第24話なんでもある1日②
教室に入ると、当然の事だけど倉敷くんはすでに自席に座っていた。
あぁ行くの恥ずかしいなぁ何て声かければ良いのかなぁ。佐奈は当初の予定通り話しかければ良いって言ってたけど、やっぱりいざ目の前にすると、わかんなくなっちゃうや。
思考をグルグルと回しながらも、倉敷くんの隣——つまり私の席に着いてしまう。視界の隅でこちらに気付いた倉敷くんが何か言いたそうにしているのがわかる。
でもここは私が先に言わないと。さっきは失敗したけど、そう決めたじゃない。ちゃんと、ちゃんと言わないと!
倉敷くんの方を向いた私は、目をぎゅっと瞑り大きく息を吸い込むと、
「あの、神泉さ——」
「倉敷……くん! あの、おは……おは……おはしゃすっ!」
言えたーーーー!! 相変わらず噛むけど、そこは問題ではない。問題はここからだ。顔を……顔を逸らさないで私! いつもここでプイッと明後日の方向を向いてしまうのが私の癖だ。ちゃんと倉敷くんの顔を見て言うんだ。
真っ赤な顔でぎゅっと瞑った目をゆっくり開けると、倉敷くんは驚いた様子でこちらを見ていた。
「あ、あの……倉敷くん?」
「え!? あ、うん、おはよう! ありがとう神泉さん、こっち向いて言ってくれたね!」
はい言いましたぁ! ちゃんとあなたを見て言いましたよ私! 倉敷くん喜んでくれた。嬉しい嬉しい嬉しい……っ!
「うん、いやまぁ別に……」
しかし私の中の限界がきたようで、喜んでくれた倉敷くんからついに目を逸らし、そのまま自席へ着席してしまったのだった。
視線を前に向けると、一連の流れを見ていた佐奈が私へガッツポーズを向けている。できたよ佐奈!
ふふふ、言えた言えた。なんだよ、普通にやればできるじゃない私。朝あんなことをしなくてもよかったなぁ。ま、これも経験てことで……アレ? なんか大事なことを忘れているような……。視界の隅に映る倉敷くんも、なんかこちらを見てソワソワ気にしているようだし……あっ。
思い出した私は、耳の先からつま先まで真っ赤にしつつ、倉敷くんの方へ勢いよく向き、
「くくく倉敷きゅん、あああああの朝のあれはね、しょの」
「大丈夫だ神泉さん! 俺は何も見ていないから、逆光で視界が白に覆われ何も見えていないからぁ!」
「んんんんっ!?」
白で正解だようわあああああぁぁああああん!
真っ赤になって固まった私に、親指を立ててサムズアップをする倉敷くんであった。
◇◇◇
お昼休みが終わり、次の授業ではDVDを観せられるとのことなので、私たちは視聴覚室にやってきました。
視聴覚室はホール型で、後ろに行けば行くほど高い位置に座ることになる。席は二人一組で座るタイプのもので、基本的にはクラスの席順のまま着席となる。
席に座って待っていた私の隣に、少し遅れて倉敷くんが到着する。
「はぁ間に合った。危ない危ない」
「あ、倉敷くん。遅かったね」
「ハハ、今日購買すごい混んでてさ。いつもより買うの大変で……、あっ隣座っても?」
「もももちろん……」
俯く私の左隣に、倉敷くんが滑るように座る。この机や椅子は教室の机を二つくっつけた程度の大きさなので、自然とお互いの距離が近くなる。席順に座るのだから、私の隣は必然的に倉敷くんになるのだが、それでも隣に座ることの許可を取ってくれるのは紳士的と言わざるを得ない。素敵すぎん?
「視聴覚室での鑑賞って教室を暗くして、大きなプロジェクターで写すんだよね?」
「う、うん。そのせいでみんな寝ちゃうみたいだけどね」
部屋を暗くされて興味のない映像を観させられたら、そりゃあ眠くなってしまうよね。
チラと横目で倉敷くんを見ると、大きなあくびをしていた。
「倉敷くんも、寝ちゃいそうだね」
「お昼の後だしね。それに昨日もちょっと夜更かししちゃって、寝不足でさぁ。そうそう、この前話したアニメなんだけどね」
そんなつもりはなかったのだが、倉敷くんの変なスイッチを入れてしまったらしい。以前一緒にご飯へ行った際、倉敷くんの趣味はアニメやゲームなどの所謂オタクであることを教えてもらっているので、私にそのことを話すのに抵抗がなくなったらしい。
私としても目を輝かせて楽しそうに話す倉敷くんを見ているのは好きなので、全く構わない所であるが。
「今度そのアニメのブルーレイ持ってくるから、神泉さんも是非見てよ!」
「う、うん。倉敷くんの好きなものだったら、私も見たい……かな」
「本当!? そしたらあのアニメとこのアニメと、後今度このアニメの映画があってね〜……」
「あ、あはは……」
私なりに精一杯の倉敷くん好きアピールをしているつもりであるが、倉敷くんのアンテナには引っかからなかったらしい。トホホ……。
そうこうしていると、視聴覚室に先生が入ってくる。それまで騒ついていた部屋内は静かになり、授業が始まった。
最初の10分は軽い講義が行われ、その後にDVDの再生となった。視聴覚室内の電気も消され、前方に映し出された映像の光のみが発せられる。
—10分後—
どれほど時間がたっただろうか。興味のない映像を見ていると本当に眠たくなる。以前の私だったら既に爆睡していただろう。
しかし今の私は違う。そう、私のすぐ隣に……倉敷くんが座っているのです!
もうね、ちょっと大きく身じろぎするとお互いの肩と肩がぶつかる距離に倉敷くんがいるの! いつぶつかるかわからない距離にいると、肩から腕には常に神経が過敏に通い、ひょんなことから倉敷くんと当たってしまえば声が漏れてしまいそうなほどの緊張状態に陥っているの!
これはこれで時間の経過がものすごく遅い……果たして私の心臓は保つのだろうか。落ち着くために辺りを見回すと、ちらほらと眠っている人が目に入る。まぁそうだよね、お昼直後だし。いっそのこと、私も寝てこの緊張状態から解放されたい……。
そういえば、倉敷くんも暗くなってからピクリとも動かなくなってしまった。私と同じで緊張しているのだろうか。そうだったらちょっと嬉しいな。緊張するってことは意識しているってことだし、そうしたら私もまだワンチャン——。
すると突如、左肩に何かがのしかかる。その突然の衝撃にビクリと体を震わせた私は、ゆっくり視線だけ向けるとその正体に気づく。耳のすぐ近くに聞こえる息遣い、首下をくすぐるように当たる男子特有の短い髪の毛、私の大好きな優しい目を閉じた瞼、そう……倉敷くんの頭である!
「えっ……?」
えええええええっ!? 私の肩に寄りかかって、寝てるぅ!?
ど、どうしよう。起こした方がいいのかな? でもこんな機会もうないかもだし、もう少しこうしていたい気も……あぁどうしよう!
ピクリとも動けなくなった私は、さらに緊張状態に陥ったのだった。
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