゃいますぅ〜。


さっさと出てけよ。

目で会話する上等スキルに耐え切れなくなった俺は席から立った。


はい、はい、はい!

先に出ればいいんでしょう!


葬式よりも真っ黒な格好をしている変態放火魔を立ち上がらせ、それから無駄にデカくて圧がすごいドアマンの二人を連れて立ち上がろうとすると、"春樹は自分達の分は自分で払ってね?"といってにこやかに笑った。



「あ、オレ財布持ってません」

「我々も手持ちが……」「………(うんうん)」




は?


「お会計は以上で¥4860でーす」



「あざーす!」

「え?いいんですか?」「……(こくこく」


貴様ら鬼か!!




よくねえよ!


くそがぁぁぁぁぁあ!!!!!






結局、この変態放火魔とドアマンが食ったり飲んだりしたお金を全額俺が払って出てきた。

変態はまあ、置いといて、ドアマンの奴らガチムチで強面のくせにストロベリーパフェとかモコモコパンケーキとか食べてやんの……ぷぷぷ、くそわろた。

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