第5話 服の所為で誤解を受けて困っています!

 スラ◯ムの服を着た優衣は、美少女と言うより、かわいい男の子だ。彼女の体系は少年のそれに近いので、男物の服を着ていてもあまり違和感がない。


 あ、そうだ。チビと言われたのだから、言い返さなくちゃ!


「胸が小さくて良かったね!」


 にこやかに言い放った僕を、優衣が目を見開いて見つめる。


 こ、こわひ…………


 殴られる!


 そう思い、身構える。

 が――――いつまで待っても衝撃が来ない。


 あれ?

 僕は手を下ろし、優衣の方を――――


 ドガ!


 油断していた僕の顔面に優衣のドロップキックが炸裂した!


 一瞬だけ、意識が飛んだ気がする。


「なにするんだよ! 痛いじゃないか!」

「遺体にならなくて良かったじゃない。それに女の子を、平らどころか凹んでるだの、まな板よりも色気が無いとか言ってる、極悪人に人権は無いからいいのよ!」


 そこまで言った覚えは欠片ほどにも無いのだが…………。


『悪人に人権は無い』ってセリフ――――お前はどこの盗賊殺しロバース・キラーだよ…………。懐かしいな。


「ねえ優衣」

「何? 極悪人」


 極悪人って僕のあだ名?

 …………まあいいや。止めてと言っても、止めてもらえなさそうだし。


「服だけでも取りに帰ったら? 無いと不便でしょ?」

「でもその前に、朝ごはんにするわよ!」



***



「じゃあ、行ってくるわね」

「うん」


 優衣が玄関から家の外に出て行った。


 よし。うまくいったぞ。


 僕は玄関のカギを二重にかけ、チェーンブロックもした。

 これでもう、優衣は家に入ってこれないはずだ。


 ピンポーン♪


 ありきたりな音とともに、優衣が帰って来やがった。


「早く帰って!」

「あ? 何だと! ここを開けろ!」


 外から聞こえて来たのは男の声だ。


 優衣って男だったけ?


 不思議に思い、扉を開ける。


「あ、神代かみしろ


 玄関の前にいたのは優衣ではなく、特に外見的な特徴は無いクラスメイトの神代かみしろりつだ。


「で、いきなり帰れは酷いだろ?」

「ごめん。さっきまで変質者が近くにいたから、間違えちゃったんだ」

「…………災難だったな。とりあえずあがるぞ」

「うん。先に部屋に行っといて」


 神代が僕の部屋に入ったのを確認してから、リビングの冷蔵庫のジュースを取り出し、部屋に入った。


「お、おい…………」


 神代がこちらに背を向けて、震えている。


「どうしたの?」

「これ、誰の服だ?」


 床に脱ぎ捨てられている、優衣のスカートや下着を指差して尋ねる律。


 あ、不味い。片付けるの忘れてた。


 日々「リア充爆発しろ」と言っている神代に、僕に彼女(仮)が出来た事を知られたら、多分殺される。


 だから、彼に優衣の存在を悟られるわけにはいかない。


 なら!


「その服は、僕が着るんだよ!」

「!?…………………………………………」

「僕の日常には可愛い美少女がいないから、せめて僕が美少女になろうと思って……………………」

「……………………」

「……………………」


 長い沈黙。


「すまん。悪かった。邪魔したな」


 と、頭を下げられた。


「…………帰る」

「うん」


 神代が申し訳なさそうに、帰って行った。


 隠したいことは隠し通せたが、何か大切なものを失った気がする。



***



 しばらくすると、優衣が帰って来た。


「帰ったわよ」

「うん。そのまま帰って」

「いやよ」


 優衣が、少しはましな服で帰って来る事を期待していたのだが、その期待は見事なまでに裏切られた。


 なんと彼女は、半袖半ズボンという、元気な男子小学生みたいな服で帰って来たのだ。


 今はもう10月だよ。その格好で寒く無いのかな?


 まあいいや。

 あの「お前の人生、俺のもの」のシャツよりはましだろう。


「さあ、今日は恋人らしいことをするわよ!」

「はあ!?」

「早く着替えて」

「嫌だよ。僕は受験生なんだから」


 そう。僕は高校三年生。れっきとした受験生だ。

 だから時間がない。


「なら、川のほとりを二人で歩くわよ」


 川沿いを歩きたいという事だろうか?

 近くの川になら、気分転換しに行ってもいいかもしれない。


「どこの川に行く?」

「三途の川」

「さあ! 恋人らしいことをしに行くぞ! 着替えてくるね」


 僕は、極悪非道な脅迫魔に屈してしまった。

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