第8話 彼の虜

「おはよう、朋絵、これからも一緒だ」

拓哉はそう言うと、優しく抱きしめてくれます。

私は彼の背中に手を回し、耳元で囁くように言いました。

「大好き」

そうすると、彼は嬉しそうな顔をしながら再び唇を重ねてきました。

それから数時間程経過した頃、外が明るくなってきたため二人でシャワーを浴びた後、朝食を取りました。

その後は、部屋でゆっくり過ごしました。

テレビを見たり、お喋りをしたりしている内に時間も経っていき、出発の時間となりました。

電車に揺られて最寄り駅に着くと、地元の駅へ戻って来ましたので、

改札を抜けて家の方向へ歩いていきます。

暫く歩くと私の家が見えて来たので拓哉と一緒に家の中へ入りました。

玄関先でキスをしてからリビングへ向かいましたが、義母からのお帰りの挨拶はなかったです。

私達の寝室に入り着替えを終えると夕食の準備に取り掛かりました。

その間も私達は、お互いを求め合うような濃密な時間を送っていましたが、突然、義母が寝室へ入ってきたのです。

彼女は私達の姿を見ると、驚いたように目を見開いた後、無言で立ち去りました。

その後、しばらくの沈黙の後、彼女は何も言わずに部屋から退出してしまったのですが、

何かを呟いた様にも思えましたので気になったのですが、後で本人に確認すればいいと判断してあまり考えない事にしました。

夕食の時にも義母の態度は変わっておらず、一度も口を聞かなかったように記憶しています。

そのまま、就寝時間となってベッドへ入った後、彼にキスされるのです。

「なあ、朋絵、俺の事好きか?」

「もちろん、好きだよ」

と答えると彼は少し恥ずかしそうにしつつ、私の事を抱き締めました。

そして耳元で囁いたんです。

「俺もお前が好きだよ」

その瞬間、とても嬉しくなってきましたので私も彼に抱きつき返しました。

それから、見つめ合った後、再びキスをするのでした。

「拓哉、大好き、ずっと一緒にいてね? 絶対に離さないでくれるよね?」

私が尋ねると、彼は笑顔で答えてくれました。

そして、私達は抱き合ったまま眠りについたのです。

次の日の朝食の席で義母が話しかけてきました。

私は、内心緊張しつつも平静を装っていました。

そうすると、彼女はこんな事を言って来たのです。

「朋絵さんは、本当に拓哉さんと結婚したいんですか、

もし違うというなら考え直してみませんか? 今ならまだ間に合うはずですよ」

そんな言葉が飛び出して来たので驚きと共に怒りが込み上げてくるのを感じました。

しかし、私の代わりに反論したのは義母ではなく拓哉本人でした。

拓哉の言葉を聞いた私は胸が締め付けられるような痛みを味わった後、思わず涙が溢れてしまいましたが、

彼の力強い言葉に救われて立ち直る事ができたと思います。

そして改めて自分の気持ちを正直に伝える事ができました。

私の思いを聞いた義母は、それ以上何も言わずに立ち去ってしまいました。

「大丈夫か、朋絵、すまなかった、嫌な思いをさせるつもりはなかったんだけどな」

そう彼は言ってくれて、 抱きしめてくれました。

「ううん、私の方こそ取り乱しちゃってごめんなさい、でも嬉しかったよ、本当にありがとう」

私がお礼を言うと、彼は微笑んでくれたので、私もつられて笑顔になりました。

こうして私たちは家族としての関係を築き上げてきました。

今でも彼との関係は良好ですが、義母との溝は未だ解消できていおらず、

私達が結婚する時には、大きな壁になっている事は間違いありません。

ですが、彼と一緒にいる限りは何の問題もないでしょうし、

乗り越えられると思っておりますので心配はないと思っております。

「朋絵、そろそろ出かける時間だぞ」

彼が私を呼びに来たので、私はすぐに支度を整えます。

そして、彼と手を繋いで、家から出ると、私達は駅に向かって歩き出します。

途中でカフェやコンビニに立ち寄って軽く買い物を済ませた後、電車に乗り込みました。

座席に座るやいなや、彼は私を抱きしめてきました。

私もそれに応じて彼を抱きしめ返すのですが……やはり周りの視線は厳しいように感じてしまい少し気まずくなりますが、

それでも彼が私を大切に思ってくれている事が実感出来て嬉しかったです。

そんな幸せな時間を噛み締めていると、いつの間にか目的駅へと到着していました。

「それじゃあ、行こうか」

と、言って私の手を引き駅のホームへと降りる拓哉にエスコートされる形で到着した私達は、

駅を出て、自宅に向かって歩いています。

途中、何気ない会話をしたり、ちょっとデートのような雰囲気を楽しんだり

しながら歩くだけで心が満たされていく感じがして幸せで、

これからもずっと一緒に居て欲しいという願望が強まってくるのを感じます。

そうすると、急に立ち止まった拓哉が私の方を見て微笑んでくれたので私も微笑み返しました。

「本当に可愛いな、朋絵は、誰よりも魅力的な女性だよ」

彼はそう言うと、いきなりキスをしてきたのです。

初めは唇が触れ合うだけの軽いものでしたが、

次第に啄むような口付けに変わり最後には舌を絡め合う大人のキスをしていました。

彼の舌の動きに翻弄されながらも必死に応えていると、次第に身体の奥底から何か熱いものが込み上げてくるような感じがしましたが、

(ダメですよ! そんな事……でもやめられない!)

今度は私の舌が彼に導かれてしまいました。

私は完全に彼の虜になっており、彼が与えてくれる快感に支配され続けていたのです。

それから暫くの間、私たちはお互いに貪るような激しい口付けを延々と交わし続けていましたが、先に限界を迎えたのは私の方でした。

身体が脱力していき、立っている事さえ困難になっていた程でしたので、その場に座り込んでしまうと、

そのまま仰向けに倒れ込んだところで、彼が覆い被さってきて、また唇を重ね合わせてきたのです。

「朋絵、愛してるよ」

そう言って今度は激しく求められ、それに応える形で私の身体は素直に反応を示していく。

(あぁ~もう駄目だよ~気持ち良いよ、拓哉の舌凄いよぉ)

彼の舌が口内に入り込み、蹂躙するかのようなキスが繰り返されていく度に頭の中が真っ白になります。

やがて思考能力が奪われ、彼の事しか考えられなくなりました。

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