きっとその声を覚えてた

i & you

プロローグ あるいはいつかのエンディング

また、雨が降っている。

僕の数少ない外出。その度に、決まって雨が降る。まるで神様が僕を外に出したくないかのように。

けれどそうではないのかもしれない。

僕が家にいるときにも雨が降っているのかもしれないし、僕が見ている時以外その世界は存在していないのかもしれない。

見たことにより、確認したことにより存在する世界。

見ていないのだからそこにあるのかどうかは分からない。まさにシュレーディンガーの猫。

ああ──そこまで考えてふと気づく。

彼処に虹がかかっている、と。

決して大きな虹ではない。

決してはっきりとした虹ではない。

小さく、薄く、ビルの間から少し顔を覗かせている虹。

雨が降るからこそ虹がでる。

なんてレトリックな曲にありがちな陳腐なそんな台詞が、ひょっとしたら事実になりかけているのかもしれない。


「さて、と。」

僕はまた歩き出す。

あの虹のふもとへと。

僕の大切な人。大事な人。必要な人。いなくなったら寂しい人。仲のいい人。気丈な人。病弱な人。寂しがり屋な人。泣き虫な人。

そして。

大好きな人。

さて今日は、君に会いに行こうか。

いつかあの日に出会った、

あの場所で。

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