第69話 とんでも発言


「え~っと……ティアさんの夢を聞くのが怖いので、聞かなくてもよろしいですか?」


 ティアには悪いが、ろくでもない夢な気がしてならない! 触らぬ神に、祟りなしだ!


「なんでそんなこと言うんですか? 聞いて下さいよ~カナデ様……」


 いやだね! 聞きたくないね! 確かに、ここは聞く流れかもしれない。しかし、それを考慮した上で拒否したい! 俺は相手にしないぞ? 断固として抵抗して見せ……。


 すると突然、俺の様子を見たティアは、両手で顔を隠し泣き声をあげ始めたのだ……。──こ、これ、端から見たら間違いなく俺が悪役だ……。


 でも、ティアのやつ……時折指に隙間を開け、俺の様子を確認してるのだ!──ず、ずるいぞ!


「あ~もう! 分かりました。聞きますよ……聞けばいいんでしょ?」


 泣き真似をしてまで聞かせたいのか……。まぁ聞くだけだ……万が一にも、実害はないだろう。


──覚悟を決めろ! 俺!


  深く……ふか~く深呼吸をして、両手で自分の顔をパンパン! っと二度叩いた。


「さぁ、こい!」

「──どれだけ聞きたく無いんですか!」


 何れだけって……両手じゃ言い表せないぐらい?


「そんな嫌々なら、もう言いません! 聞かないで下さい……」


「──え? じゃぁ聞きません。止めておきます」


 そう言って、俺はそそくさとトゥナとハーモニーがいるギルドの中に向かって歩き出した。


「いやいや、気を引くための嘘です! ごめんなさい、行かないで下さいよ! カナデ様、聞いて下さいって!」


 彼女が服を掴み、引っ張るものだから「え…やっぱり聞くんですか…?」と、渋々質問した。


「言いますよ言わせてください!」と、涙目になりティアは懇願したのだ。

 何度も「おねがいします」っと頭を下げる彼女を見て、今度こそ俺は諦めることにした。


「はい……。ではどうぞ」


 この人どれだけ、その夢を語りたいんだよ……。


「私の夢は…………」


 そう言って長々と溜めた後、あまりにも予想外の夢が彼女の口から語られたのだった……。


「フォルトゥナ様の、子供を孕みたいです!」


 彼女の発言の理解に苦しんだ。異世界では女性同士が子供を作ることが出来るのだろうか?


──って、そんなわけないだろ!


「やれるものなら、ヤってみろ!」と、俺は大きな声でツッコミを入れてしまった。


 まったく! とんでもないことを口走りやがって……ちょっと想像しちゃっただろ!

 トゥナを見たら想像してしま……──。


「──カナデカナデ? 子供ってどうやって作るのかな?」


──次はこっちかよ!


 マジックバックから、可愛らしく顔を出すミコ。うちのミコさんは、質問されたく無い質問を、あえてピンポイントでチョイスしてくる所があるな……。

 おそらく相手の嫌がる所をつくスキルが、俺限定に発動しているに違いない……。


「秘密共有できるのが、カナデ様だけなので……私、とても嬉しいです」


 そうか……それは良かったですね? 分かりましたからクネクネしないで下さい……。イメージを、これ以上壊さないで下さい!


「どうするのカナ? どうするのカナ!」


 う~ん、どうするのかな? 不思議だね?


……誰か、俺を助けてはくれないか?

 

 頭を抱えて悩んでる俺に「カナデ君達、何してるの?」と、女神の声がした。

 声の方に振り向くと、ソコにはエルピスの癒し枠? の二人組が立っていた。


「どうするのムグッ──!」


 質問を続けるミコの口を慌てて塞いだ。彼女達にこんな事聞かれたら、何を追求されるやら……。


「二人とも、何か収穫があったのか?」


 俺の言葉に、二人して暗い顔をする。そして、言い出しにくそうに口を開いた。


「カナデさん……悪い話が一つと~」

「カナデ君、かなり悪い話の二つあるけど……」


 斬新だ……悪い話ししかない二択とは。これ程までに、神様は俺に悪い話を聞かせたいのか?


 まぁ……この町に来た時から、悪い情報なのだろうとは予想していた訳だ。それが二つとは思っていなかったけど。

それに、彼女達は知らない。すでに一件、とびっきり悪い話を聞いたばかりだ。とび~~っきりのやつを……。


「まずは悪い方の話から聞くよ」


「分かりました。どうもこの町に向かって、グローリア城から兵士が向かってるようです~。だから、カナデさんはなるべく早く国から出られる事をお勧めします~……」


 グローリア城から……兵士が? むしろ今まで、順調に逃げれていた事がおかしいわけだしな……。早々に国を出れば鉢合わせる事もないだろう。


「じゃぁ、もうひとつのかなり悪い話って?」


「あのね? カナデ君……。結論から言うと、今この町からは船は出てないわ」


 やはりか……薄々は感じてたけど船が出ていないのか。


「二人の事だ、もちろん理由も聞いてきたんだろ?」


「えぇ……。ここ最近、この港の近くにワイバーンが住み着いたらしいの。出入りしている船を襲っては食料を奪っているみたいね……」


 ワイバーンってドラゴンの一種だったよな? 流石異世界……この世界にはそんな物騒なものまでいるのか?


「じゃぁこの港を出て、別の港町に向かった方がイイよな?」


「カナデ君残念だけど、今はリベラティオに向かう船はこの港からしかでていないわ」


 まじか! それはまずいな……。


「船の食料を当てに、この辺りに住み着いたのであれば、非常に不味いですね…」


 ティアは、考え込みながら意味深なことを呟いた……。それを聞いた俺は、彼女の言葉から一つの可能性に行き着いた。


「それって、船の食料が当てにできないなら……もしかして町を襲うって事か!」


 俺の言葉を聞き、エルピスのメンバーの顔つきが変わった……。

 ティアを見ると「可能性の話ですが……」と、一言呟く。


「私はギルドにワイバーンの、細かい情報を仕入れに行ってきます! エルピスの方々は港で、あの船の乗組員を探して動いた際の出港手続きをしておいてください」


 ティアが指さす先は、停泊している船の中でも一番に大きな船であった。


「ギルドの連絡船です。私の名前とギルドカードを出せば手続きは出来ると思います」


 その一言を残し、彼女は慌てる様にその場を後にした。


 もしかしたら、ここに来る兵士はワイバーンの討伐が目的なのか?


「どのみち、今は立ち往生してるわけだし、ティアさんの言う通りに動かない? それでいいかな、カナデ君?」


「あぁ、どっちにしても船は必要だしな?」


「私も異論はありませんよ~」


「賛成カナ、賛──ムグッ!」


 バックから身を乗り出すミコを中に押し込んだ。そしてこの後すぐ、俺達はギルド船の船員を探しに向かったのだった。

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