第3話質問大作戦

 倉敷くんにクッキーを渡して数日が経った。あれから、毎朝倉敷くんは私に挨拶をしてくれるようになり、私の気持ちはフワフワしっぱなしである。まぁ、相変わらずおはようがちゃんと言えず「おはしゃす」って言ってしまうけど、そこはご愛嬌だよね?


「__り! __おり!」


 ちゃんとお話できるようになりたいけど、今の私には中々難しそう。挨拶でこんなにいっぱいいっぱい何だもの。少しづつ慣らして、ちゃんと倉敷くんの顔を見ても怖い顔しないようにならなくちゃ。

 まぁそれでも私は今のまま充分な……__。


「栞里ってば!」

「ふぅ!? びっくりしたなぁもう。なによ佐奈」

「あたしの話聞いてた?」

「……」

「はぁ、まーた倉敷くんのこと見てたでしょ」

「ギクリ」


 図星である。私の席から少し離れた斜め前方に、倉敷くんの席はある。授業中や暇な休み時間になると、意識しなくてもついつい目が追ってしまうのだ。時折、ずっと見過ぎてて倉敷くんと目が合う時があるが、そんな時はもうこれでもかと言うくらい高速に俯いてしまう。笑顔でも向ければ可愛らしいだろうに……。

 むしろ、私のこの仏頂面で見られてるって、下手したら睨まれてるって思われてないかな?


「ねぇ佐奈、いきなり私と目が合ったら、やっぱり怖いかな」

「まーた栞里の悪い癖が出てるよ。栞里はちゃんと可愛いんだから、自信持ちなさい。はい笑顔笑顔」

「に、ニカ……」

「口で言ってるだけじゃない……」

 

 やっぱり私に笑顔は無理だ。無理に笑ろうとすると頬が引きつり、もう見れたものじゃないだろうし。


「それにしても、栞里の頭の中は倉敷くんでいっぱいねぇ。嫉妬しちゃいそうになるわ」

「いっぱい何てそんな。私何てまだまだ……」

「どんな謙遜よそれ。でもあんた、そんな倉敷くんずっと眺めていたって、何も進展しないわよ?」

「進展?」

「はっ? あんたまさか一生このままで良いとか思ってるんじゃないでしょうね」


 進展とは、何のこっちゃでしょうか。私と倉敷くんにこの先があるとでも……この先?


「好きな人ができたら、相手にも好きになってもらいたい、いつかは付き合いたいって思うものでしょう」

「付き……合う!?」


 えっ!? 私と倉敷くんが!? そんなこと考えたこともなかった……。初めて好きな人ができて、挨拶できるようになってふわふわして、眺めてるだけで幸せになってて。


「あんた、本当に高校生? 幼稚園児か何かじゃなくて?」

「佐奈って時々毒吐くよね」

「この程度で毒とは頭お花畑か」


 まぁ佐奈のこれはいつものこと。長年付き合いがあるからそこまで気にしないけど、その先かぁ。


「栞里、倉敷くんのこと好きになるのは良いけど、彼のこと実は何も知らないでしょ?」

「ウッ……」

「倉敷くんの家族構成は? 好きなタイプは? 好きなスポーツは? 趣味は? 好きなおかずは最近使うおかずは好きな好きな好きな好きな……!」

「な、何もわからない……」


 まさに青天の霹靂……目から鱗、寝耳に水ッ! 頭をトンカチで殴られた気分。私、何も知らなかった。


「どどど、どうしよう佐奈。私、倉敷くんのこと、何も知らない……」

「全く、初恋だからって奥手すぎるわこの天然娘め」


 私は天然だったのだろうか。いや、初めての恋何だから仕方がない。とにかく、もっと倉敷くんのことを知らなきゃ……。

 何だか知らなきゃって思い始めたら、どんどん気になってきた気がする。相手の色んなことを知りたい……これも恋の現象の一つ何だろうな。

 胸の奥で鳴り響く鼓動を抑え、佐奈の方をチラと見ると、何やらお得意のメモ帳を取り出し不敵な笑みを浮かべていた。


「ふふふ、栞里。これがあればもう大丈夫……」

「私、何だかすっごく心配何だけど……」


 佐奈がメモ帳の一部を抜粋したカンペを、私に渡してきた。


◇◇◇


 帰りのホームルームが終わり、各々が荷物をまとめて席を立つ。私も荷物をまとめ、いつもなら佐奈と帰路に着くところだが、今日はその前に一仕事残っている。

 倉敷くんの情報を集めるのだ!

 た、たまに倉敷くんから帰りの挨拶をしてくれることもあるけど、今日は私から行くんだ。行って、そのまま雑談がてら、さっき佐奈がくれたメモ用紙の内容を聞かなくちゃ……!

 チラと倉敷くんの方を見ると、まだ荷物を片付けているところだった。もうちょっとしたら倉敷くんのお友達がやってくるだろう。そうしたらお話なんてできなくなる。ここは先手必勝で!

 足早に倉敷くんの下へ近づくと、それに気づいたのか、倉敷くんもこちらを見やり。


「あ、あの、倉敷……くん……その」

「あぁ神泉さん、どうしたの?」


 やっぱりお話となると緊張する!

 でも、私がどもっているといつもどうしたのって気にかけてくれるところとか本当優しい! 緊張している私は余計瞳が小さくなって三白眼が強調されてるだろうに、怖がらないで見てくれるの優しい! あぁもう全部優しい!


「……? あの、神泉さん?」

「ふぇっ!? あ、あのごめ、ごめんなさい。あのね、聞きたいことがあって……」

「聞きたいこと? 良いよ、何でも聞いて」


 ダメェこれ以上優しくしないで! 質問とかどうでも良くなっちゃう!

 私は溶けるような優しさに何とか対抗し、手元のメモ容姿をチラ見する。


「あ、あのね。本当に大したことじゃないんだけど、その、倉敷くんって、何人家族?」

「え、か、家族? まぁ、俺は一人っ子で三人家族だよ」

「そ、そう。一人っ子なんだ。私は弟が一人」

「へぇ! 神泉さんってお姉ちゃんなんだっ! しっかりしてそうだもんね!」


 お、おう。なんだこれ、意外と盛り上がっているぞ。ちゃんと雑談できてるぞ私。スゴイぞ私。

 これならまだまだいけそうだ頑張れ私!


「う、うん。じゃあ次の質問ね」

「え!? じゃあ!?」

「えと、好きなタイプは?」

「好きなタイプ!? え、好きなタイプ!? えぇと、そのなんというか、大人しいんだけど、でも実はとっても可愛らしい人で、意外と手作りのお菓子を作ったりしてくれる人で……」

「ふーん。じゃあ次」

「うえぇ!? ふーん!?」


 なんか倉敷くんがびっくりしてるけど、何だったんだろう。まぁとりあえず、今は色々聞かないと!


「好きなスポーツは?」

「や、野球?」

「趣味は?」

「アニメ見たりゲームしたり」

「好きなおかずは?」

「ハンバーグ」

「最近使うおかずは?」

「しん……__ってちょぉぉぉ!?」

「え?」

「『え?』 じゃないよ神泉さん言ってる意味わかってます!?」


 何やら倉敷くんが顔を真っ赤にしているが、一体どうしたのだろう。手とかスゴイアワアワしてるし敬語になってるし。


「え、あのどうしたの?」

「どうしたのって、神泉さんがどうしたんですか!?」

「私はただ質問をしてて……」

「最後の質問、神泉さん意味わかってます?」

「……。……?」

「その顔はわかっていない顔だね……」


 良くわからないけど、何だか倉敷くんがすごくゲッソリしている気がする。私と話すのに疲れちゃったのかな。


「あの、倉敷くん。その、迷惑だった……?」

「え、いや、全然迷惑じゃないよ! ただビックリして……」

「それで、最後の質問の意味何だけど……」

「あ、ごめん友達が来ちゃったみたいだから、じゃ、じゃね神泉さん! また明日!」

「え、あ、うん。また、明日」


 最後の質問をしたところ、倉敷くんが急いで帰っちゃった。一体どういう意味だろう。

 帰ったら調べてみようかな。

 ……それはそうと、今日はいっぱいおしゃべりしてしまった。倉敷くんのこともたくさん知れたし、今日はスゴく良い日だったなぁ!


「さて栞里ちゃん。ちゃんと聞けたかね?

「ねぇ佐奈。この最近のおかずって奴だけ倉敷くん答えてくれなかったんだけど、これどういう意味?」

「それは自分で調べな、このカマトト女!」

「やっぱり最近毒が強い気が……」 


 まぁでも、佐奈のおかげで倉敷くんのこと色々知れたし、今日は許すとしよう。今の私は期限が良いのです。


◇◇◇

〜その夜〜


「結局あの『最近のおかず』ってどういう意味だったんだろう……調べてみよう」


 お風呂から上がり、ベッドの上に寝転んだ私はスマートフォンで検索をしてみる。


「えぇと、おかずは主食の副菜に用いられる言葉……まぁそうだよね。それ以外に使い道なんて……。あれ他にも書いてる。えぇと、おかずとは〜……え?」


 え? え? え?

 え、そんな、え? こんな意味が? 私こんなこと倉敷くんに聞いて?

 ウソ、え、ちょ、え……__。


「さ、佐奈ーーーーーーーー!!!!!」


 次の日、佐奈にこっぴどく怒りましたとさ。

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